【すり抜ける救いの手】

律が一人の少年を助けて自問自答する話。
⚠︎ホラー表現が含まれます。苦手な方はご注意を。
時間軸は第二幕あたり。

「相変わらずこの村は静かだね」

サクサクと土を踏みしめながら律はぽつりと呟く。
怪異として猛威を奮っていたあの頃はこの村のことなんて興味が無かった。大好きで大切な人に振り向いてもらいたくて必死だったから。いや、人じゃないな。神様だったね。
振り返るだけでも恥ずかしい過去に苦笑を浮かべつつ、律は一人歩く。
天気が良い日は墓地の外に出て散歩するのが日課だ。
霊は生者よりずっと暇で、一日が途方もないくらい長い。中には趣味で一日を潰す霊もいるが、あいにく律にそんなものは無い。
何か趣味を作ろうと画策したことはあった。しかしどれも長続きしない。楽しくないというより、死者が何かを生み出したところで意味はあるのかとつい考えてしまうのだ。一度その考えが過ぎると、虚しくなってやめてしまう。その繰り返しだった。
娘の歩夢と遊ぼうにも、嵐のように駆け抜けていく子供のスピードに大人である律はついて行けなかった。最初は大丈夫でも最後には置いていかれてしまう。こんなに衰えたものかとショックを受けたほどだ。
何をやっても長続きしない律に助言を与えたのは『案内』だ。
墓地から出て村を散歩してくるといい。気晴らしにもなるぞ、と告げられたのだ。
そういう経緯があって今に至る。
正直不安だったが、実際に出てみると一人で歩くのは意外と苦にならなかった。もしかしたら生前の自分は一人で過ごすのが好きだったのかもしれない。記憶を思い出したとはいえ、200年以上も前のことだ。自分の性質までは詳細に思い出せない。
何はともあれ、新たな趣味を見つけた律はほくほくとした気持ちだった。歩くだけなら生産性がどうのこうのとグダグダ言う必要も無い。
音羽村は今日も人気が無い。昔も人気は無い方だったが、現在の方が寂しい印象を受ける。この村もそう遠くない未来に廃れていくのだろう。もう既に死んだ身としては未来がどうなろうと知ったこっちゃないが、『案内』と安栖が長きに渡ってこの村を守り続けていることを思えば、少し胸が痛くなった。

「もう帰ろう」

空は明るいし霊である律は疲れを感じない。まだ歩ける。でも今は早く帰りたい。
『案内』のことを思い出したからだろうか。
こちらの姿を認めて「おかえり」とにこやかに言ってくれるであろう彼のことを、脳裏に浮かべながら律は帰路についた。