豆炭々炬燵
5570文字
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【新ペニビル】デリーの町に冬がやってきた【旧ペニビル】

新作版、旧作版それぞれのデリーの町に冬がやってきた
ついでに道化師が兄弟のところにやってきた


そわそわ落ち着かず何回母親に宥められようがジョージの瞳がランランと輝き続けている。
いつも以上に速く食べているお陰で口の周りはべったりソース塗れ。それもこれも一秒でも早く外に出たいがため。庭に降り積もった白い雪で遊びたいがため。
「ごちそうさま!」
朝食を食べ終わりジョージがぴょんっと椅子から飛び降る。足と気持ちは待っていたと言わんばかりに逸り出す。だが、スタートダッシュのカウントダウン途中で止められてしまった。
「ほら、口の周り拭いて」
駆け出す寸前だったジョージの腕を掴んだ母親が白いナプキンを差し出した。チラリ母親を見上げたジョージは受け取ったナプキンで口の周りをざっくり拭いた。一分一秒も待ちたくない。ソースを拭いたナプキンをテーブルに置いて「いってきます!」と言い早々にその場を後にした。玄関の開閉音と一緒に興奮気味なジョージの声が食卓にまで届いた。
「それにしても一晩で結構積もったわね」
「今季一番の寒波らしい。当分の間、あいつらの機嫌を損ねないようにしないとな」
「ど、どうして?」
「それはだなビル。――やつらの機嫌が悪くなると時と場所を構わず足元をすくってくるからだ」
「実際お隣の奥さん、雪に埋もれてた窪みに足を取られて怪我したそうよ。あなた達も気を付けなさいね」
「わ、分かった。ききき気を付けるよ」
とっくに外に出たジョージ程でもないけれど雪にはしゃぐ気持ちがビルの食事スピードをやや速めた。



しっかりダウンジャケットを着込んで外に出たら如何だ。防寒着を着てなければマフラーや手袋、帽子一切つけず、朝食時に見た格好のままのジョージが雪と戯れていた。楽しげに吐く息は白く、雪を掴んでは投げる手は真っ赤。絶対寒い筈なのに興奮してか寒さを感じていない様子にビルは思わず額を押さえた。
「ジョ、ジョージィ!」
一回では聞こえなかったのかビルが二度三度大声で叫ぶ。やっと気付いたジョージはビルの姿を見付けるなりブンブン手を振りながら近付き屈託のない顔で見上げた。寒さで赤くなった頬をポケットに突っ込んでいたビルの手が包み込むように触れれば、ビルの手には肩を跳ね上げるくらい冷たい感触が伝わり、逆にジョージは溶けてしまいそうな温もりに目を眇め朗らかに笑みを浮かべた。
「こ、氷漬けに、な、なりたくなけりゃ、うわ、上着取ってこい」
「やだ!」
即答。
「だって僕が取りに行ってる間に他の誰かが雪に跡残すかもしれないじゃん」
「と、取りに行ってる間、見張っといてや、やるよ」
………
ビルの提案にうんともすんとも言わないジョージ。言葉に出していないが不服な顔が全てを物語る。こうなっては意地でも動かないのを知っていたビルは鼻で息を吐き、徐に自分が着ていたダウンジャケットを脱いでジョージの身を包むよう着させた。
「お、お前が風邪をひくと、ぼ、僕の所為になるんだからな」
口ではそう言っているもののビルの表情は柔らかい。
「ビルのジャケットおっきい~!それにあったかーい」
ぶかぶかダウンジャケットの前を締め袖も少し捲る。裾丈においてはジャケットというよりコート並みの長さではあるが寒い中遊んでいたジョージには丁度いい。赤くなった手も両手で包んではあっと息を吹きかければジョージの声が弾む。
「ビリーありがとー!」
また元気よくブンブン手を振って白い雪に向かって駆けて行くジョージを見送ったビルはブルっと身を震わせた。
冷たい空気に触れる度合いが増し思わず二の腕を擦る。一回家に戻ってジョージの上着に手袋、マフラーに帽子を取ってこよう。
ビルが踵を返そうとした時、小さな違和感に動きを止めた。はしゃぐジョージの近く、白い雪をじーっと見詰めればそれは見付かった。自身の色を最大限に活用して白い世界に溶け込んでいる”それ”を発見したビルは勢いよく噴き出した。
そして、間近で遊んでいたジョージも”それ”の存在に気が付いたようで近くにしゃがみ込み問い掛けている。
「そんなとこで何してんの?」
「やあ、ジョージー。今度はサーカスが雪で埋もれてしまって」
「嘘付け!」
ペニーワイズからジョージを離しつつ、ビルは雪を相手の顔面目掛けて蹴とばした。

***

きゃっきゃ雪ではしゃぐジョージを眺めていた金色の瞳が隣でぶすっとした面持ちで仁王立ちする少年に向けられた。

「如何して家に戻らないんだい?」
「僕がいない間、ジョージに危害を加えないとは限らないだろ。だからお前を見張ってる」
「(スラスラ喋る)酷いなあ。私とジョージーはこれ以上ないくらい仲良し!だから信用してくれてもいいんじゃないか?」
「断る」

断固拒否の体勢を崩さない。されど少年の体温は確実に低下の一途を辿っている。