yasaka
2022-11-25 21:56:45
14169文字
Public Star trek
 

【JJST】Turnabout Invader 01

エンプラの三TOPが格好良く活躍する話!と頑張ったら予想外に長くなりました(1/6)
元ネタはTOSシーズン3。"Turnabout Intruder"こと「変身!カーク船長の危機」から
June 19, 2016

※加筆修正版: https://thefireworks.booth.pm/items/3400342


「やれやれ、やっと退屈な任務が終わったな」
目に見えてぐったりした様子のカークは、トレイ上のパンをちぎりながら辟易とした口調でそう言った。

惑星連邦宇宙艦隊 スターフリート 所属の最新鋭艦U.S.S.エンタープライズ号は、連邦所属の某惑星における首長就任数十年記念の式典参加という至極平和な任務を終え次の目的地に向けて航行中である。
各政府の要人が集った式典も、その後連日連夜にわたった各種パーティー、様々な公式非公式の会談達も平穏の無事のうちに終了し、来賓という立場から湧き上がるあくびを噛み殺す以外自発的な行動を制限されていたカークは、苦痛に満ちた任務からの解放を心から謳歌していた。連邦各地から掻き集められた贅を尽くした食事や酒も延々続く宴の最中にあってはもはや退屈を精神に染みこませるだけの毒でしかなく、冒険心溢れる若き英雄はこの数日心底食傷していたらしい。その程度と言えば、食堂でレプリケートされた質素なパンを見るなり両目に涙を浮かばせたほどだ。
夜半に帰艦したカークと異なり、他の多くの乗組員は通常シフト中であるため士官食堂内の人影はまばらである。しかしながら。そのキャプテンらしからぬ態度と言い様に、向かいに座る優秀な副長が反応しないはずがなかった。
「キャプテン。要人の送迎、またそれに伴う外交活動といった内容も我々の重要な任務です」
「わかってるさ」
即座に跳ね上がった彼の片眉は、感情を完全に抑制するというヴァルカンの数少ない管轄区域外だということをカークは知っている。乗組員の耳に入りでもすれば今後の士気に影響を及しかねないと厳しい視線を向けるスポックにカークはわざとらしく肩をすくめてみせた。そして名前からして食欲を激減させるような伝統食 プロミークスープを規則的に口へと運ぶ相手をちらりと見上げた。
「わかってはいるが、こうも人の顔色を伺うばかりの任務はいい加減ウンザリだ。君だってそうだろ? 最後のダンスパーティーには頑なに下りてこなかったじゃないか」
「キャプテンが長期にわたって艦を離れている以上、副長である私まで艦を離れ続けるわけにはいきません」
「あのなぁ。連邦内でも極めて平和な惑星の、その更に警戒厳重な宙港のど真ん中に停泊させられてたんだぞ? 指揮なんかスコッティに任せきりで良かったはずだろ」
日頃から故郷の酒以外呑む気がしないと豪語しつつ、パーティー出席者に各地の美酒が振る舞われたと聞きつけるや否や「不公平だ!」とコミュニケーター越しに喚めきたてた機関主任だったが、首長夫人からの『個人的な好意』によって入手した惑星随一の銘酒をカークから受け取った後は、ご満悦の表情で艦長代理を努めていたのだ。連日続いた式典の最終日。要人家族の集うダンスパーティーの段になって副長だけそそくさと艦へ戻る理由など無かったはずだ。そう指摘するなり今まで機械のように動いていたスプーンをが止まった。カークが黙って返答を待っていると、やがて何処か観念したかのように僅かに息を吐く音がテーブル上に響いた。
……ああいった他人との接触が多い場は、私個人ににとって負担が大きく、それを理由に参加を見送った事は事実です」
「接触? ああ、そうか。君達は触れた相手の精神を読めるんだったな」
ヴァルカン人には長く種族間で磨き上げたテレパシー能力があり、直接触れた相手と精神的に接触することができるという。今更ながら思い出したとカークはその場で何度も頷いた。
「はい。精神的な接触は精神感応能力の無い種族相手において失礼に当たるため、通常私はこの感覚を遮断しています。しかし率先して他者と、文字通りの意味で、触れあう必要性は感じられません」
「そいつは悪かった。だが、そういう事情があるなら最初からそう言ってくれればよかったじゃないか。その前の式典だのパーティーだの大変だっただろ?」
「いえ、それは……
濃いチョコレートブラウンの双眸にわずかに表れたのは紛れもない『困惑』だ。他多くのヴァルカン人と同様、接触テレパスとしての能力を有するスポックだったが、何故かその能力について詳細に語る事を嫌う傾向があった。地球人に語ったところで理解されないという諦観もあるのだろうが、彼の場合その話題自体を一種のタブーのように感じているらしい。口さがない医療主任にかかれば「論理という鉄の皮を被った尖り耳の徹底的な排他主義」とも表現されるヴァルカン人の精神世界だが、別の時間軸から現れたもう一人の『スポック』は、カークとの遣り取りに置いてそれほど気にしていない様子なので、なお一層理解しがたい物がある。彼の居た宇宙では、ヴァルカンはもっと柔和な思考の種族だったのだろうか? 常々疑問に思っているカークだが、別の宇宙を覗く事が出来ない以上その答えが明らかになる事はないのだろう。
「我々は幼少期から自身の能力を制御する訓練を受けていますので、人が多い程度であればなんら問題はありません。ただ、不特定多数の人物とダンスを行うとなると……これは、ヴァルカンの非常に特殊な文化的側面の話になりますが、我々にとって他人と手指を触れ合わせることは別の意味合いを含むのです」
「別の意味合い?」
思わず尋ね返したカークの傍らから、突如耳慣れた発信音が響き渡った。

「カークだ、どうした?」
『キャプテン。一八〇秒前に近傍ステーションから 緊急遭難信号 メーデー を受信しました。発信元はベネシアⅢ、連邦の研究用医療ステーションです。発信後、通信が途絶しているため詳細は不明。当艦から再通信を試みていますが応答がありません』
反射的にに対応したコミュニケーターから聞こえたのは、冷静ながらも何処か緊迫したウフーラの声だ。スピーカーから漏れたその声音と内容に向かいのスポックも即座に表情を変える。
「わかった。通信帯を固定して呼びかけを継続。同時に総員に緊急配置につくように伝えてくれ。現在の行われているすべての任務は中止だ。即時反転してベネシアへ向かう。近隣を航行中の他の航宙艦から連絡は?」
『当艦以外で信号受信範囲にいたと思われるのは地球へ帰還中のU.S.S.アーリントンですが、直後にワープ航行に入っため通信は不可能です』
「では直ちに司令部に通報。万一、クリンゴンとの交戦があった場合に備えアーリントンを近隣宙域へ待機させて欲しいと伝えてくれ。それと、今の時間だとそこに居るのはチェコフだな? 俺たちがブリッジに戻るまでに最短で向かう航路の割り出しを頼む。準備ができ次第救援に向かうぞ」
『了解』
あの彼女の容姿を思わせる凜とした応答の直後、艦内に緊急事態を知らせるアラーム音が響き渡る。
食堂にいた士官達が顔色を変えて外へ駆けだしていくのを見送りつつ、カークとスポックもすぐさま立ち上がった。
「行くぞ、スポック」
「はい、キャプテン」