豆炭々炬燵
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Public The Night
 

【The Night】結婚とは人生の墓場である

嬢と氏の時系列バラバラの単発小話三話セット
大体氏の口調性格が迷子&一部モブが出張ってます御注意


◇呼ぶもの

昼の象徴が存在しない地の底は陽の光が無いにも関わらず真昼のように明るかった。将来永劫薄暗い城の中、以前までは何ともなかった陽の光を避け生き続けるのだと思っていたから余計に不思議な気持ちになる。ケンタウロスが牽引する馬車に揺られ仰いだ空は朝焼けとも黄昏とも言い難い色だった。
来たくもないのに連れて来られ、聞いてもいなければ聞く気もない話を隣で延々する相手の上機嫌さに比例して此方は下降の一途を辿っている。興奮気味のところ悪いけど正直な話帰りたい。帰って自室に鍵を掛け一人静か本を読み耽っていたい。
いや帰ろう。今すぐ引き上げようそうしよう。隣であれやこれや語ってる相手残して一人で帰ろう。
そうと決まれば即行動。丁度揺れが収まったので席を立とうとしたら目の前に何かがそっと差し出された。差し出された方向を見れば上半身が牛で下半身が人間の化け物ミノタウロスが礼儀正しく立っている。思わず反射的に受け取ってしまったが果たしてこの飲み物?は大丈夫、なのか……。色味が濃いにも関わらず透き通った赤い液体を一口含んで喉奥に落とした。
予想以上に美味しかった。思わず視線でおかわりがあるかチラリ見たら無言で新しい飲み物を差し出してくれた。これ美味しい。何杯でもいける。



でも、Missiは知らない。
彼女の隣に座っている夫であるDukeが終始ニヤニヤしながら眺めていたことを。
そして、えらく気に入った彼女を見て何なら城に毎日届けるよう手配しようとそっと心に決め横で待機しているサイクロプスが持っている注文用紙にサインするも視線は片時も彼女から離さず見続けていたことをMissiは知らない気付かないお茶美味しくてそれどころじゃない。



冥界特産のお茶を飲んでそれなりに気分が良くなってきた。ねっとり舌に絡みつく割にさっぱりした喉越しの良さ。何か今まで感じた事のないものが体中に染み渡る感覚が病みつきになりそう。
「気に入ってくれたようで何より」
「あれは今まで一番まともな部類だから余計にね」
「ほう。それは実に良かった」
含みある物言い。でも、流れる風景と一緒に聞き流せば然程気にならない。
ケンタウロスの蹄に合わせ揺れ進む馬車。普段よりかなり遅めの速さで歩いているらしく、一回普段と同じスピードで走ってみましょうか?と言われたけど丁重にお断りしておいた。
「君を妻に迎える前、何十いや何百だったか?まあいい。それくらいの数の人間の娘を花嫁にしようとしたが無理でね」
「ふーん」
興味ない。
「途方もない永い時を過ごしてきた。だが誰一人吸血鬼化出来なかった。ただ一人君を除いてね。やっと見つけた見つけ出すことが出来た適正者に喜びも一入だ」
勝手に話しだして勝手に完結するなら話さなくても良かったのでは?
そんな話を聞いたところで何もなければ何も変わらないのに。それよりもこっち見ながら近づいてこないで欲しい。別にいい雰囲気でもなければ特別な感じになったわけでもないから。
意地で視線と意識を隣から逸らしていたら視界に何かが映り込んだ。よくよく見ると女性二人組だ。でも、冥界だけあってその髪は生きた蛇で舌を出し入れしては体をくねらせている。肌の質感も人間というより爬虫類よりな気がした。
そんな彼女らが微笑み手を振るい、すぐ傍まで近寄っていた隣の相手が愛想よく手を振り返す。
耳元に直接吹き込まれるウィスパーボイス。
「彼女達はゴルゴーンだ」
「へぇ。綺麗な人たちね」
って焼餅なのか何なのか自分でもよく分からない事を口ばしちゃってる!?待ってこれは別に深い意味があるわけじゃなくて――ッ。
「君の方が何倍も麗しく我が心を掴み離さない」
焦った私が馬鹿みたい。なんの恥ずかしげもなく言ってのける相手のお陰で落ち着きを取り戻せた。嗚呼、でも本当に。
……綺麗、とても綺麗」
お世辞や嫌味じゃない。ただ思ったことそのまま口から出ただけ。綺麗な人たちだなって。それを聞いた隣の相手はきょとんとした顔で此方を見下ろし、綺麗と言われた人たちは妖艶な笑みを称え淑やかに礼を述べた。これぞ大人の振る舞いに再度同じ言葉を繰り返せば今度は髪の蛇たちもチロチロ。
「こんなに純粋な言葉を聞いたの何百年ぶりかしら。フフッ、私の心を揺さぶり魂まで震わせるなんてイケナイ子」
「何モノにも分け隔てなくその言葉を言ってはダメよ?耐え性のない野蛮な奴らはその言葉を鵜呑みにして――でも、きっと大丈夫ね。貴女はもう一人ではないもの」
「それはとても素晴らしいことよ。だけどワタシ達にとっては残念でならないわ」
「ええ、とても。貴女が偉大なる人の伴侶で無ければきっとワタシ達は貴女を惑わせ連れていけたのに」
艶かしく動く指先と蛇達が此方に向かって伸びてくる。蠱惑的な笑みも相まって深い沼の底に引きずり込まれそうな感覚に陥った。
もし、目の前に差し出された手を取れば一体どうなるのだろう。いけない事をする時に産まれる背徳的な好奇心に身を委ね、おずおずと手を伸ばせば視界が闇に閉ざされた。
意思とは関係なく後方にたたらを踏み背に何かが当たる。伸ばしていた手も彼女達とは正反対の骨ばった男性らしい手に包まれ握られた。

「やれやれ夫の目の前で妻を連れて行こうなぞおイタが過ぎる」

飄々とした物言いの筈なのに目元と伸ばした手を握る手の力は強く漂う気配も何処か殺気立っているように思えた。見えない視界の先、彼女らもまた底知れぬ態度で「あらあら」「ごめんなさい」「「では、また会いましょう」」その場から去っていくのが分かった。
寸刻のあと気が済んだのかやっと解放された。案の定、眼前から彼女達の姿は消えていた。