【すり抜ける救いの手】

律が一人の少年を助けて自問自答する話。
⚠︎ホラー表現が含まれます。苦手な方はご注意を。
時間軸は第二幕あたり。





「お前がここに足を運ぶとは珍しいな」

安栖たちは、神社の鳥居をくぐってすぐの場所に立っていた『案内』に迎えられる。

「お前もこんな場所に突っ立っているのは珍しいな。仕事中じゃないのか?」
「今は休憩中だ。律がなかなか帰ってこないから様子を見に来たんだ」
「それならちょうどいい。ほら、受け取れ」

安栖はぐったりと項垂れたままの律の腕をぐいっと引っ張って、『案内』に引き渡す。そしてそのまま神社を後にしようとした。

「待て。安栖」

『案内』は律を支えながら安栖を呼び止めると、ランタンを吊り下げた杖を掲げる。オレンジ色の光がふんわりと辺りを包み込む。すると安栖の腕の中で眠る少年と『案内』に身を預ける律の顔色がみるみる良くなっていく。
心の傷を癒す、『案内』だけが使える能力。どんなに複雑に絡まりあった傷すらたちまち回復してしまう。奇跡そのものの力。
その光景を安栖はぼんやり眺める。

「終わったか?」

光が弱まったタイミングで安栖が興味無さそうに聞くと『案内』は杖を下ろして頷く。

「ああ、律を連れてきてくれてありがとう。その少年ももう大丈夫だ。後は任せたぞ、安栖」
「分かった。……そいつを頼んだぞ、案内」

安栖は律に視線をやると、すやすや眠る少年を抱えてさっさと立ち去った。



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「律、律、立ち上がれるか?」

安栖の背中を見送った『案内』は、自身に身を預けたままの律に呼びかける。

……ん、無理。疲れた」

律は怠そうに呟いた。目は閉じかけていて、今にも寝落ちてしまいそうだ。
『案内』は「そうか」と言うと、自分より高身長の律を軽々と抱き上げる。
普段なら恥ずかしいからと抵抗されるが、今はその気にならないらしく、律は『案内』の肩に頭を乗せてされるがままだ。
『案内』は幼子をあやすようにポンポンと一定のリズムで背中を撫でながら、律の部屋へと向かう。

……僕がやったことって正しいと思う?」

歩いていると、不意に律が言った。

「死者が生者に関わったところで出来ることは何も無いのにさ。なのに手を伸ばしてしまうんだよ。触れることも叶わないのにさ」

自らの行いを責めるように、半ば投げやりに呟く。
『案内』は口を挟まず、聞くことに集中している。

「でもさ、あの子、歩夢と似ていたんだ。悪霊に憑かれていたからかもしれないけど生きることを諦めたような表情が……前に夢で見た、生きている頃の歩夢とそっくりだった」
…………
「それを見たらさ追いかけずにはいられなかった。でも結局何も出来なかった。何も出来ないことの証明をその少年を理由にしようとする自分も嫌で仕方ない。……ねぇ、案内。僕はどうしたら良かったんだと思う?」

律は縋るように『案内』を見つめる。

「お前のした行動は間違っていない。咄嗟の行動だったとしても、飛び降りた子を追いかけるなど誰にも出来ることじゃない。とても立派で勇気のある行動だ。それに」

『案内』は律を真っ直ぐに見つめ返すと、太陽のように微笑んだ。

「お前は何も出来ないばかりか、充分出来てるんだぞ。しっかり行動に起こせている。過程ばかりに気を取られているようだが、結果はどうだ? 少年は助かった」
「でもそれは安栖のおかげ……
「少年にとっては二人のおかげだな」
「う、うーん? よく分かんなくなってきちゃった……
「たくさん勇気を出して疲れたんだろう。すごく眠そうだぞお前。さあ、もう寝ろ」

『案内』は一旦立ち止まると律をぎゅうっと強く抱きしめる。陽だまりのような暖かさが身体に伝導する。眠気が限界に達していた律はすぐにまぶたを閉じ、穏やかな寝息を立て始める。
かつては生者の命を無尽蔵に奪う側だった律が、誰かを救おうと手を伸ばした、その行為がとても誇らしい。『案内』は眠りに落ちた律を愛おしそうに見つめ、ぽつりと囁く。

「おかえり、律。よく無事に帰ってきてくれた。お前が認めなくてもオレは認める。お前はとても立派で偉い。これでまた一人の命が救われた、ありがとう」

お前は何も出来ない子じゃない。『案内』は律を労わるようにもう一度ぎゅうっと抱きしめた。


(終わり)