【安栖と白神の確執②】

安栖の見回りの話。時系列としては本編が始まる4年前くらい。
真琴の母親としろ様(作中での明記は無し)が出てきます。
⚠︎︎暴力表現が含まれます。






綾女を送り届けた後、見回りを再開したが、特に変わったことがなかったため自宅に戻ってきた。玄関をくぐり、居間で外套を脱ぐ。
次いで懐にしまっていたナイフを取り出す。さて、これをどうするか。
ちらりと押し入れに視線をやる。あの中には先程の綾女のように、凶行に及んだ者が持ち出した凶器たちを仕舞っている。あそこにそのまま仕舞うのもいいが、そろそろ数が多くなってきたから毎回開け閉めするのもひと苦労だ。
……とりあえずこのナイフはその辺の箱に仕舞って、昼になってからあの押し入れの中を整理するとしよう。現在の時刻は深夜三時。この辺りに住んでるのは安栖しかいないため、近所迷惑などは考えなくてもいいのだが、厄介なことは別にある。
こういうとき厄介なのは人間ではなく。

(仮にも人間を守る神様である貴方が人間に対してあの仕打ち、ひどいのではありませんか?)

……こういう人ならざる者だ。

『声』は気配こそ消していたものの、安栖の行動はしっかり見ていたようだ。クスクス笑うのは相変わらずだが、声音は非難じみていた。

……………………
(ですが大嫌いな人間に対して最後まで突き放さないところは賞賛に値しますね。わたしには出来ない芸当です)

まあ、お前はそうだろうな。
安栖は窓の外を感情のない瞳でじっと睨みつける。

(それで威圧しているつもりですか? やはり貴方たちは悪に染まりきらない。見ててつまらないです)

なら帰ってくれないか。俺は見せ物じゃないんだ。
安栖は無言で窓から目を逸らす。
『声』はその後もごちゃごちゃと何かを言っていたが、安栖が無反応になったからか、それとも飽きたのか数分後には完全に静かになった。





安栖は神様で人智を超えた力を持つ。だが大切な人を直接守れなければ力があっても意味が無い。今のところは間接的になら守ってやれるが、それもいつまで持つか分からない。
月日が経つにつれて、零一と綾女の情緒不安定さに磨きがかかってきている。その最たる犠牲者は紛れもなく、彼らの無茶な期待を一身に背負う娘の真琴だ。
人間の心は脆い。真琴だって例外ではない。
持って、数年。それだけは避けなければ。

「そろそろ崩壊させるか」

安栖は低く暗く呟いた。