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いまち
2021-11-25 23:27:42
9821文字
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お得意さんと茨の谷の女の子(途中かも
れこさんからいただいたネタ。お見合いおばちゃんと♣
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知らないうちに用意されていたスーツに着替え、ハドソンさんが予約していたというホテルへ向かった。知っていたとはいえ、豪奢な佇まいに、場違いではないか少しばかり気後れする。他にも飲食店はあるだろうに、わざわざこんな高いところを選ぶとは、本当にその子のことが気に入っているんだろうと改めて思い知らされた。
自分より年上であろう妖精族の女性相手にどういう話をすればいいだろう。聞き役に徹するのがいいだろうか? そんなことを考えながらクロークにコートを預け、ウェイターに名前と招待を受けたことを伝えると、個室が多くあるフロアへ案内された。
近付くにつれ不安になる、機嫌を損ねさせないよう気を付けないといけない。妖精族は俺たち人間よりずっと気まぐれで気分屋で、ヘソを曲げると厄介だと聞く。俺の言動ひとつで常連さんを悲しませることになっては困る。ただし、万が一気に入られでもしたらそれも厄介ではあるけれど。
「失礼します
――
」
通された個室にはティースタンドとティーセットを囲うハドソンさん。それと茨の谷の道具屋だという妖精族の女性。
……
の、はずなのに、そこにいたのはかつてナイトレイブンカレッジで知り合った女の子、ティナ・キースリンクその子の姿だった。忘れもしない、入学式に異世界からこの世界に放り込まれ、そのまま学園の生徒になった女の子だ。身にまとっているのは見慣れた学園の制服ではなく、薔薇の王国の若い女性に人気だというファッションブランドのワンピースだった。茨の谷には展開していなかったはずだから、おそらく、ハドソンさんが買い与えた物だろう。
キースリンクは俺を見えると驚いたように目を丸くし、気まずそうに身を竦ませてしまった。
……
見てはいけないものを見た、というような反応に少し、いや、かなり傷ついた。
「あら、トレイ君。来てくれたのね、嬉しいわ。さぁ、掛けてちょうだい」
キースリンクと出会ったのは5年以上も前だ。普通の学生であれば学園を卒業する年数が経っている。元の世界に戻れなかったのか、戻らなかったのかは知らないが、茨の谷に住むようになったのだろう。どういう手引きでそうなったのか簡単に想像つく、当時彼女の所属する寮で寮長を務め、彼女を気に入っていたマレウスの仕業だろう。この世界に文字通り身一つでやってきた彼女には、戸籍も保証人もなにもない。そんな彼女に居場所を与えられる者はそうそういない。けれど、王族であるマレウスであればそれができる。
「トレイ君? どうしたの?」
ハドソンさんの言っていたことを思い出す。ロクに彼女の話を聞こうとしなかったという妖精族、周囲がそんな中、彼女に声をかけて世話をやいてくれたという、「健気で素直なイイ子」。ハドソンさんの言っていた「親を亡くした」というのも恐らくは異世界にいる両親の話を勘違いしてしまったのだろう。
そう、それにキースリンクの血筋は妖精族との相性が非常にいいらしい。と、学生の頃リリアから聞いていた。それゆえに、妖精族の多い茨の谷でもうまくやれているのだろう。テストの答え合わせをするように、引っ掛かっていたものが解けていくのを感じた。
「あらまぁ、ごめんなさいね、ティナちゃん。トレイ君ったら貴方があまりにもかわいらしいから見とれちゃったみたい」
「
……
」
くすくす笑うハドソンさんにキースリンクは身を縮こませたまま、何も答えない。
考えているうち、さっきまでのシルバーとの会話も踏み間違えていたのだと気付かされた。俺がハドソンさんの言う女の子を妖精族だと決めつけていたために思い当たらなかったんだろう。もし「女の子がやっている道具屋」とだけ言っていれば、市井に疎いとはいえマレウスの側近を務めるシルバーが気付かないはずがない。
ヒントはいくらでもあったのに、思い込みひとつのせいで気付けなかったことを心の底から悔やんだ。
「ほぅら、お座りなさいな」
「は、あぁ、すみません」
ハドソンさんに背中を叩かれ我に返る。どことなく気まずい空気がそこにはあった。彼女はなんと言って連れて来られたんだろう? 俺が席に着くと、キースリンクはいよいよ困り顔で俯いてしまった。
「ティナちゃん、この子がお手紙で言ってたトレイ君。ケーキ屋さんの息子さんなの。ほら、たまにお菓子を送ってるでしょう? あのお菓子ね、この子のお家で作ったものなのよ」
嬉しそうに紹介するハドソンさん。対してキースリンクは俯いたまま、うめき声のようなものを上げるだけだった。そんな彼女に、さすがのハドソンさんも僅かに困惑の色を浮かべる。けれど、すぐさま穏やかな笑顔に戻り、俺に顔を向けた。
「トレイ君、この子が茨の谷の
――
」
「存じております。
……
久しぶりだな、キースリンク」
呼ぶと、彼女は大きく肩をびくつかせ、恐る恐るといった様子で顔を上げた。
「えぅ、あの、えと、お久しぶりです、トレイさん
……
」
「あら!? まぁまぁ、知り合いだったの?」
驚いたようなハドソンさんの声に、キースリンクは困ったように目を泳がせた。
そう、俺たちは知り合いだ。だが、知り合った経緯が経緯なだけに、突っ込まれては困るとキースリンクは微妙な態度に出てしまったのだろう。それもそうだ、彼女が実は異世界人で、男子校に通っていたなんて、事実であれ、突拍子がなさすぎる。
「えぇ、彼女は賢者の島にいたことがありまして、その時に知り合ったんです」
そう言ってふんわりした説明をすると、キースリンクの表情から緊張の色が抜けた。その様子に安堵した自分がいた。嫌われていたからあんな態度をとられていたわけではなかったのだ、と。そして、こんな曖昧な説明でも、ハドソンさんは納得してくれたようで「まぁ」と両の手を鳴らした。
「そういえば、トレイ君はナイトレイブンカレッジに通ってたものね。まぁまぁ、すごい偶然じゃないの!」
「えと、そうなんです。だから、すっごくびっくりして
……
えへへ、トレイさんとまたお会いできて嬉しいです」
そう言ってキースリンクは笑った。記憶と変わらない笑顔を見ると、あの頃燻らせていた思いがじわりと蘇ってきた。ともあれ、予想外に転がってきた願ってもいないこのチャンス。どう活かしてくれようか。
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