ツキシキ
2023-07-01 21:49:42
10919文字
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★母なる湖は城を抱きまとめ

3作品。二次創作。


実はファンダムって大人だよなあ


ウィルの人生相談。最後に少しだけサンが出てくる。時系列は本編クリア後。
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 そのつむじ風のタイミングは絶妙だった。オレとファンダムが座り込むその前を、通りすがった女の人。ああうちの近所の、と思ったその拍子。誰かが意図的に起こしたんじゃないかと思えるほどだった。先に言っておくと断じてオレじゃない。
 気まぐれな風はあくまで自然に、それはもう都合よく、お姉さんのスカートを煽ってふわりと浮かび上がらせた。うん。見た。
 そしたらすぐさまお姉さんが振り返ったもんだから、オレは慌てて横のファンダムに視線を向けた。オレは無実ですよってフリをするついで、この、普段はちょっとスカした感じの彼が、目の前の事態をどうやって誤魔化すのか見てみたい気持ちもあった。けれどもファンダムは足元を眺めていて、珍しく、そりゃもうとっても珍しく、あのお姉さんには意識を向けていないように見えた。明日は槍が降るかもしれない。
 お姉さんはオレ達を見てどう思ったのか、とりあえず気づけばいなくなっていて、それでも念のためにしばらく待ってから、オレはファンダムに声をかけた。

「なぁ、見た?」
「純白がよく似合う可憐な方でしたね」
「見てんじゃん!!」

 思わず大声で突っ込んでしまう。さっきの態度はなんだったんだ!
 すると相手は片眉を上げて、オレの疑問が不可解だと言いたげな表情をした。

「魅力的なものに目が行くのは自然なことですよ」
「見てないフリしてたくせに」
「大人の処世術です」
「うわーおとなってきたないー」

 一気に脱力する。なんか、この人と話すと疲れるのはなんでなんだろう。そんで、そんな人を相談相手に選んじゃったオレもなんでなんだろう。答えは決まっている。消去法だ。自分でもあまりにいかがなものかという人選ではあったけど、この里以外の大人って言ったらもうファンダムとアイアスしかいなくて、オレが探している答えは多分、この人しか持っていないはずだった。

「さて。人も居なくなったことですし、話を聞きましょうか」
「んー……

 せっかくパスをもらったけど、悩み事を口に出すのはどうにもやりにくい。オレがもごもごと言い淀んでいると、

……恋バナですか?」

 今度は爆弾が飛んできた。

「男同士でそれはどうかと思う」
「そうでもないですよ、青臭い春を感じます」
……

 この人相手に本気になるのは、失敗のような気がしてきた。が、そうなってしまうと今度は、悩みを言い出せない自分の弱気をファンダムのせいにしてしまっているようにも思えてくる。そもそもさっきお姉さんが通りすがった時だって、この場にオレさえいなければファンダムはなんだかんだと上手い理由をつけながらナンパを始めていたんだろう。そうなると、まあ、話を持ちかけたオレのほうから「やっぱやめ」なんてことを言う訳にはいかない。
 オレは大人しく腹をくくることにした。

「あのさ。ファンダム達のギルドってどんな感じなんだ?」
「良いところですよ。そうですね、例えば……仕事量も質の差はあれど不足はありません。最低限の生活費くらいなら安定して稼げるはずです。素性が曖昧な人間も受け入れているのでたまに荒事は起こりますが、その分自浄作用も働いています。まあ、僕らもまだ入り立てなのであくまで表面上のことしかわかりませんが」
「ふぅん……

 色々と言われた内容からひとまず一部だけすくって、ファンダム達はまだ新入りだったのか、と意外に思う。戦いっぷりは慣れてるように見えたけど、オレの知識で参考になるのは素人同然な里連中と父さんくらいしかいないから、振れ幅が大きすぎてズレてるのかもしれない。

「ギルドについてなら、僕よりアイアスさんのほうが詳しいと思いますよ。あの人はギルド内でも“竜殺し”の異名で噂になっていますから」
「ん、いや、ギルドについてっていうか」
……?」
「なんかさ。オレとりあえず、父さんみたいにすげぇ奴になってやるぞーって思って。けど今回の城のどうこうで、とりあえず、ああいう突っ走るのは違うなって、思ったんだけど」

 言いたいことはたくさんあったはずなのに、いざ言葉にしてみると上手くまとまらない。つっかえながら話す自分にもどかしさを感じながら言葉を掴む。

「オレさ、いつかは家を出ていくことになると思うんだよ。じゃないと勇者なんてとてもなれないと思うし。けどさ、それって結局いつなんだろうとか思うし、なら動くかって言って、書き置き残して旅立つのはちょっと違うなって気がするんだ」

 いったん言葉を切って、一息つく。すると途端に自分の言ったことが、なんだか想像以上に子どもっぽく情けなく感じてしまった。ファンダムのほうを見ていられなくなって俯いた。この焦りを、どう説明したらいいのかもよくわからない。

「何かしなきゃなあって思うんだけど、やり方ってどう見つけるんだとか。思い始めたらわけわかんなくなって……
「で、先人の知恵を得ようとしたと」
「そんな感じ」

 ぐるぐると行き場をなくした言葉の先をファンダムが引き取って、良い感じにまとめてくれた。そう、オレは多分、先輩が欲しかったんだ。アイアスなら深みのある言葉をくれそうな気もしたけど、オレがアイアスくらいの歳になった時というのは正直ちょっと想像がつかなかった。まだファンダムのほうが近い、気がする。二人のちゃんとした年齢は聞いたことがないけど。

「そうですね、僕らの場合は何分故郷を出た理由がちょっと特殊なので、参考にならないでしょうから……

 そう言って今度はファンダムが黙る番だった。一点を見つめながら言葉を探すその姿に、何故かオレは緊張してしまう。

「言ってしまえば、悩めるうちが華だと思いますよ」

 けれども返って来たのはこんな、答えになっていないような答えだった。不満が顔に出ていたのか、こちらを見たファンダムが苦笑する。なんだかその態度すらも、余裕ぶっている感じがしてムっとした。
 ファンダムはオレが少し不機嫌になってしまったのに目ざとく気付いて、言葉を続ける。

「例えば君と、君の御父上とで違うところと言われれば、何が思いつきますか?」
「そりゃ」

 オレは指折り数えてみる。強さ、経験、体つき、大人と子ども。里での信頼、名声、倒した魔物の数。

「ありすぎて言い切れないよ」
「それは何より」
「良くない。オレは全然敵わないってことだろ」

 言い返すと、ファンダムはきょとんとした。初めて見る顔な気がした。

「おや。異なることと劣ることは違いますよ」
「?」
「こればかりは僕が言ってしまっても意味がありません。大いに悩んで下さい」

 オレは続きを求めて視線を向けたが、ファンダムは唇を上げるだけだった。これ以上のヒントはもらえないらしい。どうも回りくどい話ばかりだったけど、なんとなく、何か引っかかりは感じていた。それが多分、これからに向けた大事な欠片であることも、なんとなくわかった。ここからオレはまた悩むことになるんだろう。別にそれも悪くないと、頭の隅っこで思いつつも、やっぱりオレの身体は行き場のない焦りでふつふつと熱くなっていた。
 そんなオレを見透かすように、ふと、ファンダムが言った。

「僕らと一緒に来ますか?」
「へ?」

 予想外の言葉にすっとんきょうな声が出た。けど、ファンダムはぴくりとも笑わず、例の冷静沈着な態度のままだった。だから、さっきとはまた別の焦りが込み上がってきて、オレはつい言い訳するようにもごもごと言う。

「え、だって、アイアスとか。クゥとかにも。聞かないと駄目だろ」
「ああいえ、僕らは臨時で組んでいるだけなので、実質は僕とサン様の二人パーティなんです」
「えっ二人!?」
「サン様はむしろ喜んで下さる気もしますし、何も問題はありません。
 ああいや、親御さんの許可は必要ですね。御挨拶を建前に奥様とお近づきにならせて頂いても?」
「人の母親を堂々と狙おうとするな!」

 意外な展開と急に増えた情報にオレは混乱しつつも、目下最重要なことだけを叫んだ。それでも脳みそは慌てたままで、そのせいか、自分でもよくわからないことを口走っていた。

「えーとえーと、どういう仲?」
「僕とサン様ですか? ……ただならぬ仲といったところでしょうか」
「しみじみ言われても困る!」
「まあはっきり言うと男が入ると指揮が下がるのは確かなんですが」
「早くも邪魔もの扱い!?」
「泣いて頼まれたら仕方ありませんから」
「泣いてない!」

 声を荒げたせいか、気づくとオレは肩で息をしていた。そしたら急に疲労感が圧し掛かってきて、思わずその場に寝転がる。日の光を受けた芝生は柔らかくてあったかい。

「はー……

 ぐるぐる、と、予告なく掻きまわされた脳みそを休めて、深く息を吐く。空回りしていた思考がちょっとずつ速度を下げていく。オレに向き合う時間をくれる。
 例えば、ギルドに行って。もっと言えば、ファンダム達についていって、この里から旅立つ。あれだけ悩んでいたことの答えになりそうなものが目の前に出されたわけだけど、改めて、落ち着いて考えてみるとそれはオレの考えてた“旅立ち”ってやつとはちょこっと違っていた。何がどう違うと言われれば困るし、結論から逃げているだけだと言われればうっと言葉に詰まりそうな気もする。それでもなんか、それは違う。理屈じゃないけど、言ってしまえば勇者の卵の嗅覚ってやつだ。だからオレの答えに迷いは無くて、そっちをすぐさま選びとれたことに自分でも驚いたくらいだった。

「で、どうしますか?」

 ファンダムは姿勢を変えないまま、視線だけをオレのほうに向けている。切れ長の目はキツイ印象がしたけど、その目の奥はそんなに鋭くなくて、大人が持ってる嫌らしさとか子どもを見下してくる感じとかはどこにも無い。おかげでオレは素直に返すことができた。

「やめとく」

 自分の声が思った以上に軽く響いて、オレは安心した。今のが人生の分岐点、なんてことは考えたくなかった。オレの答えを聞いたファンダムも、雰囲気が柔らかくなった────ような気がしたから、きっとこれでオレは合ってるんだとも思った。
 答え合わせは求めていない。けど、そのまま黙っているのも照れたから、オレはテキトーに言葉を続ける。

「男は邪魔なんだろ? オレ、刺されたくねーもん」
「刺しはしませんよ。炎のほうが扱い慣れてます」
「うわぁ」

 思わず上半身を起き上がらせると、くつくつと喉奥で笑う声が聞こえた。

「冗談です。それに刺されるような真似なんて君はしないでしょう」

 前半はともかく、後半は不意打ちだった。なんだかファンダムのその言葉には、無条件の信頼ってやつがじんわりと顔を出していた。

……おう」

 気恥しさで返事が小さくなる。けど、相手はそんなオレの照れもお見通しって感じで、なんかわかったような顔をしているのがちょっと憎らしい。
 それこそこういう時とか、この年になって母さんに頭を撫でられた時とか、里の老人連中にちやほやされる時とか。早く大人になりたいなあと思うことはたくさんあるけれど、きっとこういう考えが既に子どもってことなんだろう。でもそれはそれとして、オレはやっぱ早く大人になりたい。
 ひとまずその第一歩として、今度ははっきりした声を出す。

「ファンダム」
「何でしょう?」
「サンキュ」

 オレの言葉にファンダムは口元だけで笑った。

「お気になさらず。君が女性なら見返りも考えたかもしれませんが」
「うん無理!」

 まったく真面目な話をするはずだったのに、この人は! わりかし軽薄で、つられて俺の気持ちも予想以上に軽くって、あーなんだこんなもんか、なんて思ったら妙にすっきりした。身体中の解放感が気持ち良くて、もっかい背中ごと倒れこむ。今日も空が青い。足をぐいと持ちあげる。そのまま両足を振り降ろして、反動で上半身を起こして、余った勢いでポンと跳ねて立ち上がる。ついでに両手で伸びをしたら、固まった身体がほぐれるのと一緒になんだかややこしいことも全部綺麗に遠のいてった。意味もなく前に一歩踏み出してみたら、雑草がさくっと良い音を立てて、オレに小さな励ましをくれた気がする。
 話の終わりを察したのか、ファンダムのほうも立ち上がってズボンの後ろを手で払った。宿に戻るのか、と聞きかけたところで、不意に横から高い声が飛んでくる。

「あっファンダム! ウィルと二人? 珍しいね」

 見れば、サンがこちらに手を振りながら近寄ってくるところだった。買い出しの帰りだったらしく、両手に持った回復薬の瓶をガチャガチャ鳴らしている。オレが答えるその前にファンダムが動いて、サンの荷物の一部を受け取りながら言った。

「青少年の悶々とした悩みに付き合っていました」
「おい!」

 妙な言い方するなとか人が悩んでたことを勝手に晒すなとか、色んな気持ちが一単語で飛び出た。ファンダムはオレの言葉を平然と受け流し、サンのほうは怪訝そうな目を向けてくる。いたたまれない!
 妙な間の後、サンが神妙そうな顔で言う。

「ウィルあのさ」
「なっ、何だよ」
「若い身空で道を踏み外しちゃダメだよ?」

 ガク、と身体の力が抜ける。一方ファンダムはと言えば、本来ならその言葉がことさら辛辣に響く相手のはずなのに、

「どこで覚えたんですかそんな言葉」

 なんてことを言ってたりする。そしたらサンがにこにこした調子で、クゥがねアイアスにねと話を続け始めたから、結局オレは言い訳する間を無くしてしまった。
 いや、相談したのは事実なんだけど。相手にファンダムを選んだのもオレなんだけど! 弁解したい気持ちと、何をどう言えばいいのかわからない気持ちがまぜこぜになって、オレは思わず声を出していた。

「あのさっ」
「うん?」「何でしょう」

 サンの話を遮るようになってしまったもんだから、二人の目が一斉にこっちへ向けられる。オレは言った後で言葉を探す羽目になって、けど上手い何かも思いつかなくて、ふと頭に浮かんだことをそのまま口にした。


「冒険者って楽しいか?」


 何も知らないサンは小首をかしげつつも、
「楽しいよ!」と即答し、

 直前までオレの話を聞いていたファンダムは合点がいったような表情で、
「やってみればわかりますよ」と言った。

 なんか言いたかったこととは全然別のことになっちゃったんだけど。自分でそんな流れを作っておいて変な違和感を覚えつつ、二人の声があまりに明るかったから、結局楽しんだもん勝ちなんだろう、なんて気楽な考えも浮かんでくる。
 ――良いじゃん今が楽しけりゃ。
 そんなこと言ったら母さんに怒られるかな。でも、案外許してくれるかもしれないな。だって、それで何とかなってる人が、ここに実際いるんだから。

 オレがやっと落ち着けたのを見てか、ファンダムが口を開き、それにサンが続く。

「焦って事を成すのはよっぽどの時だけにしたほうが良いですよ」
「あー、寝坊した時とか大変だよね。朝方の依頼でさ、慌てて階段下りようとして、思い切り滑り落ちちゃったり」
「いえそこは気をつけてください、せめて僕を呼んでください」
「へーきへーき」

 一応ファンダムは最後の締めみたいな真面目なことを言ったはずだと思うんだけど、事情を知らないサンのズレた同意のせいで、結局会話はゆるく飛んでった。

 でもまあ、このくらいがちょうどいいよな、うん。
 オレは二人のそよ風みたいな会話に混ざろうと、改めて口を開いたのだった。





~END~