いまち
2021-10-25 01:15:45
19760文字
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きっとあなたににあうから/だけどあなたはいないから/こいにこがれたことりののろい

前後編二話+蛇足。己の解釈違いとの殴り合い。♣🐣なれそめって初めて食べたのがリリア飯で異世界ご飯に絶望した🐣にお菓子をあげてどうのこうのだったっけかなー。


 寒さも和らいできて、それとなく春の訪れを感じる三月半ば。これといった用もなく、部室に顔を出そうと実験室へ向かう。
 そこではいつも通り、何人かの部員が闇鍋のような実験をしていて、そこかしこで奇怪な煙が上がっていた。
 そんな中、部屋の隅で一人本を読んでいる部員が一人。異世界から召喚された女の子、ティナ・キースリンクその子だ。いつものように元の世界に帰る方法でも探しているのか、その目は真剣そのものだ。
「キースリンク。ずいぶん熱心じゃないか」
「トレイさん、おはようございます。えと、図書室にアクセサリーの本があったから見てたんです」
 そう言って見せてきた表紙は古今東西様々な装飾品をまとめた図録だった。
 彼女だって年頃の女の子だ、そういう物にも興味はあるんだろう。「異世界人」、「男子校でただ一人の女生徒」、「ディアソムニア生」と、規格外な要素ばかりの子なものだから、こうして普通の女の子らしいところを見ると少しだけ親近感がわく。
 なんとなしに覗いてみるといかついシルバーアクセサリーの写真がずらりと並んでいた。サバナクロー生あたりが喜んで身に付けそうな、平たくいうと不良っぽいデザインのものばかりだ。
「って、それはメンズアクセサリーじゃないか。女の子向けじゃないぞ?」
 そういったアクセサリーを身に付ける女性はいないこともない。けれど、正直キースリンクには似つかわしくない。エースあたりに古くさい感性だと笑われそうではあるが、キースリンクにはふんわりした色合いの、可愛らしいものが似合うと思う。
「分かってますよぅ。私のいた世界ってここみたいに着飾る男の人ってあまりいなかったから、どういうのがあるのかなーって。見てたんです」
「なるほどな」
「トレイさんはアクセサリーとかはしないんですか?」
「しないこともないが……料理をすることが多いから、指輪や腕にするような物はあまり着けないな」
「あ、たしかにです。調合中する時とかも外れたり、薬液に浸かったりしたら危ないですもんね」
 言いながらうんうん頷くとキースリンクは「ありがとうございます」と愛らしい笑顔を向けて、また本に目を戻した。それで会話は終了。今日は何をしようか考えながら実験着に着替えた。



 だいぶ暖かくなってきた四月。日中はずいぶん暖かく、そろそろコートをクリーニングに出して片付けないと。と、思うような陽気の中、実験室から言い争うような声が聞こえてきた。
 喧嘩かと慌てて向かうと、言い争っていたのはキースリンクと顧問であるクルーウェル先生だった。
 必死な様子のキースリンクと険しい顔をしたクルーウェル先生。……と、その二人の様子をどこか楽しそうに眺めるルーク。
 他の部員は狼狽えているというのに、相変わらず肝が据わっているというか、マイペースというか。そんなルークはさておいて、言い争う二人に目を向けた。
「お願いします! どうしても必要なんです!」
「駄目だと言っているだろう。聞き分けろ」
「でも……
「『でも』はない。聞き分けろと言っているのが分からないのか」
 必要がどうのと言っているから高価な材料でもねだっているんだろうか? キースリンクは必死に頼み込んでいるように見えるが先生は先生で、頑として譲らないようだ。何が起きたのか気になって、ルークに声をかけた。
……ルーク、どうしたんだ、あれ?」
「あぁ、薔薇の騎士。マドモアゼルが鉱山に行きたいとねだっていてね、しかしクルーウェル先生は危険だと却下しているんだよ」
「鉱山? また一体どうしたんだ?」
「なんでも、材料が欲しいのだとか。詳しくは知らないんだ」
 なんせ私もさっき来たばかりだからね、とルークは二人のやりとりへ目線を戻した。
 素直に人の話を聞く彼女が、却下されてもなお食い下がるからには、元の世界へ帰る魔法道具の材料なんだろうか? そうであるなら許可くらい出してやればいいのに、とは思う。
 もちろん、鉱山なんてどんな危険があるか分からない場所へ、女の子一人で行かせていいのかと聞かれれば論外だ。そういう意味では、先生の許可が下りないのも当然ではある。
「俺だって仔犬の散歩に付き合うほど暇ではないんだ」
「オバケくらい一人でも平気です! 行かせてください!」
 鉱山、オバケ、と聞いて、入学早々退学騒ぎを起こした一年生たちの顔が脳裏をよぎった。
……なぁルーク、オバケって」
「ウィ。マドモアゼルはかの鉱山に用があるらしいんだ」
 かの鉱山……ドワーフ鉱山のことだろう。閉山しているとはいえ、いくばくかの魔法石が採れるだとか、不気味なモンスターが徘徊しているだとか、なにかと話題に事欠かない山だ。やはり、間違っても女の子が一人で行くような所じゃない。
「マドモアゼルは一人で平気だと言っているのだがね、クルーウェル先生はご覧の通りさ」
「そうだろうな」
「引率する余裕はないようだからね。……そうだね、付き添いでもいれば話も変わるのかもしれないね」
 いやに含みのある物言いをしたかと思うと、ルークはまた楽しそうに二人のやりとりに目を戻した。
 つられて見てみると、こちらに目を向けているキースリンクと目が合った。彼女は驚いたような顔をすると「閃いた」とばかりの笑顔を浮かべた。
 そして、再びクルーウェル先生を見上げた。……そんなに見上げてばかりで首は疲れないんだろうか。
「あの、じゃあじゃあ、誰かと一緒ならいいですか!?」
 なお食い下がるキースリンクに先生は「しつこいな」とため息をついて続けた。
……それならば、まぁ、いいだろう。ただし、一年生では許可できない。最低でも二年生以上……そうだな、副寮長くらいの者であれば安心して送り出せるな?」
 そう言ってクルーウェル先生は意地の悪そうな笑みをこちらに向けてきた。なるほど、キースリンクのお守りを俺たちに押し付けようとしている、と。そういうことか。
 そんなクルーウェル先生の思惑に気付いていないのだろう、キースリンクは「わかりました!」と、一等明るい笑顔を見せた。
 ドワーフ鉱山か、行くのであれば、行ったことがあるというエースとデュースに話を聞いておくといいかもしれない。。
 鉱山での材料採取となると、採掘道具もいる。植物園の備品に使えそうな物はなかっただろうか? そんなことを考えていると、キースリンクはこちらに駆け寄ってきた。

 そして俺の前――を通り過ぎルークの前に立つ。

「えと、ルークさん! 鉱山へ行きたいので同行をお願いしていいですか?」
「私かい?」
 突然の指名にさすがのルークも驚いたように目を丸くする。
 けれど、「構わないよ」と、すぐいつもの笑顔を返した。それにしたいして。周りで聞き耳を立てていたのか、他の部員たちのため息も聞こえてきた。
 残念ながら俺も彼らと同じ気持ちだった。彼女には少しは頼りにされていると思っていたけれど、彼女にとってはそうでもなかったらしい。少しばかりの落胆の思いと、僅かばかりの妬ましさが胸のうちで渦巻いた。
 当の本人は、俺を含めた周りの様子を意に介するふうもなく……というよりも気付いていない様子で、そのままクルーウェル先生に声をかけた。
「先生、ルークさんとなら行ってもイイ、ですよね?」
「ふん、いいだろう。ただし学園長への闇の鏡の使用許可は自分で申請するように。申請用紙は後で渡そう」
「はい!」
 話がまとまり、彼女は本当に嬉しそうだ。そしてルークへと向き直る。
「ルークさん、急ですみませんがお願いします。空いてる日を教えてもらっていいですか? できるだけ早い方がいいんですけど」
「急ぎなのかい? そうだねぇ……
 なんとなくその場にいたくなくて、予定を詰める二人の声を背に聞きながら部室を出た。
 前に植えたイチゴの苗も育ってきた頃だ、鉢を移動させてもう少し陽に当てよう。気を抜けば妬みに染まりそうな頭を、余計なことを考えないように、どうでもいいことで上塗りしながら植物園へ向かった。

◇◇

 いつかのサイエンス部での出来事から一週間と少し。今日は日曜でありながら、午後から購買で食料品のタイムセールがあり「素直」で「真面目」な一年生に荷物持ちを手伝わせようと、パーティー用の食材の買い出しに出た。
 買い物袋の中で潰れやすい装飾品や卵は、自称素直な一年生のエースに。重たい砂糖や粉物は、真面目であろうとする一年生のデュースにそれぞれ持たせる。文句を言いながらも、きちんと付き合ってくれるのだからかわいいものだ。
 会計を済ませて購買を出ると、少し離れた歩道をキースリンクが走っていた。運動着姿で、背中に大きなカゴを背負い、似つかわしくないツルハシを手にしている。
 その姿を見て、ルークと鉱山で材料採取に行くという話を思い出した。あの時は早々に部室を出て、いつ行くかは聞いてはいなかったが、今日だったらしい。気付いて、忘れかけていたあの時のイヤな思いが蘇る。
 こんな状態でうまく話せる気がしない。もし、声の一つでもかけて、ルークを誉めるような言葉が彼女の口から出ようものなら、ルークに対し、見当違い恨みを抱いてしまいそうだ。
 急いでいるようだし、そっとしておこう。

「おーい! キースリンクー!」

 ……俺がそう思おうが、この一年生たちの知ったことではない。
 当然、彼らは自分たちの友人である彼女に声をかけた。彼女は振り返り、人懐こい笑顔を浮かべながらこちらに駆け寄ってきた。
 そんな、いつもと変わらない様子から察するに、ルークとはなにもなかったんだろう。……そこに少しだけ安堵した。
「二人ともお買い物? トレイさんもこんにちはぁ」
「あぁ、こんにちは」
「そーなのよ。オレら荷物持ちさせられてさー、かわいそーじゃね?」
「お前たちが当番をサボったからだろう?」
「なっ、僕はサボるつもりはなかったんですよ!」
「結局サボったんでしょー」
 二人と話しながら彼女は笑った。
「つーかお前こそ、その大そうなカゴはなんなワケ?」
「ドワーフ鉱山に行ったんだろう? ルークはどうした?」
 彼女が答えるより先に口を挟む。
 鉱山に行っただけあり、彼女の背負うカゴには、大小さまざまな鉱石が詰められている。下手したらこちらの買い物よりも重そうだった。
 だからこそ、一緒に行ったはずのルークがいないことに疑問を覚える。ルークは少々変わっているところはある。けれど、女の子一人にこんなに重そうな物を背負わせるような、そんなに無神経な男ではないはずだ。
「えと、ルークさんはヴィルさんのお手伝いに行きました」
「だからって……
「はああぁ!?」
 それはあんまりだ、そう言いかけると、目を丸くした二人が頓狂な声を上げた。
「ドワーフ鉱山? おま、そんなトコ行ってたワケ!?」
「ならそれは鉱石か? 重くないのか?」
「これくらい平気だよー」
 驚く二人にあっさり答えるキースリンク。先の軽やかな走りっぷりから察するに本当に平気なんだろう。
 のほほんとした顔をしていても、さすがディアソムニア生ということか。とはいえ、けして軽いとは言えない荷物を背負っているんだ、あまり足止めをしては悪いだろう。
「二人とも、キースリンクは大荷物を抱えてるんだ。話すのもその辺にしてやらないか? キースリンクも重いだろう? 運ぶのを手伝うか?」
 鉱山について、ああだこうだと言い続ける一年生二人を止めて、彼女に声をかけるも「大丈夫です」と断られた。本当に、俺は当てにならないらしい。
「あ、でも……
 代わりに、植物園に返してきてほしい、とツルハシとスコップとカンテラ(カゴに入れていたらしい)を渡された。それくらいなら軽いものだ、快諾し、受け取ると彼女は「お願いします」と頭を下げて鏡舎の方へ駆けて行った。
 それがあまり気に食わなかったらしい、エースは「げぇ」と顔をしかめた。
「遠回りになるじゃないッスか……
「いいよ、これは俺が返してくるから。お前たちは先に戻っててくれ」
「なら先輩の分の荷物は僕たちが運んでおきます!」
「ちょー! なにいい子ぶりっこしようとしてんの!」
 二人の申し出をありがたく受け、それぞれに買い物袋を一つずつ任せて、預かった採掘道具を返しに植物園へ向かった。
 ……この程度でも頼ってくれたことが少しだけ嬉しかった。けれど、逆を言えばこの程度しか当てにしてもらえないという事実が、ちくりと胸に刺さった。

◇◇◇

 四月も終わりが近い。クリーニングから返ってきたコートを衣装ケースに仕舞うと、もう夏が近付いてきた気さえする。
 課題を片付けて、明日の「なんでもない日」のパーティーの支度をしないと……などと考えながら机に向かっていると、部屋のドアをノックする音。出てみると、ケイトがスマホ片手に「今いいかなー?」とやってきた。
「少しくらいなら。どうした?」
「トレイくんにお客さん。ちょっと待ってね」
 そう言ってケイトは「いいってさ」と廊下の向こうに手招きをした。寮生であれば直接来る。
 わざわざこうして呼ぶということは、他寮生でも訪ねて来たのだろうか? 珍しいな、なんて思っていると、現れたのはディアソムニアの寮服を着こんだキースリンクだった。手には小さな紙袋を抱えている。
「ありがとうございます、ケイトさん」
「これくらいいくらでも。それじゃ、ごゆっくりー」
 いつものゆるっとした笑顔を見せて、ひらひら手を振りながら、ケイトは足早に去っていった。

 わざわざハーツラビュル寮まで来て、一体何の用だろうか? わざわざ来てくれたのは正直嬉しい、しかし、先のことがちらついて、どうにも顔を合わせづらい。できれば手短に済ませてほしかった。
「どうしたんだ? わざわざこんな所まで」
「えぅ、えと、その前にお部屋に上がってもイイ、ですか?」
 そう言う彼女は居心地が悪そうに彼女は辺りを見回した。
 なるほど、ただでさえ普段から女子というだけで、好奇の目に晒されている身の上だ。その上、他寮にいるとなると殊更に目立つ。
 現に廊下を歩く寮生からの無遠慮な視線をいやに感じる。部屋に上げていいものか一瞬悩んだものの、このままジロジロ見られるのは彼女の望むところではないのだろう。それならば部屋に上げてしまった方が幾分かマシだ。
 恋人でもない女の子を部屋に上げる事に抵抗はないこともないが、さらし者状態の彼女をそのままにするのも躊躇われた。本人が上がりたいと言っているのだから、。
「なんだ、とりあえず入ってくれ」
「えと、じゃあ、お邪魔します」
 少しほっとした様子でぺこり、と頭を下げて入ってきた。とはいえ、ないことないこと噂されては彼女も困るだろうから、部屋のドアだけは開けておく。
 机の椅子にキースリンクを座らせて、俺はベッドに腰掛けた。
(これなら庭に出ればよかったな)
 パーティー会場以外の迷路の中であれば、ここよりは人目を避けられる。とはいえ、今さら移動をするのも野暮だった。次いで、机の広げたままの勉強道具も下げておけばよかったとも気付いた。
 どうにも今日は勘働きが悪い。でも、そんなことより目の前のキースリンクだ。なんの用があってここまで来たのか聞いた方がいいだろう。
「それで、どうしたんだ?」
「えと、あの、これ、トレイさんに」
 そう言ってキースリンクは手に持っていた紙袋を差し出してきた。
「俺に?」
 ぎこちない様子で渡された紙袋を受け取る。開けてみると緑色のリボンがかけられた、手のひら程度の小さなプレゼントボックスが入っていた。
 見た目通りの重さで振るとカラカラカサカサと音がする。プレゼント、なのだろうか? しかし貰う理由が思い当たらない。
「えーっと……開けていいか?」
「あ、はい」
 リボンを解いて箱を開ける。中には薄赤い色の紙で折られた薔薇の花が敷かれていて、その上には金色のネクタイピンが乗せられていた。クリップのような挟み込むタイプのごくごくシンプルなものだ。先端にはクローバーの形をした緑色の石がはめ込まれていて、石からは微かな魔力を感じる。
「ん? まさかこの石、魔法石か?」
「はい、この前採ってきた石です。思ったり加工が難しくてびっくりしました」
 えへへ、と笑いながら彼女は続ける。
「ピンも採掘した鉱石を精製して作ったんです。えっと……
 たどたどしい彼女の説明によれば、いつぞや見たアクセサリー図録でタイピンを見て作ろうと思い、材料を集め、今こうして俺の手元にきたのだという。
「使えるかどうかはヴィルさんに見てもらったので、ちゃんと使えると思います……その、良かったら使ってくれると嬉しいかも、です」
「大事に使わせてもらうよ。だが、貰う理由が思い当たらないだが……これだけの物なら売ればかなりいい小遣いになったんじゃないか?」
 異世界から身一つで召喚されたという彼女は、当然のように親も後見人もいない。それゆえ常に金欠だと聞いている。
 魔法石のアクセサリーといえば高価な物だ、元手をかけずにこれだけの物が作れるのであれば、下手なアルバイトよりよほどいい稼ぎになる。
 ……やはり、こんな高価な物をもらう理由は思い当たらなかった。俺の言葉に彼女は一瞬不思議そうに首を傾げるも、すぐにむっと頬を膨らませた。
「お誕生日プレゼントです! トレイさんにはいつもお菓子とかごちそうになってますし、部活でも色々教えてくれるので、そのお礼もかねて」
「気持ちは嬉しいよ。だが、すまない、俺の誕生日は半年先なんだ」
 もしかして誰かの誕生日と勘違いしているのだろうか? ……だとしたら、素直に受け取る気になれなかった。そんな、俺の刺々しい言葉に彼女はふるふるとかぶりを振った。
「知ってます。でも、前のお誕生日には戻れませんし、次のお誕生日にはいませんし。だから、今のうちに渡さないとって思ったんです」
……なるほど」
 次の誕生日を迎える頃には俺は四年生だ。実習に校外に出ているだろうから顔を合わせる機会はぐっと減る。
 しかし学園に全く戻らないわけでもないのだから、なにもこんな半端な時期にと思ってしまう。……思ってしまったけれど、それは自分自身への照れ隠しだ。
 存外、彼女からは好かれていたらしい。少なくとも、こんなに手の込んだプレゼントを贈られるくらいには。それが、ただただ嬉しかった。それを知って、口元が緩みそうになるのものの、どうにか堪える。
「トレイさんに似合うかなーと思って作ったんです。でも、趣味じゃなかったらごめんなさい……
「そんなことはないさ。ありがとう、嬉しいよ」
 そう伝えると彼女はまたえへへ、と笑った。そして机の上に目を向けると「今日は、それだけ渡したかったんです」と席を立った。帰るつもりなんだろう。
「あぁ、悪いな。なんのおかまいも出来なくて」
「いいんですよぅ。えと、お邪魔しました。それと、お勉強中にお邪魔してごめんなさい」
 そしてまた頭をぺこり、と下げると部屋を出て行ってしまった。せめて寮の外まで送ろうかと声をかければよかった。と、気付いたのは彼女の姿が見えなくなってからだった。

 勉強道具を出していなければもう少し話もできたかもしれないな。などと悔やみつつ、改めてもらったネクタイピンを取り出した。
 金色のピンの、表には格子模様、裏には俺の名前が刻まれている。ピン自体も丁寧に磨かれており、触り心地はとても滑らかだ。
 これを手作業で行うとなると、どれほどの手間がかかるんだろう。相当な手間だろうと想像に難くない。はめられた魔法石も丁寧に磨かれてかつ傷一つない。そんな細やかな仕事がいやに胸をくすぐった。

 そうして眺めながらここ最近のことを思い出す。
 彼女がアクセサリーの本を真剣に見ていたこと、ほしい物があると先生に訴えたこと、危険を冒して鉱山へ採掘へ行ったこと、たくさんの鉱石を抱えて帰ってきたこと――そして、採掘した魔法石を磨き鉱石を精製して、俺へのプレゼントとしてこの小さなピンを作ったこと。
 つまりここひと月と少し、彼女はこれを作るために奔走していたということだ。我ながら現金なもので、それまでのもやついた気持ちはすっかり晴れてしまった。己の単純さに呆れると同時に、目を反らし続けていた彼女への思いを目の当たりにしてしまった。
「参ったな……
 気持ちの落としどころが見つからない。
 こうまでされて、これまで通り彼女を他寮の後輩として接していける自信がない。ミドルスクール生じゃあるまいし、こんなことで動揺してどうする。と、自分自身に苦笑しながらもらったプレゼントを引き出しの奥にしまった。

きっとあなたににあうから