ツキシキ
2023-06-30 07:15:45
12515文字
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★Ruinaまとめ

3作品。二次創作。シーフォンと賢者の弟子女。


シーフォンに何でも譲るフィー


死者の書上巻を譲る→デネロス死亡イベント
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 魔術師は自らの種明かしを好まない。秘術はお眼鏡に叶う弟子にしか伝えないことがほとんどだし、酔狂で本に残す輩は皆自分の能力を有難がられようとして、そりゃもう面倒で魔力をことさら消費する無駄極まりない辺鄙な遺構の奥に隠しやがる。
 そんなわけだから、奴の態度のあっけなさには肩透かしを食らうほどだった。
 陰鬱な死霊の気配が満ちる元宮殿の、塵になりかかった紙切れどもの奥底。そこに眠っていた書物は確かに秘書と称されるもので、長く探していたが手の届かなかった代物だった。

 死者の書。

 奴は目の色一つ変えずに淡々と表紙を読み上げてみせた。魔術師ならば手に取ったそれに興奮しないはずがないだろうに、もしかすれば価値を知らないのかもしれなかった。よこせと脅す僕に奴は平然として頷き、ひょいと本を放ってみせた。あまりの雑な扱いに僕のほうが慌て、杖を放り出してぶんどる羽目になった。

「返せっつっても返さねーかんな!」

 奴はゆるりと首を傾げるだけだった。やると言ったからにはやる。そう言外に告げていた。



 それ以来こちらが味をしめてしまったのは、今にして思うと軽率だったとは思う。けれども奴は僕が知っている輩と比べてあまりに無知で、警戒心もなければ毒もなさすぎた。あのデネロス師の弟子というよりは風変わりな田舎娘と呼ぶほうがふさわしいほどだった。
 焦点具が老若男女問わず、魔力如何のみを重視するというのも都合の良い話だった。僕の見つけたものは当然僕のものであったし、奴が見つけたものも中身によっては僕のものだった。よこせ、と言えば奴は躊躇いなく渡してきたから簡単な話だった。

 もし奴の態度に怯えが混じっていたり、あるいは純然とした善意のみであったりしたのなら、僕のプライドは逆撫でられてしまっていたのだろう。が、奴の態度はまさに無関心の一語に尽きた。僕がよこせと言わなければひょいとそこらに投げ捨ててしまいそうだったから、価値を知る僕が致し方なく口出ししてやる必要があったのだ。
 奴がいつまでたっても杖代わりの木の棒切れと普段着と言わんばかりのだっさい布ローブで歩き回るもんだから、見るに見かねて無理やり僕の使い古しを持たせることもあった。仮にも女だろうに、僕の使用済みの物を渡されても嫌な顔一つせずもそもそと身に纏い始めるあたり、なんだかもうこいつは芯からこういう奴なんだと思わされた。



 だから、あの時だって。
 僕がよこせと言えばよこすと、甘くも信じてしまっていたのだった。



◇◇◇



……だめ」

 奴の答えは一言だった。だが、その裏の覚悟は言葉を重ねずとも見て取れた。

 ────師の遺品だからか。その執着は生ぬるい情か。お前、それがどれだけ価値のあるものか知らないだろ。馬鹿じゃねぇの。僕様が有効活用してやるってんだよ。

 思いつくことは数多とあったし、悪態上手の僕の口はそれに近いことをいくつか矢継ぎ早に言っていた。だが、奴の表情はひたとも変わらず、正眼を得る瞳の奥で、決意と敵意が凛と凪いでいた。下手な騎士の剣先より鋭いそれを見て、僕は悟った。
 こいつはやると言ったらやるし、やらないと言ったらやらない。それで今までの行為の、僕が言えば気軽によこすその態度の真意も知れた。
 要するに、奴には。あれらの膨大な技術など無くとも、その身一つでやっていけるだけの自信と力が、あったわけだ。そりゃ無関心にもなるだろう。あれば便利という程度のもの、なくても支障はないもの。

 ────ならそれらに拘泥して一喜一憂してきた僕はさぞ馬鹿に見えただろう?

「いいから、よこせ」
……だめと言ってる」

 奴は視線を動かさないまま、覚悟を見せつけるようにゆっくりと首を横に振った。動きに合わせて頭の横で結った二括りの髪がゆるゆると揺れるのが妙に癇に障った。頬を動かさない代わりに雄弁と嘲りを示されているかのようだった。それが僕の錯覚であると言えなくもないのがまた、眼中外に置かれる苛立ちを掻き立てられた。
 そもそも奴の出会いの始まりからして奴の態度は顕著だった。人の多い酒場で業火球をためらいなく放つ、その容赦のなさ。無表情の裏に隠れた激情と意志。

 なら言葉などもはや時間の無駄である。

 僕が焦点具を構えれば、相手もわかっていたとばかりにローブを翻して杖を掲げた。先端で呪物に近い輝きを見せるその杖も、僕が奪って返した使い古しだった。


 どちらが劣っているのかなど、とうに。
 それでも僕を連れ歩いたのはなんでだ。
 いらないと言ったもんを押し付け返されて、文句ひとつ言わなかったのはなんでだ。

 薄々感じる、無関心とは真逆のものを苛立ちで上塗りしていく。

 馬鹿にしてるからか?
 馬鹿にしてるからか!

 そう思わなければ自分は────!



 向かい来る迷いなき劫火と、放つ自暴自棄の雷鳴が、轟音と共に爆ぜた。





~END~