yasaka
2022-11-25 21:56:45
14169文字
Public Star trek
 

【JJST】Turnabout Invader 01

エンプラの三TOPが格好良く活躍する話!と頑張ったら予想外に長くなりました(1/6)
元ネタはTOSシーズン3。"Turnabout Intruder"こと「変身!カーク船長の危機」から
June 19, 2016

※加筆修正版: https://thefireworks.booth.pm/items/3400342


緊急遭難信号を受けて数時間。ほぼ形だけとなってしまった救助活動を終えて停泊するエンタープライズから見えるのは、虚空に漂う残骸と成り果てたステーションの姿だ。その状況と残された僅かな記録を照合すると突然動力炉が暴走を始め隔壁どころか多くの乗組員もろとも焼き尽くしてしまったらしい。
「ベネシアステーションの生存者は、事故初期の段階で避難シェルターへ逃げ込むことの出来た二名だけのようです」
報告を読み上げるスポックの横でキャプテンチェアに座るカークの表情は曇っていた。
「百名近かった人員はほぼ全滅か。……俺たちがもっと早くに駆けつけていられれば、助けられた命もあっただろうか?」
「前提となる条件があまりに非現実的です。当時、周辺に我々以外救助が可能な航宙艦は無く、直前までワープドライブを行っていた我々があのタイミングより以前に遭難信号を受信できた可能性はありませんでした。当然ながら、信号受信直後から常に最大巡航速度で移動することも不可能ですので『もっと早くに駆けつける』ことは困難だったでしょう。それらを踏まえた上で可能な限り早期に到着できたと仮定し、現状以上の生存者を救助出来た可能性を算出したところで、その数値は一〇%未満になるかと思われますが?」
スポックが淡々と語る様を聴きながらカークは小さく微笑んだ。それは確かに無味乾燥な現実の羅列でしかないのだがその発言の根本には人命を救助できなかったと悔やむ上官を僅かでも慰めようとする意図がある。言葉に出して確認すれば即座に否定されてしまうであろうその心遣いは、カークがこの場所に座してから僅かずつ積み重ねていった時間が生んだ結果に違いない。
「そうだな。悲劇をただ悔やむので無く、何故起きてしまったのかを建設的に調べることにしよう。生存者の容態はどうなんだ?」
出てしまった犠牲にばかり目を向けては居られない。それを骨身をもって知るカークはすぐさま視点を切り替えた。医療実験を目的として作られた小規模ステーションで何故このような惨事が起きたのか。エンタープライズには事故調査を行う任務があった。同型の動力炉が連邦内で多数稼働している事実を踏まえ、司令部から事故原因の詳細を調査せよとの命が下りたのだ。 現在、機関主任のスコットをリーダーとした調査チームが上陸して調査をしているが、事故の当時を知る生存者二人からも情報が欲しい。そんな艦長の意図をスポックは即座に察したようだった。
「シックベイからの報告によれば、生存者の一人である医師のコールマン博士はほぼ無傷のようです。彼から事故当時の証言を得る事も可能でしょう」
「なら善は急げだ。スールー、しばらく艦の指揮を頼む」
「アイ、キャプテン」
操舵士からの返事を受けカークは素早く立ち上がる。リフトへ向かう彼の半歩後ろにスポックは即座に付き従った。


「生存者はもう一人いたな。博士は問題なさそうだとして、もう一人の容態はどうなんだ?」
「コールマン博士の娘であるジャニス・コールマン博士は避難時の防護が不完全だったようで重症との報告が来ています。詳細はドクターの診断を待たねばなりませんが、今の時点で彼女からの事情聴取は不可能かと」
……博士の娘が博士? 収容した生存者は男性と……まだ子供だったように見えたんだが」
副長からの報告に僅かながら違和感を感じたカークは即座にその部分を尋ね返す。
日頃の例に漏れず、今回も真っ先に危険な救助作業へ飛び込んでいったカークは生存者達の姿を直接目にしていた。一人は随分疲労した様子の白髪混じりの男性で、もう一人はまだあどけなさを残した少女だったはずだ。医療班が用意したストレッチャーに乗せられ搬送される最中、遠巻きに眺める自分の事をずっと見つめ返していた明るいブラウンの瞳が強く印象に残っている。当然、とても博士という称号が使われるような年齢には見えなかった。連邦内には成人であっても外見が幼く見える異星人も居るが、彼女は自分と同じ地球人のはずだ。そんな上官の混乱を優秀な副長はまたしてもすぐ読みとったらしい。
「年齢のみを問題にするならば、確かに彼女は子供と表現して差し支えないでしょう。ジャニス・コールマン博士の年齢は、連邦標準時間で一二歳五ヶ月です。その一方で、彼女は一〇歳の時点で連邦の高等教育カリキュラムを修了させ、父親との共著とはいえ、既に精神医学の分野において幾つかの革新的な論文を発表している研究者でもあるようです」
「その若さで第一線の研究者なのか。とんでもない才能だな!」
スポックによって読み上げられた輝かしいと表現するに相応しい経歴の数々にカークは驚きに満ちた声を上げる。二五歳の若さで大佐に昇進、かつ、最新鋭の航宙艦艦長を任じられた自身の功績などまるっきり棚に上げたその様子を表立って非難するような人物は……幸か不幸かこの場には不在だ。

「事故のあったベネシアでコールマン親子は専門である精神医学の研究を継続していたようです。一時かなり激しい議論を呼んだ研究でしたので、私も一度だけ論文を閲覧したことがあります。まさか執筆者が彼女のような年端もいかない少女だとは思いませんでしたが」
「へぇ、君ほどの男が思わず気にする研究とはね。どういう内容だったんだ?」
純粋な好奇心から口にのぼった質問だったが、間髪入れずに返ってきた難解な答えにはさすがのカークも反応が出来なかった。
「この論文の基本的な考え方は、知識生命体の自我は別次元に存在し、脳を中継器として現実世界を認識しているというものです。目や耳から入ってくる情報を総括し何らかの意識感情を呼び起こしているのは現実世界の脳ではなく、別次元に存在するその自我だと」
……ええと、人の自我が、別次元? それは、また、随分突拍子もない話だな……
日頃の忠誠心よりもヴァルカン人としての知的好奇心が勝ったか。常に上官の一挙手一投足を正確に読みとってきた彼にしては珍しく、やや逃げ腰になったカークの姿などまったく意に介せずスポックは更に詳細な説明を続けた。
「一見奇矯な考え方ではありますが、発想自体は特段斬新なものではありません。肉体の活動とは異なる、いわゆる魂の存在を別世界に定義する動きは様々な文化や宗教で存在します。ユングの集団的無意識は言うに及ばず、ヴァルカン哲学にも近い概念は存在していますので、それらの応用と見れば十分理解は可能です。むしろ、この主張の独創的な点は、現実世界の多くの肉体は単なる物理的な器に過ぎず、別次元の自我とはただ無関係に結びついている。よって自我と肉体の結合に意味など無いとしたところです。魂と肉体の結合は不可侵なものであるという主張が大多数を占める現状で、この主張は各地で論争を呼び……
小さく言葉を切ってからスポックはちらりとカークへ視線を向けた。説明に一区切り着いたことでようやく彼の意識がカークの半歩後ろへ戻ってきたらしい。カークは小さく苦笑すると黙って先を促した。
……要点のみを言うのであれば、精神疾患とはその患者の魂と肉体が拒絶反応を起こしている状態であり、現在の不適合な魂と肉体を切り離し、魂に正しく適合するような別の肉体に魂を移植することで全ての疾患は解決するという内容です。実現可能性はさておき、コールマン親子の考えは惑星連邦内にいる多くの知的生命体が数千、数万年単位で積み上げてきた生命と魂のあり方の関係、精神と肉体は不可分かという基本倫理に真っ向から対立するものであったと言う点については間違いありません」
「なるほど。まったく理解出来ないなりに、彼女達の論文が物議を醸した理由は分かったよ。……人の魂と肉体が簡単に入れ替え可能だという考え方は確かに受け入れがたい。病気の治療のためだとしても、次の日から全く別の身体で生活しろだなんてゾッとする。そういう認識で間違いは無いな?」
スポックが無表情で相づちを打つのに合わせたかのようにリフトが止まる。開いた扉を通り過ぎながらカークは困ったように肩をすくめた。
「しかし、彼らの研究がそういう内容だとなると、今回の事故原因について確信的な事柄は聞けそうに無いな」
「ええ、今回の事故は明らかにステーションの動力炉が原因です。技術的な情報を得たいのならば上陸中の調査班とスコット少佐の報告を待つべきだと思われます」
「やれやれ。彼らが動力炉の技術者だったらよかったんだが、そう楽は出来ないか。とりあえず簡単に当時の状況を聞いておこう。事故報告をまとめる時に参考にはなるはずだ」
手慣れた遣り取りで調査方針を定めながら、真っ直ぐに延びた通路を進んでいく。やがて見えてきた目的地の前で、二人は揃って足を止めた。


扉の開く圧縮音と共にシックベイへの視界が開けたとき、真っ先にカークの耳に飛び込んできのは耳慣れた男の怒鳴り声だった。
「そりゃどういう意味だ! あんた、自分の娘が死んでもいいって言うのか!?」
驚いたカークが周囲を見回せば、戸惑うように壁際に身を寄せる看護師達と、完全に頭に血を上らせたマッコイがいた。常日頃、隣の副長から感情的すぎると指摘されては激しい舌戦を繰り返す彼だが、医師としての役割を果たしている最中にこうも激高する姿は珍しい。こちらに気づいた看護士からのすがるような視線にカークはやれやれと肩をすくめた。
「おいおい、一体どうしたんだよ『マッコイ先生』。医療主任が血相変えてるせいで、シックベイ中の看護師が怯えてるぞ?」
「ジム!」
おどけたカークからの呼び掛けに、彼もようやく二人が部屋に来た事に気づいたらしい。それと同時に多少の冷静さも取り戻したようだ。マッコイはゆっくりと頭を降ると眉間の皺をさらに深くしながらカーク達の方へと向き直った。
「どうしたもこうしたもあるか! コールマン博士が、突然自分の娘に治療は不要だと言いだしたんだ」
途方に暮れたようなその言葉に、カークとスポックは顔を見合わせる。先ほど聞いた報告からすればコールマンの娘というのは例の重症を負った天才少女の事だろう。医者である父親が娘の治療方針に異を唱えたと言うのならば理解は出来るが、治療自体が不要というのはどういうことなのか。

「ど、ドクター・マッコイ。じ、自分の娘を殺したい親なんか、居るわけないじゃないか……治療が不要だというのは私の意見では無いよ。あ、あくまで、アイツ自身がこれ以上の治療は不要だ。と言っているから……
不意にマッコイの背後からか細い声が聞こえた。視線を向ければ落ち着き無く視線を彷徨わせる気の弱そうな男性が立っている。おそらく彼が問題のコールマン博士なのだろう。あまりに希薄なその存在感はこの部屋に入ってからたった今までその存在に気づけなかったほどだ。発言や仕草に現れる優柔不断を絵に描いたようなその様子は時に人命を預かる医者だとはカークにはとても思えない。
「ドクター・コールマン! あんたはまだそんな事を言うのか?! 今は子供のワガママに付き合っている場合じゃない。直近の危機は脱したとは言え、あなたの娘さんは重篤なエネルギー障害で依然危険な状態なんだ。全体的な身体機能が低下していて、このまま放置すれば死に至るのは明らかだろう。あなたも医者の端くれであるなら良くわかってるはずじゃないのか!」
「あぁ、うん。アイツが危険な状態だというのは分かっている。……分かっているからこそ、本人の意志を、なんというか、尊重してあげたほうがいいんじゃないかと思うんだが……
「と、こういう具合だ! いきなり本人が治療を拒絶して、父親以外の人間が近づく事を許さない。本人を拘束して治療しようにも、この通り保護者であるコールマン博士が首を縦に振らない!」
重症患者とその保護者による思いも寄らぬ妨害に天を仰ぐマッコイに向け小首を傾げたのはスポックだ。
「なるほど。では、問題のジャニス・コールマン本人は今どこに?」
「奥の患者用個室だ。一応部屋ごとモニタリングは続けてるので異常があればこのモニタに通知が来るようにはしてある。だが、艦隊規約に従う以上それ以上手の出しようが無い。個人的には今すぐあのドアをこじ開けて無理矢理治療してやりたいんだがな!」
「そのような衝動は何としてでも抑制して戴きたい。最悪の場合、当艦全体の責任問題となる」
「だぁから、彼を必死に説得してるんだ! このトンガリ耳!」

唐突に始まったいつもの掛け合いに入りそびれてしまったカークは、何とはなしにシックベイの奥へと顔を向けた。開けた治療室と異なり細かに壁で区切られた個室の扉が並ぶ区画。各々の扉に用意された透明な窓のその一つに視線を止め、何気なく動かした次の瞬間。視界の端に一瞬だけ映ったのは真っ赤にぎらつく異形の双眸だ。いきなりに現れた異様な視線ににカークは思わず後ずさる。
「ったく。事故調査の証言を取りに来たんだろう? すまんが後にしてくれないか。今はとにかくこの頑固親子の主義主張をひっくり返さなきゃならん。どんな理由があるのかは知らんがここに運び込まれた患者である以上、俺は治療を諦めるつもりは無いからな!」
個室に背を向けているマッコイは何も気付かず言葉を続ける。半歩後ろのスポックを見れば、彼もマッコイとの会話に興味を引かれて気づいていないらしい。カークが再度視線を個室の方へ戻してみれば、異形の姿は完全に掻き消えていた。部屋の情報が表示されているというモニタ上にも何の異変も見られない。
……出直そうミスター・スポック。事故の事を聞いてる状況じゃないようだ」
「そのようですね」
さっきの不気味な存在は何だったのか。単なる気のせいか、機械のランプでも見間違えたのか。得体の知れない存在を知覚してしまった不快感と、それに付随するほんの僅かな好奇心がカークの後ろ髪を引く。しかし、必死の説得を続ける医療主任。それに流されているようで頑として首を縦に降らない患者の父の間で、なお事態をややこしくするような行動はとるわけにもいかないだろう。
スポックに声をかけながらカークは三度部屋に視線を向ける。変わらず沈黙を守る扉の向こうに、カークは黙って踵を返した。