【フィル風】カルガモ

【アンデッドアンラック】でフィル=ホーキンス×出雲風子
ループ後の世界で組織内の名物化する風子さんとフィルくんなお話。
※これ書いている人1~18巻読破並びにwj44以降読み始めた為19巻~wj43の間がすっぽり抜けているので設定とか諸々何か違くね?という点からそっと目を逸らして頂けると大変ありがたいです。


相変わらず変な癖は直らず、自室に鍵を掛けたところで無意識に開錠して廊下を徘徊しては意味が無い。
しかも、聞くところによると何やら私のあとをフィルくんがトコトコついて歩く姿を何人もの組織内の人たちが目撃しているらしい。その姿がまるでカルガモ親子のようだとかも。
カルガモ親子かどうかは置いといて全く意識していなかったけど、確かに最近廊下を歩いている時にフィルくんとよく会っているような。回数は両手じゃもう足りない。
フィルくんが私を追い掛ける理由は様々。
一緒に映画を見たり。
「(前に見た映画はホラーものでちょっと怖かったな)」
あやとりしたり。
「(結構つっかえず出来るようになってきたし)」
読書したりと。
「(同じ本をフィルくん私の膝の上に乗って一緒に読んだっけ)」
会う回数が増えるに比例して何となく彼が何を求めいるのか、前の世界では知らなかった事がリバーシみたいにどんどん裏返っていく感覚に嬉しくなって目を眇める。フィルくんだけじゃない前の世界では決して仲が良かったとは言えない今の頼りになる仲間たちとの日々は楽しくて笑いが絶えない。

でも、同時にひたひたと近付く足音に私は決して心を休められない。



掌から零れ落ちる砂の一粒すら落としたくない。全部拾い上げて握りしめ進みたい焦燥感は自分が意識している以上に日に日に募る。
だけど、此処で焦って進める駒を間違えたら意味がない。あるようでないタイムリミットを絡めながら課題をクリアしなくてはならない。目指すは最高の未来。神を倒した先にある、誰もが幸せになる未来。

「(でも、皆がいてくれるから心強い仲間がいてくれるから)」

胸の中に燻り大火になろうとする焦燥感は燃え滾る威力をそのままに眩いほどの期待感へと昇華する。
まだ会えていない皆と会うんだ。絶望に沈む前の皆の手を全部掴むんだ。繋いだ手はもう絶対に離さない。



決意に満ちた夢は眠りを浅くする。ぼんやりする視界と頭の中。仰向けからうつ伏せに寝返りを打ち目頭を親指と人差し指で揉む。暗闇の中、枕元に置いた目覚まし時計を引っ掴んで文字盤を睨みつける。
……午前3時」
起きるまでにはまだ時間がある。かと言ってもう一度寝るには眠気が足りない。
ベッドの中でもだもだするより、着替えて散歩して気分転換した方がいいというのに辿り着き、覚醒しきらない頭と体で普段より時間を掛けて着替えた。
こんな時間帯でも起きている人は起きており、でも昼間より抑えられた照明の明かりの下、廊下を歩いていく。すれ違う人はいない。無機質な電子音、機械の駆動音が廊下に響き染み入る空間は静寂の色が濃い。
「ニコさんたち起きてそう」
人の事は言えないが、根詰めるのも程々にと思う。
そして、呟いた独り言は声量を控えたものだったのに想像以上に廊下に響き渡った。思えば自分の足音も当たり前だけど歩くのに合わせ廊下に木霊す様はちょっとだけホラー映画のワンシーンのよう。
「そうそう。主人公が歩いていたらいつの間にか足音が増えて──」
組織内というのもあり気が緩んでいた。鼓膜を震わす自分以外の足音に口を閉じ、俄かに湧き上がる警戒心を宥めながら歩く速度を速める。すると、当たって欲しくない予想が後方から存在感を増しついてきた。
後ろを振り返らず力を込めた爪先が廊下の冷たい床を蹴る。全力疾走、学校の廊下だったら走るなと先生に注意されるの請け合い。此方の速度に合わせ軽快に聞こえる足音から一向に距離が取れない離れない。こうなったら対峙して迎え撃つしかない。踵を返す勢いがそのまま足元からきゅきゅと滑る音が鳴る。
だが、その音に被さるよう向こうが床を蹴る音を拾い、咄嗟に身構え来るであろう衝撃を待ち構えていれば其れは確かに衝撃としてやって来た。
緩やかに進む世界、目に飛び込む新緑色の柔らかい髪、大きく澄み切った瞳に映り込む自分の顔はかなり吃驚したものだった。
「フィ、フィルくん!?」
ポスンと抱き着く衝撃は少しだけ態勢を崩す程度のものに終わる。
「もしかしなくても追い掛けてきたのってフィルくん?」
確認で尋ねた疑問は小さく頷かれ呆気なく存在自体消え去った。張っていた緊張感が解け込み上がる安堵感からか無意識にフィルくんの頭を撫でた。手袋越しでも分かるふわふわな髪は撫でていて心地よい。
「そういえば何でこんな時間にいるの」
新たに浮かぶ素朴な疑問を問い掛ければフィルくんは私の背中に回していた腕を解き、そっと人差し指を此方に向けた。
「私?私はちょっと眠れなくてお散歩しようと思って。もしかして同じだったりする?」
いつも彼の正解を当てる時に見る大きな瞳が虚空を見遣ったあと此方を見詰め頷く姿に顔が綻ぶ。が、時間が時間。夜更かしは正直あまりよろしくない。というか良くない。
「お母さんのところまで送るよ」
視線をなるべく合わせるため腰を屈め手を差し伸ばしたら、フィルくんは両手を背中に隠して首を横に振ってしまった。
おや?と思いつつ、一歩踏み出せばその分だけフィルくんが後ろに下がる。一歩二歩と続けるも距離が全く縮まらない。
「ほら、急にフィルくんいなくなってお母さん心配してるんじゃないかな」
だから行こう。語り掛けた言葉に大きな瞳が廊下の床へ落とされたあと、上目遣いで此方を見上げながら背中に隠れていた手がそろり伸ばされた。
差し出された小さな手を繋ぎ、じゃあ行こうなんて一歩を踏み出した足は空に浮き床に下りなかった。首だけ振り返る。心なしか踏ん張っている小さな姿を視界に入れるなり、踏み出した足を元に戻した。
感情は分からない。でも、滲み出ている帰りたくないオーラに頬を掻く。脳裏を過る少しくらいなら一緒に散歩してもいいんじゃないかという気持ちをブンブン頭を振るう事で振り払う。子供の夜更かし良くない。
「(というより、お母さんと一緒にいる時間を……)」
頭の中で呟く言葉を誤魔化すようにフィルくんに近付きその体を持ち上げた。古代遺物のお陰か鍛えた結果か定かではないけれど、片手で持ち上げられる重さと近くなり交わる新緑色の瞳に笑いかける。
フィルくんを腕に腰かける形で抱かかえ、何も覆っていない首元と顔に触れないよう気を付けて歩き始めた、筈だった。
「──セーフ」
思ったより不安定な態勢なのか、フィルくんが危うく接触しそうになるのを空いている手で押さえ回避する。
いくら古代遺物の体とはいえ、接触して不運が発動しないとは限らない。ごめんだけど、肩を掴んで欲しいと言えば小さな手が肩に乗せられた。大丈夫そうなのを確認してから止めていた足を動かす。
静かな廊下に木霊する足音がなんだか寂しく感じるのは、きっと──。私は気持ち遠回りしてフィルくんを彼の部屋まで送って行った。