yasaka
2022-11-25 21:56:45
14169文字
Public Star trek
 

【JJST】Turnabout Invader 01

エンプラの三TOPが格好良く活躍する話!と頑張ったら予想外に長くなりました(1/6)
元ネタはTOSシーズン3。"Turnabout Intruder"こと「変身!カーク船長の危機」から
June 19, 2016

※加筆修正版: https://thefireworks.booth.pm/items/3400342


ブリッジに戻っていたカークの元に、医療主任から緊急の呼び出しがかかったのはそれから一時間ほど経った頃だ。船の指揮をスポックに任せ今度は単独でシックベイに向かうと、すっかり疲れ切った様子のマッコイが無言で手招きをしていた。どうやら彼の再三の説得にも関わらず問題の親子は未だに治療を拒絶し続けているらしい。そんな中、何に対しても拒絶の意志しか示さなかったジャニス・コールマンが『カークと一対一で話したい』と言い出したのだという。

「自暴自棄になっているらしい彼女の、現状唯一のまともな要求だ。あの父親もそれを聞くなり『彼女の命を救うには、艦長さんが必要だ!』と人が変わったように大騒ぎだ。……実際あまりにうるさいので今は別室に行ってもらったがな。精神医学の研究者に変わり者が多いとは聞いてたが、あれで患者でなく医者だというのだから驚きだよ」
患者とのカウンセリングに使用されるこの区画は特に外に声が漏れる心配がない。そんな場所がそうさせるのか、マッコイの発言はいつも以上に容赦が無かった。目前に瀕死の患者を見せられながら手が出せない事で彼自身相当苛立っているらしい。いつになく荒れている友人の様子心配しつつ、カークは困惑の形に眉根を寄せた。
「しかしなぁ。どこぞの外交使節との交渉ならともかく、治療を拒絶してる重症患者とのカウンセリングなんてやったことないぞ?」
「カウンセリングとか堅苦しく考えないでくれ。彼女が他人と会話したい、繋がりを持ちたいと思った時点で多少状況は良くなったんだ。実際に話す内容は世間話でも何でも構わん」
マッコイは真剣な医師の顔でそう言うと、小さく息を吐いた。
……ジム。さっきも話したが、このままだと彼女は長く保たない。身体機能の数値は幾分持ち直してるが、一時的なものだ。当然このまま放っておいていい状態じゃないと本人にも解ってるはずなんだが……。ここからは俺の推測だけどな、天才少女だなんだと言われようが、彼女はまだまだ未熟な子供だよ。突然悲惨な事故に巻き込まれ、周囲の人間が大勢が死んだストレスで厭世的な気分になっているのさ。治療を拒絶するのもそこ辺りに原因があると思っている。本来ならここで父親が毅然と対応すべきなんだろうが……あんな様子じゃ彼女の気分も落ち込む一方だ」
そう語る彼の脳裏に浮かんでいるのはあの情けないコールマン博士の姿だろう。科学者としてどれほど有能であろうとも幼い娘の完全な言いなりとなっているらしいその態度は、医者云々という前に一人の成人男性として問題がある態度だ。
「だからって俺に父親役をやらせようっていうのか? 俺より親らしい奴なら他にっぱい居るだろ?!」
「先走るな。お前に彼女の父親代わりをしろとかそんなこと言うつもりはない」
露骨に嫌そうな表情を浮かべたカークの様子に、図らずも彼のトラウマに触れかけたと察し、マッコイは急いで話の筋を元に戻す。
「今の彼女に必要なのは医者とは別の、精神的に頼れる大人の存在を認識させる事だ。彼女が自分を救助してくれた『艦長さん』に興味なり感謝の気持ちを持ったのなら、そいつにその役をやらせるのが一番手っ取り早いだろう? なぁ、ジム。いつものお前ならこちらから頼まなくったって首を突っ込んで助けてくれるじゃ無いか」
あえて相手が嫌がるように、媚びるような声で話しかければ、目前の艦長は若者相応の拗ねた顔でこちらを見返した。
「俺が実際の救助作業やら上陸任務に直接関わろうとする度に、嫌味ばかり並べるくせに。こういうときだけ調子が良いんだな!」
「何とでも言え。可能な限り患者の希望を聞いてやるのも医者の仕事でね」
開き直った医者の態度にカークは深くため息を吐く。自分がどう思おうが一人の命がかかっていると暗に示された以上彼に選択の余地は見当たらない。
……くそ。子供の相手なんかどうしたらいいのか想像もつかないけど、まぁいい。取りあえず行ってみるよ」
むくれ顔で立ち上がるカークを、マッコイは苦笑しながら見上げた。
「すまんな、ジム。お前が彼女と話してる間、俺は司令部に彼女達の診断書を提出してるよ。一応、別室のコールマン博士が娘のモニタリングを続けているから問題ないとは思うが、万が一異変があったら俺に知らせてくれ」
「わかった、ボーンズ。お前の治療を受けるようになんとか説得してみせるさ」
外に出ると視線の先には静かな処置室が広がっていた。奥の個室に要治療の患者がいるものの、現状では動きようが無いのか全員別室に移っているらしい。カークは小さくため息をつくとマッコイに示された個室に視線を向けた。先ほど自分を見つめてきたあの異様な視線はそこには無い。記憶を探るだけで胸の悪くなるようなイメージを振り払うように彼は二度三度と頭を振ってから覚悟を決めたように歩き出す。

そんなカークの前に、目的地の隣室から一人の男性が現れた。他でもない、先ほどマッコイと散々な遣り取りを繰り広げたというコールマン博士その人だ。やや前のめり気味の曲がった背、落ちくぼんだ目、皺の寄った顔。やや老けた印象を与えるその様子は長時間の避難で疲れ切っていた為かと思っていたのだが、どうやらこれが彼の素であるらしい。
「キャプテン・カーク。ひょっとして、アイツの部屋へ行かれるのですか……?」
「ええ、コールマン博士。ドクター・マッコイから、あなたの娘さんが私と会いたがっているととうかがいましたので」
この期に及んで何を言い出すのかと身構えたカークが答えると、コールマンは何処か心ここにあらずと言った様子ながら嬉しそうに何度も頷きだした。
……そうですか、私の娘が、あなたに会いたがってる……それでわざわざ艦長さんが、私の娘のところへ……それはよかった……本当によかった……
マッコイは彼の親としての資格を疑っていたが、彼は彼なりに娘を愛しているのだろう。落ち着いた微笑みでそう語る姿はどう見ても心からの喜びに満ちている。
「キャプテン・カーク」
ひとしきり頷いてからコールマンはカークの両手をとると、晴れやかな笑顔を見せながらこう言った。
「わたし、あなたのこと、わすれませんよ」
一点の曇りもない、それ故に何処か違和感の残る微笑み。
……え、ええ。……ありがとう、ございます?」
顔を引きつらせながらもカークがそう答えた事で満足したのか、コールマンはにこにこと笑いながら元の部屋へと戻っていく。
娘への愛情は本物であろうとも、不可解な人物であることには変わりないらしい。完全に調子を崩されたカークだったが、すぐさま気を取り直すと目的の少女の部屋の扉に手をのばした。

そこにロックは掛かっていなかった。何の抵抗もなくスライドした扉の先には、一般船室よりやや窮屈な空間がある。ベッドと小さな腰掛けのみが据え付けられたその中心で、一人の少女がこちらに顔を向けていた。
柔らかいウェーブを描きつつ、肩の位置で切り揃えられたブロンドの髪の毛。ぱっちりと見開かれた明るいブラウンの瞳とあどけなさを残しつつ聡明さを感じさせるその容姿は紛れもない美少女といって差し支えないだろう。
「やぁ、ドクター・ジャニス。お邪魔で無ければ君と話がしたいんだ。そちらへ行ってもいいかな?」
「キャプテン・カーク。わざわざご足労お掛けして申し訳ありません。ようこそおいで下さいました」
淡々と、この年頃の少女にしては大人びた、むしろ老成と言ってもよいほどに落ち着いた態度で少女は答えた。そして訪問者を迎えるべく体を起こそうとする彼女をカークは慌てて制止する。
「待ってくれ、無理に起きなくても構わない。ベネシアから運び出されたときより随分顔色が良くなったようだけど、まだ君は……
「構いません。この身体のことはよく分かっていますから。どうせ長くは保ちません」
まるで他人事のように語る少女に、カークは薄ら寒さを感じつつ笑顔で言葉を続けた。
「そう思いながら何故治療を拒否するんだい? ドクターマッコイは当艦の、いや艦隊の誇る名医だ。例え治療が苦痛でも、彼ならきっとうまく対応してくれると思うけどね」
単刀直入に本題を切り出したカークに、意外にも少女は素直に頷いてみせた。
「ドクター・マッコイが名医である事は認めましょう。あのまま死亡する危険の高かった私を、短期間でここまで治癒させて見せた手腕は見事と言えます」
治療を拒否する医者について不信を語るどころか賞賛してみせる少女に、カークの直感が一筋縄では行かない相手だと警告を発する。中途半端な子供扱いは却ってマイナスにしかならないと感じたカークは、ベッド脇のスツールに座って少女と真っ向から対峙した。腰を据えた彼は無機質な少女の瞳をのぞき込みながら語りかける。
「君も、分野は違えど医者だったね。君の研究していた精神療法について、副長のスポックから簡単に説明を受けたよ。……非常に難解だな。私では欠片も理解する事が出来なかった」
「当然でしょうね。あの治療法は我々が『長い時間』をかけて編み出した真理のわずかな一側面に過ぎません。本当の意味で理解するには相応の経験が必要となるでしょう」
「なるほど。分野外の『若造』が、容易に理解できる内容ではないってことかな?」
艦隊の誇る最年少艦長の言葉に、一二歳の少女は虚を突かれたように目を見開き、そして右の口端だけを奇妙に歪めて見せた。子供が浮かべる笑顔、と言うにはかなり歪な表情ではあったが。それでも彼女はカークの発した冗談に確かに笑っているらしい。
「キャプテン・カーク。私の分身とも言える研究分野に興味を持ってくれた事にはとても感謝しています。実は、私もあなたに興味があるのです。……あなたをよく知るために、一つお願いしたい事があるのですが、構いませんか?」
「もちろんだよ、ジャニス。私に出来る事なら何でも言ってくれ」
少女からの丁寧なお願いに、カークは人好きのするあの見事な笑顔を浮かべてみせた。打算計算からの作り笑いではなく、苦しんでいるであろう彼女のために心からそう思っている事が伝わるような優しい表情。
そんな笑顔が向けられた先で、少女のブラウンの瞳からすうと色が掻き消えた。


ふと、カークは少女の周囲が薄暗くなっている事に気がついた。単になにかの影になっているのかと思ったが、この簡素な個室に照明を遮るものがあるわけがない。よく見れば彼女の周囲に、何か濃い灰色の霧状の何かが漂っているように見える。そう彼が違和感を認識した途端、目前の巨大な霧に赤い光が浮かび上がり、異形の姿を象って自分の身体にのし掛かってきた。何の臭いも、触感も、何の手応えのないそれは自分の皮膚をやすやすとすり抜けて……
自分の奥深く、腹底の臓腑を固く鷲掴みにするかのような感覚が唐突にカークの身体を縛り付ける。心臓は驚くほどの早さで脈を打ち熱を発するが、身体全体は急速に熱を失い制御がとれなくなる。一刻も早く逃げなければ。アイツを、あの赤い異形の双眸を、見続けてはならない。今まで幾度も自分と艦を救ってきた直感めいた警鐘が頭蓋の中を何重にも反響する。が、知るはずのない遠い場所と時間、記憶と感情、膨大なその奔流が、彼の脳神経を焼き切らんばかりに駆け巡り、塗り潰し、 彼の意識が本能が上げる叫びすらも押し潰していく。

もはや何者かも分からなくなった彼が最後に認識できたのは、明るく、暖かく、そしてやっと巡り会えた己の居場所から、自分の魂が確実に切り離され黒く淀む奈落の底へと墜落していく。そんな確信に満ちた、絶望感だった。



傷病人を隔離するためのその小さな部屋にはベッドが置かれており、その上で一人の少女がすやすやと寝息を立てていた。

「だ、大丈夫かい。……うまく、いったのか?」
隔離された部屋と外界を繋ぐ唯一の扉から顔を覗かせた初老の男は身体を震わせながら、ベッドの傍らに立つ一人の人影に声をかけた。
彼は目を閉じたまま、まるで黙祷をするように頭を垂れていた。コマンダーゴールドの制服からすらりと伸びた四肢と綺麗に整えられたブロンドの髪、そしてルネサンス期の彫像のように整った、だがやや幼さを感じさせる甘い顔。数秒の沈黙の後、黄金色の睫毛の間から碧玉が覗き、水底を思わせる虹彩がハッキリと入り口に立ち尽くすコールマンの姿を捕らえるのにさほど時間はかからなかった。
「ああ、ドクター・コールマン。何事も無くすべてが順調だよ」
空気を震わせたのは、宇宙艦隊 スターフリートの若き英雄にしてエンタープライズ号艦長であるジェイムス・T・カークの自信に満ちた声だ。
「いや、順調と言う言葉では足りないな。予想以上の成果と言っていいだろう。もっとも、今後の処置を間違えなければだが?」
カークが視線を寝台の上に眠る少女に向ければ、コールマンもそれに続いた。
……え、ええ。すぐに『処置』をしましょう。ドクター・マッコイが感づく前に」
「そうしてくれ。なんだったら『処分』までして貰っても構わないぞ? 私が君に出遭ったときのように」
そう言ってカークはわらった。右の口端だけを歪ませ、人を嘲るような禍々しい嗤い方だった。