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豆炭々炬燵
3732文字
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ONE PIECE
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不可視のつながり
夢の中じゃ普通に逢えるし見た記憶もばっちり覚えているコアラと,夢の中以外でも普通に彼女の傍にいて彼女や他の者(一部例外者あり)には見えない最早幽波紋化してるタイガーさんの話。
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無意識の内に自己嫌悪に陥った場合、大抵とある夢を見て翌朝腫れた目元に嘆息していた。
しかし、ここ最近見る夢の内容は不思議と今まで見ていたものとは毛色が明らかに違っていた。
目が覚めた後も記憶に残る鮮明さ。
今日見た夢は何処か小高い山の上にあるレストランで麓の街を見下ろしながらディナーを一緒に食べていた。
夜の街に点々と輝く家々の明かりが深い海に漂う星みたいに幻想的で、魚人島までの道中通る深海のようで綺麗だとコアラが言えば同じ眼下に広がる夜景を見下ろしていたタイガー感傷深げに頷いた。
『嗚呼、とても似ているな。
――
来てくれたのか?魚人島に』
注がれた赤ワインを一口含みグラスに付いたルージュをさりげなく指先で拭き、真向いにいる相手を一瞥してからコアラは微笑んだ。
「勿論。タイガーさんや他の魚人の皆さんの故郷で必ず行くと幼い頃、心に決めていましたから」
『そうか。どうだった魚人島は?』
「とても素敵なところでした。
――
と、言っても残念ながら任務もあったので観光は出来ませんでした。あー巷で有名なブランドのショッピングしたかったなァ。魚人島の名物料理も食べたかったし、ジンベエさんは丁度用事か何かで留守でしたし、あ~ぁジンベエさんには会えるって期待してたのにー」
口を尖らせふてくされ眼下に広がる夜景より遥か彼方を見詰めるコアラの瞳には喜色以外の色が混じっていることにタイガーは何も聞かず言わず、視線を手元の皿に落すのだった。
タイガーの感情を察してかコアラは殊更明るく、真面目に、そして少々行儀悪く頬杖を付き丸く大きな瞳に彼の姿を映し込む。
「でも、これからですよ。魚人島も魚人島を含んだこの世界も。そんなすぐには変われないのはあたしが一番よく知ってますから。少しずつ少しずつ変わっていけばいいんです」
驚きで目を瞠ったあと、やおら目を細めコアラに注がれたワインを口元に持っていくタイガーの顔は綻び小さな声で「そうだな」と一言呟くのだった。
タイガーの夢を見た日のコアラは総じて気分が良く、周囲の面々も如何いう理由か知らないがそんな彼女に微笑ましさを覚えていた。
「(そういえば、あたしが見る夢に出てくるタイガーさんって大体椅子とかに座ってて、立って逢った事がない気がする)」
書類に目を通しつつ、夢の内容を思い出しながら歩いてく。意識しなくても足は勝手に目的地へ向かって歩くのであとは人や物のと接触を避けるだけ。現にコアラと同じように基地内を歩く仲間は数多くいて、皆が皆器用に人を避け物や壁を避けて歩いていた。
「(夢の中で逢うタイガーさんの身長が昔と変わらないなら今のあたしと一体どれくらいの差があるんだろ)」
幼い頃は其れは首を反らして仰け反りかえる位の身長差があった。なら今は如何なのか。流石に子供の時より身長差は縮んでるだろうが一体どれほど縮んだのか。丁度タイガー並のガタイの良い仲間が横を通り過ぎたので横目で見遣り、頭の天辺から平行に手を動かしてこんなものかと想像する。
「(子供の時より縮んでるけどまだまだかな。タイガーさんおっきかったもんな~)」
ふと背だけじゃなく、最後に手を繋いでくれた手の大きさも思い出した。資料を持っていない自身の手を目の前に持ってきた途端、コアラの足がぴたりと止まる。
「(手、握って欲しいなんて思ったらバチ当たりかな
……
)」
もう薄らぼんやりにしか思い出せない大きくて安心するタイガーに握ってもらった手の感触。忘れたくない気持ちに比例して消えていく感覚に思わず唇を噛みしめる。声や顔だってはっきり昨日のことのように覚えている。だのに繋いだ手の感触だけが霧のように薄くなり消えていく。
手をずっと見ていたら益々気分が落ち込みそうで、その気分を振り払うようにコアラはブンブンと顔を横に振るう。
「(だめだめ。どんなに寂しくても落ち込んじゃだめ。それに今は仕事、仕事っ)」
気持ち改め完全にスイッチを仕事へ切り替えたコアラが小走りで基地内を駆けだした。
その後ろには大の大人でも見上げるほど背の高い魚人の男が歩幅を少しだけ広げ後を追う何とも摩訶不思議な目撃情報があったとかなかったとか。
それなりに重要なポジションにも関わらず、やや上の空で歩くコアラに数歩後ろを歩いているタイガーは眉根を下げ困った顔をした。人との接触や壁に激突しないのは流石と褒めるべきか呆れるべきか。
『(思えば成長したこの子の隣に立つのは始めてか)』
まじまじと此方に気付かないコアラの後を歩き独り言ちる。人も魚人も子供から大人になる成長速度は目を瞠るものがある。つい最近まで子供だった少女があっという間に大人の女性になっているのだから驚きだ。
『(其れでも俺にとっては小さいな)』
顔を綻ばせ今の状態では気付かれず見えない手で何となく親が子にやる其れのようにコアラの頭を撫でようとした刹那
――
、現世から離れる少し前に味わった小さな温もりが今は温もりも何も感じられない手に宿る。やにわ自身の水かきのある赤い手から手袋をしたコアラの手に視線を移す。子供らしい無邪気さでじゃれ付き繋いだ手の感触が懐かしい。
『(コアラ、
…
手ェ繋いでもいいか?)』
あの時とは違い自ら手を伸ばし握る行為にタイガー自身驚くも然程疎ましくなかった。これがもし、他の人間なら進んで手を握る行為なぞ絶対にしない。死して尚、根底にある人間を憎む心がドロドロと消えずに残っている。
ただ、コアラとなら出来る。否、コアラだからこそ手を繋ぎたいという衝動が産まれる。
透けてしまう手で繋げばタイガーの止まった心臓が一回だけ鼓動を刻んだ。やはり子供の頃と違う女性らしい手に彼女の成長を感じられずにはいられない。そっと握っていた手は呆気なくコアラが方向転換したことで離れていった。
其れでも僅かな間、正確には繋いでるとは言い難い事であっても繋いでいた手とコアラを交互に見詰めるタイガーの瞳は何処までも優しさと慈しみに溢れていた。
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