いまち
2021-11-25 23:27:42
9821文字
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お得意さんと茨の谷の女の子(途中かも

れこさんからいただいたネタ。お見合いおばちゃんと♣

1


 いつものように店を開き、いつもどおり店番をする。学園を卒業してからは実に平和に平穏に過ごしている。今までも、これからもこうやって日々の生活を営んでいくんだろうな、と、なんの根拠もなく思っていた。たまに学園にいたころの騒がしい日々が恋しくなる事もあるけれど、なんだかんだ言っても普通の男にはこういった日常が性に合っている。
 そんなことをぼんやり思っているとドアベルの鳴る音と共に、少し冷たい風が吹き込んできた。

「いらっしゃいませ」
「おはよう、トレイくん。相変わらず男前ねぇ」
「おはようございます。ハドソンさんも、今日は一段とお美しくいらっしゃる」
「あら、お上手だこと」

 そう言って朗らかに微笑んだのは昔からの常連さん、マーガレット・ハドソンさんだ。ご高齢ながら活動的な女性で、なにかと人の世話を焼きたがる、近所でも評判の面倒見のいい方だ。元々趣味の旅行に出ることの多いハドソンさんではあるが、最近は孫が産まれたとかで、遠方のお子さん達の元へ出かけることも多く、こうして顔を見せてくれるのも久しぶりだ。

「お久しぶりですね、お元気でしたか?」
「えぇ、えぇ、見ての通りよ、ありがとう。そうそう、それより聞いてもらえる?」
「ご旅行の話ですか?」
「そう! あなた、そうなのよ!」
「お茶をお持ちしますね」

 いつになく興奮気味のハドソンさんに椅子を勧める。今の時間はヒマだからいいだろう。こういった近所付き合いも仕事のうちだ。ハドソンさんの話は嫌味がなくて聞いていて心地が良いのもある。厨房からティーバックのお茶を出してミルクと砂糖を添えてお渡しする。

「あらあら、ありがとう」
「熱いのでお気をつけて。今回はどちらまで?」
「茨の谷にちょっとね。いやぁ、すごい所だったわ」
……茨の谷?」

 茨の谷といえばマレウスやリリア、妖精族が住んでいる所だ。魔法ありきの文化で排他的、悪く言うつもりはないが、決して旅行向きの国ではない。もっと言えばハドソンさんは魔法が使えないはずだ、好奇心旺盛な方ではあるがここまでとは恐れ入った。

「そうそう。車は走ってないわ、電気もないやらでそりゃもう噂通りで驚いたわよ。ほら、アタシ魔法は使えないでしょう? おまけに妖精族だっけ? どうにも話を聞いてくれなくて、まー、参ったわよ」
「それは大変でしたね」
「そうなのよ! でもねぇ、世の中捨てたもんじゃなくてね、助けてくれた子もいてくれたのよ」

 ハドソンさんの声に熱がこもる。どうやら、よほどいい出会いがあったのだろう。

「道具屋さんをしてる女の子でね、困ってるアタシに声をかけてくれて、しかも、家にまで泊めてくれたの」
「泊られたんですか?」
「そうなのよ。アタシもいいって言ったんだけどね、親を亡くしてるみたいで、話を聞いたらつい、ねぇ……
「ご無事だったようで何よりです」
「アタシもどうなのかしらと思ったのだけれどね、その子がまた健気で素直なイイ子でねぇ……もうね、うちに連れて帰ろうかと思ったわよ」

 恐ろしいことにハドソンさんの目は本気だ。そこまで言うからにはよほどその子のことが気に入ったんだろう。しかし、親をなくした子か、ハドソンさんは本当に面倒見のいい方だ、きっとその子にもいい慰めになったんだろうと思う。妖精族と人間の違いはあれど、母子の関係は変わらないだろうから。

「それでね、その子と文通することになったんだけどね、なんかこう、いいお菓子とかないかい?」
「お菓子、ですか?」
「そうそう。こっちに美味しいお菓子屋さんがあるんだよーって教えたらその子がえらく興味を持ってね、せっかくだから送ろうと思ったの」
「そういうことでしたか」

 ここから茨の谷となると、結構な距離がある。生ものはさすがに無理があるからやはり焼き菓子だろう。日持ちがするもので、話を聞くに、一人暮らしだろうから量はそこそこで。向こうの期待を裏切らないためにも、喜ばれるものがいいだろう。となると……

「このラスクはどうでしょう? ドライフルーツとナッツを使っているので見た目も味も楽しんでいただけると思いますよ。乾燥させているので長期の輸送にも耐えられるかと」
「あらあら、いいじゃない」
「アレルギーはどうでしょう?」
「そういうのはないみたいね。なんでもよく食べる子だったわ」
「それならよさそうですね。お包みしますか?」
「えぇ、お願い。あぁ、あと薔薇のお茶も入れてもらえるかしら? お手紙も入れたいから封はうちでするわ」
「畏まりました」

 長距離だろうから乾燥剤と緩衝材を多めに入れて、ギフトボックスと発送用の段ボールをお渡しする。会計を済ませたハドソンさんの顔はとても晴れやかで、普段以上に生き生きとしていた。その相手とやらにも喜んでもらえたらいいな、と心の隅で思いながら、その日の営業を続けた。

 後日、ハドソンさんからとても喜んでもらえたと報告を貰った。喜んでもらえたようで何よりだ。