Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
ツキシキ
2023-06-30 07:15:45
12515文字
Public
Clear cache
★Ruinaまとめ
3作品。二次創作。シーフォンと賢者の弟子女。
1
2
3
4
5
邪法少年未だ逸せず(シーフォンとフィー)
知的好奇心ありあまって人外に片足入れかけるフィーと、相対的に常識人ポジなシーフォン。
____________
アーアー全く面倒くさい、しかし泣いて頼まれちゃ仕方ない。実際涙は雫も無くて、平常通りの不愛想で「来てもらえたら助かる」と言われただけなのだが、まあいずれにせよ僕の魔力と妖術にひれ伏してということであれば文句はない。
とはいえ二人旅は心もとない、お互い術師なら尚のこと。ましてやあいつは軽く殴っただけで天井にまでぶつかりそうな痩身だ。いつだったか、図体ばかりの鬼の棍棒に叩きつけられ、一撃でぐたりと伸びやがったのは忘れもしない。あいつを背負った爺を追い立てながら、成り行きしんがりを務めさせられたあの珍走劇、忘れてたまるもんかこのやろう。
そんなわけだから僕は疑いもしなかったわけだ。さすがにこの棒切れ女も、過去の失敗に学ぶ頭はあるだろうと。だから例えこいつが僕だけに声をかけて、すたすた外に出ようとて、先に呼んでおいた仲間が一人、出先で待ちぼうけしてるに決まってらぁと。そして僕らの壁役となってもらうからには、すっとぼけたピーカン面の騎士野郎だの、そこそこ気の合う悪漢盗賊だの、その辺の輩が退屈まぎれに鎧の欠けを気につつ突っ立ているんだろうと。
しかし出てみりゃ誰もいない。
「あ」
横を向けばうっかりとばかりの阿呆面女が居やがった。
「おい、もう一人はどこだよ」
答えの予感は手にしていながら、それでも問わずにいられなかった。
相手はしなやかに振り返り、閉まった宿の扉を見つめる。僕たちが出て行ったその後ろからどやどやと複数人が通り過ぎていってしまったのはつい先ほどのことだ。それでも未練がましく歩を戻そうとするもんだから、呆れがため息になるのも当然のことだった。
「とっくにどいつも解散してるに決まってら。お前馬鹿だろ」
「バカじゃない」
「へえ! じゃあ本気で僕様とだけで探索する心算だったってか?」
「古書集めなら二人でもできる」
「ほーう。頭脳がご自慢の魔女様はなかなかに蛮勇であらせられるこって!」
言い張る態度が癇に障り、思わず語調を強くする。次いでこちらの啖呵に烈火が返るだろうと身構えたが、予想に反して相手はぼんやりと目を伏せた。気まずさというよりも、子どもでもわかる問題を解き間違えたかのような情けない顔つきだった。だとしても、
「
……
自信がないならついてこなくたっていい」
本心で言う気遣いがこれならこいつはとんだ放火魔だ。どんな偏屈に育てられたのやら。
「上等だお前」
売り言葉に買い言葉、意識する前に荒々しく足が迷宮へと踏み出ていた。
◇◇◇
死霊が音も無く漂う中、のんびり優雅な読書と洒落込むわけにはいかない。けれども人間歩き詰めでは疲れるもので、気づけば埃と塵の立ち込める中、腰を下ろしてしまっていた。床のひび割れで座り心地が悪くなるのも癪なもんだから、用無しとみなした本を積み上げて椅子代わりにしてやっている。悍ましき実験の成果報告も阿鼻叫喚の呪い言も、時が過ぎれば紙束だ。少なくとも僕様には有用じゃない。
役に立つものはあらかた見つけただろうと、傍らへ声をかける。
「なあ」
連れは黙々と齧りつくように本へ目を通していた。結った髪が無造作に埃を集め、地べたに躊躇いなく座り込むせいでローブはすっかり薄汚れている。鼻が擦れるんじゃないかと思うほど頁に近づいた顔は知識欲に急かされていっそ蒼白にさえ見える。
「なあ、おい」
閂扉隔てて外敵が浮遊するなか大声を出す気にはなれず、代わりに腕をぐいと引っ張った。すると相手はよほど集中していたのか何のためらいもなく体を傾がせて、
「バカやっ
……
!」
慌てて立ち上がった僕を尻目に何事もなくバランスを取り直した。身のこなしは器用なのである。憎らしいことに!
しれっとした深紅が僕を見返してきて、気恥ずかしさが腹の奥から込み上げた。細っこい腕を振り払う。腹を立てているのだと知らしめるように舌打ちすると本気で腹の虫がおさまらなくなってきた。はいおしまい、と打ち切るのも誰にともなく悔しい想いがして、思っていたのとは別の話題を出す。
「腹減った。なんかよこせ」
言えば、整った眉間に皺が寄る。そんなことで中断してくれるなと言外に伝わったが当然無視だ。相手は睨み合いを早々に諦め、胡乱に荷物袋の中を掻き回し始める。が、なかなか物が出てこない。なんとなく嫌な予感がしたのもつかの間、差し出されたのは、
「
……
なんだコレ」
葉っぱ一枚だった。
「お前は普段から薬草食って暮らしてんのかよ。とんだ菜食主義者だなオイ」
「
…………
食材は気づいたら無くなっているのが悪い」
「無くなってねーよ腐ってんだよ、腐ったもんをあの怪力女だの物騒メイドだの僕様だのが整理して捨ててやってんだよ」
「いつもありがとう」
「どういたしましてブっ飛ばすぞ」
さては前回の探索から食料は補充せずに出てきたらしい。どうにもこの女は活力の無い見た目にそぐわず、生存意欲というものに欠けているようだった。
袋を奪い取って、無いとはわかっている中を探る。もしかすると何かしらに潰されたパンの一つくらいあるかもしれない。
…………
と、鼠さながら袋漁りをするも、じっとりと向けられた視線が居心地悪い。空いた隙間を埋めるように憎まれ口が出る。
「お前なあ、人は食わなきゃ生きられないって知ってっか?」
「
……
そもそも自分で食べる分くらい自分で持ってくればいい」
珍しく言い返された。普段の悪態は右から左のくせに。古文書調べを遮ったせいで機嫌を悪くしたのかもしれない。いずれにせよ気が立っているのはこちらも同じだ。
「おあいにくと準備する間もないまま出てきたもんでな! お前こそなんで買いもんすらしてねーんだよ」
言うと、相手は黙り込んだ。自分の非をやっと認めたか。見返せば意外にも相手の瞳は曇っていた。鼻を鳴らすはずが、ざまあみろの一言は身を縮めてしまう。そうこうしているうちに、相手は変わった先手を打ってきた。
「シーフォンは真っ先に呼ばないと、すぐいなくなってしまうと思って」
……
は、と。
なんだか気の抜けたような息が漏れた。
一拍置いて、思考が巡る。僕だって忙しい、当たり前だ、よくわかってんじゃないか。僕様は多忙で引く手も数多、こいつからぶんどった呪文書の解読だって残っている。それを毎日退屈だと言いながら、あのボロイ宿の軋む椅子に座って陣取っていたのは、何のためだと思ってやがる? 毎日同じ奴に呼び出されているからには、次の日だって続くだろうと、予測を立てることの何が悪い。
だというのにこいつは毎日そんな、しょうもない想いを抱えていたというのか。
「馬鹿だなお前」
素直な気持ちを口にすれば、怪訝な顔が向けられた。だが疑問に答えてやる気はさらさらないので、言葉の代わりに荷物袋を突っ返す。普段なら投げ返すところを、少しばかり丁寧に。
相手はそれを何と取ったのか、補足するように言葉を続けた。
「それだけじゃない」
そして、思わぬ不和に戸惑う僕に、今度は羽虫を燃やして落とすような口調で。
あろうことか、世にも愚かなことを言ってのけたのだ。
「シーフォンなら、私が倒れてもきちんと逃げてくれるだろうから」
バチッ、と頭の奥で何かの爆ぜる音がした。
喉が、絞まる。つっかえる。無理やり吐き出す。
「
……
あ゛?」
急転直下の感情に、言葉が全く追いつかない。
間違いじゃない。ああ、間違いじゃないとも、よくわかってんじゃないか。お前の認識は至極正しい。僕様は人様の研究を奪い取り肥やしにして力を得て、真っ当な道をまっすぐ進んでいく大馬鹿どもをなぎ倒す賢い奴だ。もちろんお前みたいなひょろっこい小生意気な女、瞬きの間に見捨ててやるさ。おうとも、僕は生温いお前の友人共とは全く違う。
────でもさんざ助けてやったろうが、このクソ馬鹿が!
バチバチバチバチッ、と弾ける音が連鎖する。奥で燻っていたはずの火花は鋭く砥がれて雷と化す。堪え切れない魔力が稲光のように皮膚を走り、介して憤懣を放出しようとする。
こちらの態度に、ようやく、遅まきながらいまさらに、こいつは失言を知ったようだった。
「
……
違う、すまない、安心できると、」
「もういい喋るな」
こいつは余計が多すぎる。止めれば大人しく黙るのでいっそう気に食わない。そうだそうだと不快を煽るように、魔力が溢れ出す先を求めて唸る。このまま焦点具に集めさえすれば大木穿つ稲妻が落ちるに違いない。
「なんなら期待通りここでブチ殺して身ぐるみ剥いで捨ててやろうか?」
唇だけが妙に早く動いた。この分であれば詠唱も流暢に終わることだろう。しかし、杖を構える僕に対してこいつは淡々と、物事の自然須らくを語るように口を開いた。
「
……
殺されるのは困る。まだ、私は全てを知らない」
その言葉が、これまた、馬鹿馬鹿しく。
『まだ』の裏に隠れた続き、今後を確かに掴む意思。怜悧な瞳の裏の本気に、僕の呼吸はひとたび、止まる。
『まだ』『全て』。
矮小すぎる身体でほざくには、いっそ滑稽と言っていいほどの言葉であり。僕は腹を抱えて笑うべきで、お前なんざには到底無理だとあざ笑うのが僕らしい。
だというのになぜ言葉が出ない?
気づけば身の内にあった魔力の奔流は霧散していた。同時に、燃え盛っていた憤怒も蒸発してしまっていた。
────それじゃあ、お前。書に秘められた太古の魔術より、世の神秘より、万物の理より、お前にはもっと知るべきもんがあるんじゃねーのか。手元足元見直せよ。信頼できる師、迸る魔力、奪われることのない屋根、罵倒からは縁遠い会話、身を案じる友。本気の世迷言を言う頭があるんだったら、この僕様を打ち負かしやがった自分とやらをきちんと省みて、磨いて台座に置いてみせろってんだ馬鹿やろう。じゃなきゃリベンジに意味がない。
先の怒りとはまた異なる形の鬱憤が、ずるりずるりと喉奥から這い上がってこようとする。わななく唇から一部が漏れ出すのをもう止められない。
「全てなんて、もう」
持ってんじゃねーか、と。続けるはずだった言葉を見破るかのように、女は言霊を発する。
「夜種はなぜ生まれる。霊魂はどこに留まる。
鶏は鶏と言うならば私の鋳型はどの形?
知らない理が多すぎる、積まれる歴史に私の生は短すぎる。
星が瞬き墜ちる理由すら、まだ、私は掴めていない」
真っ直ぐな深紅が僕を越えた遠くを射抜く。
瞳に僕は映るのに、煌く奥深くに僕はいない。
つまり、こいつは、そういう世界に生きようとしているのだ。
食事も生存もちっぽけな感傷も後回しで、ただ、渦なる叡智と深淵の欲の赴くままに。
僕は大きく息をつき、ゆっくりと目を閉じる。幾何学模様の血脈と残像。僕だけの知覚が改めて僕に大声で主張する。憎悪にも似た泥が噴き上がる。
────そこに辿り着くのは僕だけだろ?
────知識をむさぼりつくしたその先の、孤独の叡海に逝くのは、なんも持ってねぇ僕だけだろ。なあ。
────そうだ羨望なんざ、犬に食わせちまえクソったれ。
脳裏で泥塗れの犬がギャオンと喚き、致し方なく目を開ける。相手は未だにこちらを見つめていた。出方を伺うというよりは、真摯に言葉を待っていた。こいつは理解に貪欲だ。僕の激情の理由も知りたがるに決まっている。
だから僕は唇を歪めて嗤ってやった。誰が教えてやるもんか。
「良かったなあお前、この僕が一緒で。お前が全てを知るってんなら、先々で僕様が奪い取って、術書だろうが何だろうが独占してやるからよ?」
大仰に捲し立てると、相手はきょとんと眼を丸くした。僕の返しが予想外だったのか、それとも熱くなっている自身に気付いたのか。神秘に魅入られていた瞳にようやく正しく僕が映る。反射して僕の瞳にも相手が映り込む。
誰がどう見たってひ弱な小娘だ。馬鹿にするのがふさわしい。誰もこいつが選ばれし者だなんて思うわけがない。
そうだろう、そうだって言ってくれよ。
「おまえが泣きべそかいたって僕様は何一つ見せてやんねーからな、バーカバーカ!」
思い切り舌を出してやれば、イカれたことに相手はふんわりと笑った。
「
……
楽しみにしておく」
アー、生意気な奴!
~END~
1
2
3
4
5
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内