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いまち
2021-11-25 23:27:42
9821文字
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お得意さんと茨の谷の女の子(途中かも
れこさんからいただいたネタ。お見合いおばちゃんと♣
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事が事だけに、なんとなく落ち着かない心地で当日を迎えた。気を紛らわせるために何かしようにも、今日は定休日、仕込みの一つでもしようかと厨房に入ろうとしたら両親からゆっくりしてろと叱られた。とはいえ、部屋でぼーっとしようにも、なかなかどうして落ち着かない。時計を見ると、約束の時間までまだまだ余裕がある。天気もいいし、散歩がてら近所の業務用スーパーでも覗きに行こうかと外に出た。
適当に製菓材料と包材を買って帰る道すがら、見覚えのある顔とすれ違う、向こうもこちらに気付いてかお互い足が止まった。
「お前は確かマレウスの
……
」
「シルバーです。お久しぶりです、トレイ先輩」
そう言って畏まった礼を見せたのは学生時代の後輩
……
という程の付き合いはなかったけれど記憶にあった。一学年下だったシルバーだ。当時リドルと同じ部活にいたり、マレウスの護衛として付き添っている所を何度か見かけたことがある。たしか彼もリリアと同じ茨の谷の出身だったはずだ。
「珍しいな、こんな所にいるなんて」
「仕事です」
「悪いな呼び止めて」
懐かしい顔とはいえ、仕事中の人間の足止めをするわけにはいかない。去ろうとすると、それより早くシルバーが「いえ」とかぶりを振った。
「今は待機中です。暇を出されているので親父殿たちへの土産物を探していました」
「そうなのか?」
邪魔をしたわけではなかったようでひとまず安心した。なるほど、父親への土産か。シルバーが父親思いだという話は学園にいた頃よく耳にしていた。しかし土産を探す、とシルバーは言っていたがここは住宅地だ。店と言えば住人向けの商店ばかりで土産物を探すには向いていない。噂に違わぬ天然ぶりだ。
あまり見当違いなところを歩かせても不憫だし、せっかくだ、落ち着いた場所で少し話をしてみるのもいいかもしれない。
「それなら、うちの店に来ないか? 定休日だからあまりおかまいはできないが、お菓子くらいなら出せるぞ」
「いいのですか?」
「あぁ。せっかくだ、話のひとつでも聞かせてくれたら嬉しいよ」
シルバーは逡巡する素振りを見せ「お邪魔します」と小さく頷くと、「お荷物、お持ちします」俺の持つ買い物袋の一つを取り上げた。
とりとめのない話をしながら店に入る。シルバーを座って待たせ、買ってきた物をしまう。飲み物とお菓子は何がいいか聞いてみるも、「何でもいい」と返ってきた。正直、何でもいいが一番困るが、幸か不幸か、出せるものは限られている。ちょっといい茶葉で淹れたお茶と、何種類かの焼き菓子を皿に載せて出した。気に入ってもらえたら一つくらい買ってもらおうという下心も込めて。
「いただきます」
「土産物を買うならここより北の方にある大通りに向かうといいな。あそこなら観光客向けの店が多くあるんだ」
「なるほど、ありがとうございます」
焼き菓子をつまむシルバーを見て、ふと、懐かしい顔がつらついた。俺が三年生に上がった年に異世界から迷い込んできた生徒が二人いた。そのうちの一人、ディアソムニアに配属された女の子だ。その子は元の世界へ帰るため、ともう一人の分も勉強に研究にといつも忙しそうにしていた。同じサイエンス部で、俺のお菓子を気に入ってくれていたから、あの頃結構気になってはいたのだ。
彼女は今、どうしているんだろうか。元の世界へ帰れたんだろうか、それともまだ学園にいるんだろうか、あるいは卒業して別の場所にいるのか。なにかと関わることは多かったけれど、彼女はなんの連絡手段も持っていなかったから、学園を卒業してからはすっかり分からずじまい。シルバーに聞いてみようかと思ったものの、そのシルバーも彼女より一学年上だ、先に卒業したシルバーが彼女のその後なんて知るはずもないだろう。
「どうかされましたか?」
「ん?」
「考え事をされているようでした」
「あぁ、お前を見てたら学園にいた頃を思い出してな。ちょっと懐かしくなったんだよ。マレウスたちは元気か?」
シルバーに彼女の話を振ったところで困らせるだけだろう。だから、代わりに同級生二人の話を振った。シルバーは「マレウス様も、リリア先輩もご健勝であられます」とほんの僅かに表情が和らいだ。
それから茨の谷の話をした。最近、茨の谷の話をよく聞くものだから、案外話が弾む。ハドソンさんの話をすると、シルバーはリリアが喜びそうだと幽かに笑った。そういえば、リリアはあらゆる種族が仲良くなるよう願っていた。ハドソンさんの一件なんかはまさにそうなるな、と納得した。となると、あの話を断るのは、リリアの願いからすればあまりいい事ではないんだろうな、と、重ねて思った。
「トレイ先輩?」
「ん?」
「どうかされましたか?」
「いや、なんでもないよ」
つい考え込んでしまったらしい。シルバーが不思議そうな顔をしている。
「
……
そうだ。シルバーは茨の谷に住んでいるんだよな? 聞きたいことがあるんだが」
「なんでしょうか?」
「道具屋の女の子って知らないか? さっき話したうちのお客さんが世話になった妖精がやってるらしいんだが」
「道具屋を営む妖精族の女性、ですか?」
断る話とはいえ、これから会う相手の事だ。少しでも知っておこうという気持ちはある。シルバーはほんの僅かの間黙り込むと肩を落としならかぶりを振った。
「申し訳ありませんが、存じません。市井には疎いもので
……
俺の家は山奥でして、よく使う雑貨屋の主人は男性なのです」
「そうか。すまない、変な事を聞いて」
「いえ、せっかく茨の谷に興味を持っていただいたのに、力になれず申し訳ありません。リリア先輩に聞いてみましょうか? 俺よりずっと詳しいので」
「いいよ、そこまでしてくれなくて」
「そうですか
……
」
「それに、茨の谷には前々から興味はあったんだ。なんでも、セベクの父親はとても腕のいい歯科医だそうじゃないか」
なんのきっかけかは忘れたが、そんな話を聞いた覚えがある。妖精族と一口に言ってもその起源によって姿かたちは変わるそうで、もちろんその中には歯の生え方も含まれる。セベク
――
シルバーの幼馴染である後輩である
――
彼の父はあらゆる種族に対応し、その治療を行っているのだという。元々歯科に興味があったものだから、ぜひ一度会ってみたいと思っていたことを思い出した。
「そうですね、腕はもちろん、気難しい妖精族とも打ち解けられる素晴らしい方です」
「そうらしいな」
そんなこんなで話し込んでいると約束の時間が近づいてきたことに気が付いた。もう少し話をしていたいところではあるものの、せっかくの招待に遅れるわけにはいかない。
「と、すまない、これから用事があるんだ」
「こちらこそ、長居をして申し訳ありません。この街のことをお教えいただきありがとうございます。菓子もごちそうさまでした」
ぺこり、と下げシルバーは席から立つ。そして、その目が空のショーケースに留まった。
「
……
つかぬことをお伺いしますが、明日は店はやっておられるのですか?」
「あぁ、やってるよ」
「それでしたら、ここの菓子を土産に買わせてもらいたい」
「うちのケーキを? いいのか?」
シルバーは静かに頷いた。それは、ありがたい申し出だ。
「はい。明日に戻りますので、その前に寄らせていただきます。
……
よろしいでしょうか?」
「あぁ、構わないぞ。でも、本当にいいのか?」
「えぇ。トレイ先輩のケーキならば、きっとマレウス様もリリア先輩も喜ばれます」
マレウスの名前が上がり、少しばかり荷が重く感じたものの悪い気はしなかった。世界屈指の魔法士で、王族であるマレウス。学生の頃同学年ということもあり、なんとなく友達付き合いのようなこともしていた。向こうはどう思っていたのだろうかと分からないでいたものだから、そう言われるとこそばゆくも嬉しかった。
シルバーを送り、取り急ぎ食器を下げるだけ下げて、着替えるために一旦家に帰った。
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