【フィル風】カルガモ

【アンデッドアンラック】でフィル=ホーキンス×出雲風子
ループ後の世界で組織内の名物化する風子さんとフィルくんなお話。
※これ書いている人1~18巻読破並びにwj44以降読み始めた為19巻~wj43の間がすっぽり抜けているので設定とか諸々何か違くね?という点からそっと目を逸らして頂けると大変ありがたいです。


きちんと閉められていなかった扉の隙間から見えた姿に何故か目が離せなかった。
僅かに見えてすぐ隠れた横顔を目で追い眺めていたら一緒にあやとりをしていたお母さんに声を掛けられた。
「気になるなら行っておいで」
穏やかに微笑むお母さんに促されたボクは頷いてから見えなくなった背中を追うため部屋から出た。
如何して追い掛けたくなったのか分からない。理解できない思考は静けさを伴い、追いかけていた背中を見つけた途端、それは更に静かになっていく。
何の理由もなく後を追いかけていたらお姉ちゃんが立ち止まった。視界にずっと映り込む背中、頭の中に残っている顔がもう一度見たくてボクはお姉ちゃんの上着を気付けば引っ張っていた。
振り返り後方を確認するお姉ちゃんの視界のズレを調整するためもう一度引っ張った。ボクに気付いてパッと表情を変え視線の高さを合わせてくれるお姉ちゃんをじぃっと見詰める。扉の隙間から見えていた顔とは違う、間近に見える眼差しの近さとの違いを頭の中で間違い探しみたいにひとつひとつ上げていたらお姉ちゃんに問い掛けられた。
次の課題についてかと言われたので首を横に振う。少しだけ考えた後今度はお母さんを探している?と言われた。それも違う。けれど、否定する事も出来たのにボクは首を振るわず天井を見上げてから頷いていた。
柔らかく微笑む姿はお母さんに似ていたけどちょっと違う。目を逸らさず見続けていたら目の前に手を差し出された。お姉ちゃんの顔と、差し出された手を交互に見る。こうされた時の答えを記憶から引っ張り出して実行に移す。上に向けられたお姉ちゃんの手のひらに僕の手を重ねた。
折り畳むように閉じていくお姉ちゃんの指にボクの手の甲が隠れる。それに合わせてボクの指も揃えて折りたたみギュッと握れば、お姉ちゃんがそれに合わせてやわく握り返してくれた。
一緒に歩きながらお姉ちゃんは色んなお話をしてくれた。コロコロ変わる表情は見ていて飽きない。その中でも一番見る頻度が高い表情を自分の口端を押し上げて伝えた。

「フィルくんとお話するのが楽しくて、って私が勝手に喋ってんだけど」

ボクは言葉を発する事が出来ないけれど、お姉ちゃんのお話はもっと沢山聞きたいって思う。
それが何故なのか分からない。でも、気付けば両手でお姉ちゃんの手を握っていた。

「はーい。到着ー」
さっきまでいたボクの部屋にお姉ちゃんが連れて来てくれた。
部屋の奥、帰りを待っていたお母さんが「おかえり」と声を掛けてくれる。それからボクは隣にいるお姉ちゃんを見上げていれば「行っておいで」と目で促されたので、手を離しお母さんのもとに近付いた。
両手を広げ待ってくれているお母さんの胸に抱き着いた後、後方を振り返って手を振るう。映画で見たシーンで同じような事があったから真似をすれば、お姉ちゃんが手を振り返してくれた。
また見えなくなった姿を目で追っていたら頭の上からお母さんの子が降ってくる。
「楽しかった?」
問い掛けられた言葉に対する答えはこれでいいのか分からない。でも、ボクはお母さんの目を見詰めて頷いた。



その後、ボクは組織内の監視カメラを通してお姉ちゃんの姿を追い始めた。
ボクに気付かず別の場所に行ったらそのまま。ボクに気付いてくれたら、お姉ちゃんが提示する話の内容に寄って首を縦に振うをくり返す。何でそこまでするのかボク自身分からない。結局、してしまう矛盾と疑問の答えは結局見つからなかった。
一緒に映画を見た。お姉ちゃんは音で驚かす演出が苦手なのか、体をビクつかせ絶叫していた。
一緒にあやとりもした。はじめはたどたどしかったお姉ちゃんも取るのが上手くなってきた。
一緒に同じ本を読んだりもした。同じ本を読むからお姉ちゃんの膝の上に乗って一緒に読んだ。
どんどんボクが好きな事を一緒に過ごしてくれる時間が長くなるにつれ、お姉ちゃんが笑ってくれる時間が回数が伸び増えていった。

休眠状態時、脳内に響く電子音で覚醒する。
隣で寝ているお母さんを起こさないよう音を立てず部屋から出た。組織内にある無数の監視カメラの映像を振り分ける。追いかけたい情報だけピックアップして其方に足を向けた。
いつもなら休んでいる時間帯にもかかわらず動いている事が不思議だった。何かの課題に行くのだろうか。
角を曲がった先、普段より光源が弱い廊下にお姉ちゃんを見付け近づいたのに、お姉ちゃんは何故か歩行速度を上げる。それに合わせボクも歩行速度を上げれば今度は駆け出した。
脳内にある記憶を引っ張り出す。鬼ごっこという遊びに酷似する状況にボクは廊下の床を蹴り駆け出していた。鬼ごっこなら鬼であるボクがお姉ちゃんを追い掛け捕まえないと。
タイミングよく何故か此方に振り返るお姉ちゃんに合わせ一気に距離を詰めた。

『捕まえた』

声帯器官から発せられない言葉を声を脳内で綴る。
結果的にボクを抱き留めてくれたお姉ちゃんに問われた事に頷けば、お姉ちゃんの心拍数が落ち着き始めているのが分かった。
それから手袋越しに頭を撫でてくれる感覚によくボクの頭を撫でてくれるお母さんの姿が思い浮かぶも、如何してもピッタリと重なる事は無かった。撫でる力と動きが違うのか、そもそも撫でてくれる対象が違うからか分からない。

「そういえば何でこんな時間にいるの」

新たに問われた疑問にボクは答えられずにいる。それは声帯器官から声を発せられないからではない。
だから話の要点をズラすべく、ボクはお姉ちゃんの背中に回していた腕を解いてその指先をお姉ちゃんに向けた。すると、お姉ちゃんは眠れないからお散歩していたと言う。それに乗っかるかたちでボクもそうだと、本当の事を隠して偽りを答えた。
そうしたらお姉ちゃん腕を組んで悩んでからボクをお母さんのところまで送ろうと手を差し伸べる。反射的に伸ばしそうになる両手を背中に隠し後退る。これを掴んでしまったら、きっとお姉ちゃんは真っすぐボクをお母さんの所へ送り届けるに違いない。
ボクは──何故だか分からないけれど、まだお姉ちゃんから離れたくなかった。一緒にいたい時間を引き延ばしたくて距離を詰めるお姉ちゃんに合わせて後ろに下がっていく。
でも、お母さんが心配しているという言葉にボクはお姉ちゃんの手を取るも、一緒にいたい時間を手放したくなくて足を動かせずにいた。
ピンと伸ばされたお姉ちゃんの腕。此方を振り返り見遣る表情は何処か困っているよう。踏み出そうとしていた足を戻したお姉ちゃんがそのままボクを抱き上げた。
ぐんっとお姉ちゃんとの視線が近くなる。古代遺物の体はボクが予想していた以上に軽いらしい。それでも片手で持ち上げるのはお姉ちゃんが鍛えているからだと思うけれど。
伸ばさなくても簡単に届く距離。脳裏に浮かぶお母さんとの記憶。抱き締めて頬を擦り合わせる記憶が容易く触れ合える柔らかくてあたたかな感覚を指先から頬から感じたいと言っている気がする。

「──セーフ」

でも、呆気なくボクの行動は止められた。古代遺物の体になったとしても不運が訪れないとも限らない。
それはそうだけど、割り切れない何かが抗議の声を上げている、気がする。だけど、それはすぐさまスッと引いていき静かになっていく。
お姉ちゃんに言われ服に覆われている肩を控えめに掴んだ。歩くのに合わせ微かに上下する体。静寂が包み込む廊下は薄暗く誰ともすれ違わない。ボクは真っすぐお母さんがいる部屋に行くものだと思っていたけれど、お姉ちゃんは気を遣ってかちょっとだけ遠回りしてくれた。
少しだけ長くなった一緒にいる時間。それに古代遺物の体に熱が灯り、そして、また消えていった。