【ライコト】その先

ライバルくんがコトネちゃんに悶々するお話。



勝ちたかった相手に勝った
少なくとも彼女に拘る必要はもう無い
何故なら勝ったから

此れでコトネに会う表向きの理由は無くなってしまった



自覚か無自覚かと問われれば途中から自覚し始めていた。気づき始めの頃は変に気恥しい思いが身を埋め尽くし絶対に違うとムキになっていたが、だんだんとそれすらも如何でもよくなっていった。
心配そうにボールの中から呼び掛ける気配に目を逸らし、りゅうのあなの誰にも気付かれないような奥まった場所で膝を抱える。
自ら彼女に会うという口実をむざむざ捨てたのはそんなに愚かしいことか。
「(でも、あいつに勝ちたかったのは一番はじめの時からだっただろ)」
事実はじめて勝ちたかった相手てから得た勝利というのはこれ以上ないほどの高揚感に包まれた。
ずっとずっとずっと、勝ちたかったコトネに勝てた。それだけで最高の喜びになるはずだった。
心の何処か。このまま負け続ければ彼女に会い続けられるのだと薄暗い思いが産まれた。それは本来破棄するに値する後ろ向きなもの。だけど、勝ちたいのと会い続けたいを両立させるいい考えは浮かばなかった。
「(だから、あんなこと言ったんだろ……)」
自分自身にこの先に待ち構える望まない望んでもいない未来を回避するために。
勝てば一時の幸せに浸った後、救いようのない思いが心を締め付け続け。負け続ければ現状を維持し続けることが出来る。
知らず震えた声は岸辺に寄せて引く波音に消えていく。

「それでも、俺は、あいつに、コトネに、勝ちたか、った……

勝ってお前より強いのだと認めて欲しいかった。出会い始めのその思いは今尚消えず、されど違う形に変わっていった。
単純に、純粋に、ただただ勝ちたい。そんな思いに変わっていた。
だが、そんな思いも今となっては慰めにもならない。
鼻の奥がツンとなりかけた矢先、打ち寄せる波音に紛れ砂利を踏む音が聞こえてきた。その音は辺りをウロウロとした後、一直線に此方に向かって距離を縮め。
「やっと、みつ、け、た~」
息が上がっているのか途切れ途切れな声の持ち主は見なくても分かる。
……コトネ?」
内心驚きはしたが振り返りはしない。
「いつもポケモンリーグでバトルしてくれる日なのにいなくて、前も体調よくないみたいだったし心配で、ジョウト中探し回って、カントーにも行って、ああっでもやっぱりジョウトかなって戻って、やっぱりいるならここかなって、それで、――見付けたの!」
矢継ぎ早に話すコトネからは怒っているようには思えない。
「そりゃご苦労なこった」
心配させたにも関わらず本当はもっと別の言葉を掛けるべきなのに素っ気ない言葉が口から出てくる。幾らなんでも温厚な彼女を怒らせたか、失望させ愛想をつかれてしまったのではと身勝手な思いが頭にひしめき合う。
「体、だいじょうぶ?」
「別に」
「気分、わるくない?」
「お前には関係ないだろ」
やめろともう一人の自分が叫んでいる。だが、冷たく突き放つ言葉は止まらない止まって、くれない。握りしめた拳が変に力が入り過ぎて血が滲む。



「関係ある!だって、あたしライバルくんともう一度、ううん。一度なんて言わない、もっと沢山お喋りしてバトルしたいんだからぁああああ!!!」
大声で言い放ったコトネの声がりゅうのあなの壁に反響し何度もエコーし続けた。漸く静かになり、意を決して立ち上がり振り返る。
顔を上気させ口元を引き締め、普段愛嬌のある目がキリっと涙目ながらにつり上がっているコトネが其処にいた。と、思ったらニコっと微笑んだ。
「やっとこっち向いてくれた。あのね、ってライバルくん!?手から血出てるよ!やっぱり具合悪いの!?えっ、ええっ、こんな時はお医者さん?ポケモンセンター?ジョーイさあああんっ」
握りしめ過ぎた手に気付いた瞬間、恐々と手を擦り周囲を忙しなく見渡すコトネの狼狽っぷりに沈んでいた自分が何て如何でもいいことで悩んでいたんだと思い始めた。ついで冷静な判断を下せないであろう彼女に付け込み聞いてみた。
「俺に会えなくて寂しかった?」
「当ったり前だよ!うえ~、それよりこれ早く治さないと~」
「お前に、会うのに、……その理由とかないとダメか?」
「理由?そんなのいらないよ~。会いたいと思ったからでいいじゃん。あ~、血止まんないよ~。ライバルくん死んじゃう~」
「これじゃ死なないから。いや、死ねないが正しいか」
半泣きで外に連れ出そうと腕を引くコトネの顔はお世辞にも褒められたものじゃない。でも、他人のために此処まで真剣に思ってくれる彼女に顔が熱くなる。血が出ていなければきっと手を握ってくれたに違いない状況が歯がゆい。今握ってしまえば血みどろ事件に発達しかねない。
「(馬鹿だな俺)」
でも、次からは会う理由はなくてもいいんだろ。だったらまたその時に、今度は俺から――