ひさね
2022-05-15 21:16:07
2595文字
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とある青年の印象について

ケントの印象寄せ集め。親しい人から見ないと分からない異常性がある。


〈相棒曰く〉
 子どもに好かれて、長からの信頼が厚い、何処で単独行動したって生きている、運が良い奴。
 そして、死体だけを引きずって歩く、悍ましい奴。
 
 彼奴は誰よりも情に厚い。仲間全員を大事にしようとする。だから大事な弟分が消えたとき、その捜索に一番熱心だった。まあそもそも彼奴が一番あの子を可愛がってたんだから、さぞかし傷心だったんだろう、と思っていた。俺も含め、皆。なんと言っても、あの子が消えた晩、全て諦めた親に飛びかかろうとしてたんだし。
 だから、あの子が消えた次の日も、その次の日も捜索しようとする彼奴を誰も咎めなかった。俺も彼奴の役割の代理を引き受けてやった。
 そしてあの子の捜索三日目に彼奴が帰ってこなくて大騒ぎになった。四日目の早朝、まだ明るくない時にケロリと帰ってきて狂乱した。
 長の目が気持ち悪くなって「救い」とか呻き始めたのもこの時からだ。
 それから、彼奴は少し休んだ。もう一度眠る前に話を聞いてみれば、弟分の死体を見つけたらしかった。その身体が腐れていたことを聞いた。
 何かあればもう一日ぐらいは代理をやってやろうと寝て、起きてみれば。

 彼奴はいつも通り切れた作戦を立てて、寸分の狂い無く上手く襲撃して、仲間内では気さくな態度を崩さず、子どもとよく遊んでやりながら、モツを売捌く奴らを怪物に喩えた寓話を聞かせて。
 万事、いつも通りだった。気味が悪いぐらい順調に進んでいった。
 その淡々と流れる日常を眺めて、クラクラとしそうだった。
 なんで彼奴はあんなにも平然としているんだ。あんなに大事にしていた弟分を。期限を伸ばしてでも、周りに秘密にしてでも、探すぐらい情があるはずの、そのしたいを。みつけて、なんで、あんなにも。
 太陽が差す中、ぐるりと目眩がしたのは俺の方だった。

 気がつけば彼奴の肩を借りて、日陰の方にいた。体調不良の奴に良くやるように「大丈夫か」と背中を擦られた。
 もう、わけが分からなくて全部ぶちまけていた。弟分のこと。死体のこと。平然としすぎていること。
 それを最後まで黙って聞いて、彼奴は「死体は生き返らないだろ」と言った。さも当たり前、という顔だった。
 堪らなくなって、「情はないのか」とふらつきながら掴みかかれば、「あるから探してたんだ。死体を」と返された。
 言葉に詰まる。
 死体を探すほどの情はある。でも見つけたら平然と振る舞う。
 矛盾しているような行動に、考えて考えて、考え尽くして。
 そして、理解した。できてしまった。長いこと相棒をしてきたから、分かってしまった。
 彼奴の情は死を飛び越えはしないのだ。
 死んだら全て終わり。
 そんな正しい価値観の上に、仲間への情が正しく成り立っている。
 だから彼奴はとっくにあの子が生きていることに見切りをつけた上で、リスクばかりの単独行動をした。そしてその身体を見つければ平然と引きずって水に流す。
 決して情は引きずらない。

 悍ましい、と思った。
 彼奴は全てを受け入れて、切り捨てられる。正しすぎる奴だった。
 情はあってないようなものだった。
 俺がなにも言えず、呆然としていると彼奴は「そういえばまた誰か居なくなったんだって? 明日、探してくるから、代役頼めるか?」と、そう続けるものだから。
 俺は悍ましさごと、事実を飲み込まさせられてしまった。
 
 それからも変わらずに、子どもたちは彼奴に懐いている。長は彼奴に気持ちの悪い「救い」とやらを押し付けている。彼奴は相も変わらず消息不明の身体を見つけては情を捨て歩いている。
 俺は他人事のように見るだけだ。
 ここではすべての中心に彼奴がいる。皆を惹き付けて、一部を狂わせる。
 でも肝心の彼奴には、そんなこと知ったこっちゃない。知ったとしても、責任なんか取るはずがない。
 俺は、彼奴が悍ましいよ。