【縋り求めたもの】

負傷した案内が律の元へ向かう話。案律。





……やめておくか」

案内は左脇腹に絶え間なく走る激痛に顔をしかめながら、その場を後にした。何故深夜なのに律の部屋を訪れたのだろうか。それも怪我を負った状態で。
今日の仕事は、墓場の一角に巣食っている怪異の親玉を殲滅することだった。数日間観察を続けて、適切な武器を用意して無事倒せた。
だが倒せたことの安堵でほんの少し慢心が生まれた。怪異はその慢心を逃さず、最後の悪あがきで渾身の一撃を案内にぶつけた。とはいえ案内は戦い慣れている。頭で考えるより先に身体が動き直撃は免れた。しかし攻撃範囲が広く、余波までは避けきれなかった。怪異の親玉をしていただけはあって、余波であっても与えるダメージは大きかった。
鈍器で殴られたような衝撃に顔を歪め、身体をくの字に曲げる。怪異はその一撃で力を使い切ったのか、案内が痛みに呻きながら立ち上がった頃には完全に消滅していた。

「一瞬でも隙を見せたオレが悪いな……

ぽたぽたと頬から顎へ伝っては落ちていく汗を拭いもせず、案内は自嘲するように笑った。



それから激痛に身体を折りながら、静まり返った墓地を歩いた。杖があればそれを支えにしてもっと早く歩けただろうが、今回の戦いにはいらないと思って自室に置いてきてしまった。
墓地は整地されていて、故人の墓石以外に余計なものは存在しない。どこかに寄りかかって休みたくてもそんな場所は見当たらない。墓石は論外だ。仮に墓石に眠る霊が許したとしても案内自身が許さない。
浅い呼吸を繰り返し、痛みに耐えられなくてその場で膝をつきつつ、最終的にたどり着いたのが律の部屋だった。上手く持ち上がらない足を引きずり、遠のきそうな意識で扉に手を伸ばす。扉のすぐ向こうに律の気配を感じた。と同時に恐怖に息を飲む音も聞こえた。

(ああ、律は怖がりだったな。それなら)

一声も発さない訪問者など、律じゃなくても怖いはずだ。怖がらせるのは本望じゃない。どこか冷静な頭で考えながら手を引く。

(人目のつかない静かな場所で一夜を過ごそう)

空の色はまだまだ暗い。