納豆
2021-05-09 01:46:02
30614文字
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せんせ詰合せ

5枚分!!!!できました!!!!
p1 ユウリちゃんとマサルくん
p2 笑顔のキバナさん
p3 にょたのお二人
p4 ソニアさんにほっぺた摘まれるダンデさん
p5 竜の遺伝子入ってるキバナさんと研究者のダンデさん


◇竜の遺伝子が混ざり合ったキバナさんと研究職のダンデさん

床に散らばる書類は、きっとこんな乱雑に扱っていいものではないだろう。
まるで道標のようにはらりはらりと落ちている紙を拾い集めては手持ちのファイルに綴っていく。
並ぶ、並ぶ、並ぶ。
そこに並ぶのはとある生物の経過観察。
目を細め、ぱらぱら捲るページに並んだ文言には生物学上の小難しい単語が並ぶ。
これを理解できるようになるまで、いくつの書物を読み漁ったか知れない。
溜息混じり、賢いばかりで生活というものを蔑ろにするこの研究室の主人を思った。
今日も篭りきりだろうな。
不健康にも没頭する様は、全く見る人が見れば怖いくらいだろう。
執心にものめり込むような没頭具合に、俺は全く呆れ果てて止まらない。
とある生物、それは人間の肉体に竜の遺伝子が組み上がる、異分子体。
肉体は、人間とも竜とも言い切れず混ざり合う。
人間の体をベースに本来の竜となるべきだった部位が不完全に形を成そうとした身姿にどれほどの者が慄き悲鳴を上げただろう。
体は、不条理を文字通り作り上げていた。
腕から脇にかけて奇妙に枝分かれした骨組みは、翼になり切れず広がって透明な膜が折り重なる。
人間の背骨からは竜の骨板が張り出して、魚の背鰭にも似た部位がばらりと背中を覆う。
腰から歪にいくつにも分かれた短い尾、その分かれ目の下からも太い尾が伸び先端は割れてある。
額から伸びる、二つの角はごりりと硬く皮膚を持ち上げていた。
飛べもしなければ、火も吹けない、そうかと言って人間であるかと言えばそうでもない。
不完全で、歪で、醜い。
異分子体は、自身をそう評していた。
そうして大多数の研究者も、そう、評していた。
だのに、研究室の主人は、異分子体を美しいと形容する。
初めて会った日から、彼は評価を一貫とさせる。
いくつもの検査を繰り返しながら、主人は穏やかに語る。
「未完成なんだ、キミの体は人間が竜を求めたのか、それとも竜が人間求めたのか、まだわからないがそれぞれがそれぞれを求めたが故にできた形で、新しい進化の形だ。未来だよ、キミが体現したその未来に向かう姿は、ひどく美しい」
だから、キミを知りたい。
異分子体を覗き込む瞳は、いつだってきらきら煌めく太陽の色を溶かし込む。
真っ直ぐに、停止も知らず、彼は異分子体をひたすらに求めてやまない。
そんな男に見つかった、異分子体は心をころりと持っていかれたのだ。
興味として求められているとわかっている。
それでも、自分すらも匙を投げた悍ましさを、まるでとても大切な宝物みたいに扱われて、心はどうにも奪われる。
単純だろう、全く呆れるものだ、そう、そんな簡単な生き物が、俺という異分子体なのだ。
恋を、した。
被検体は、研究者に、恋をした。
溜息混じり、只管に研究対象としてしか見られない相手に、今日も今日とて恋心なんてものを積み上げる哀れな俺を笑ってくれ。
渇いた声で笑いを落とし、俺は資料室に篭りきりだろう愛しき研究者のもとへ向かう。
きっと何か思いついたままファイルを片手に資料室に飛び込んだのだろう。
拾い上げる書類を歩きながら片付けてひょこりと資料室の中を覗き込む。
壁一面を埋める保管庫にはぎっちりと研究資料が詰め込まれている。
電気はつけていて、その中心、あぐらをかいて座り込む男がいた。
資料を読むに邪魔なざんばらな髪を乱雑に一つに結い上げ、リノリウムの床に羽織った白衣の裾を広げる。
座り込む周りにはばらばらこれまた資料が落ちていて、手元にある付箋をいくつも入れたファイルを眺めては顎を撫でていた。
また新しい検証を思いついたのだろう。
実証に足るものか、考えているのだと思う。
思いつけば即行動なのだから、全く整理から程遠い男である。
溜息混じり、態とこつこつ靴を鳴らして歩み寄る。
俺の足音に、そいつはぴくっと肩を揺らして顔を持ち上げた。
ぱちくりまん丸くなる瞳、俺は大股に近づいてその目の前に蹲み込んだ。
膝にファイルを立て抑える手の甲に顎を乗せる。
眇めた目元を向ければ、にこっと何も考えていないだろう笑顔が返される。
思わず二回目の溜息、俺は叱るように名前を呼んだ。
「ダンデ、また散らかしたな」
「助かるぜキバナ」
俺が片付けている前提の返事に眉を寄せ上げた。
しかしてダンデは気にした風もなく、新しい仮説があるんだと嬉々として語る。
楽しそうで、嬉しそうで、そんな様にぐむりと唇を噛み締める。
ダンデはそんな俺にゆったり目を細めて、膝の上でファイルを閉じた。
それから緩慢に持ち上げた手を伸ばすと俺の頰を指先で撫でるのだった。
「キミのことが、またこれで知れる。嬉しくて、つい、後片付けも考えず駆け込んでしまった。許してくれキバナ」
布越し、触れる温度が少し遠い。
ダンデの手袋で覆われたそこに視線を落として俺は無言で頰を寄せる。
もっと撫でて、強請る仕草にダンデは小さく笑って、すり、すり、と柔らかく俺の頰を包んで撫でてくれた。
布と肌が擦れて、ざりざり摩擦の音がする。
俺の肌は、人の肌とは違う作りをしていて、細かな鱗群が皮膚を覆っていた。
研究開始直後は、ふとした拍子、ダンデが怪我をすることがあったのだ。
ダンデは躊躇わない。
不可思議なこの体を気味悪がることもなく、普通の人間に接するように気軽に触れてくる。
だがそのせいで、ダンデはよくよく怪我をした。
この体が、傷付ける。
そんな事実が酷く煩わしくて、呻くよう頼んだことがある。
不用意に触れて、お前が怪我をするのが嫌だ。
気軽に触れるなと、そういう意味で伝えたつもりだった。
しかして、口にした翌日、ダンデは素肌の出ない格好に手袋をつけて、これでいつでもキミに触れられると俺を抱きしめた。
唖然としたものだ。
触らなければいいのに、いつでも触れるように準備をするなんて、どれだけ、どれだけ、どれだけ。
どれだけ、愛しい気持ちを積み上げさせる。
被検体を被検体として扱えばいいのに、ダンデは俺をキバナとして扱うからいつだってその手先が愛おしい。
ざりざり撫でられながら、うっとり目尻を下げればダンデの手が引く。
少しの不満にじとっと見やる俺に、ダンデは小さく微笑んだ。
「許してくれたか?」
「オレさま、そこまでお安くねぇのよ」
「それは困ったな」
最初から、そんなに本気で怒ってはいない。
ダンデもそれがわかっているのだろう。
肩を竦めながらも、先程の続きなんだがとダンデはマイペースに語り始める。
細胞分裂の累計、細胞の入れ替わり時期、などなどと朗々と説明する声にぼんやり耳を傾けた。
ダンデは嬉しそうに笑みを深めて、つまりな、そう言葉を区切った。
「細胞の入れ替わり周期を勘案するに、キミの寿命というのは比較的人間に近いんじゃないかと思うんだ。だから、俺は死ぬまでキバナを知ることができる」
嬉々として語る、その言葉に目を見開いた。
何も考えず、言葉を選ぶ。
だから、人を簡単に振り回して、心臓をぐるんぐるんと喧しく巡らせる。
死ぬまで、なんて気軽に言うな。
お前の最後まで、俺を置いてくれるなんて、軽々しくいうものじゃない。
研究以外は、全くどこかズレていて、きっとこれにも深い意味などあるわけがない。
わかってはいる、そうなのだが、どうにも俺はじわじわ上がる体温を抑えられない。
ゆらり、ゆらり、尾が揺れる。
勝手に揺れるこれは、根本をベルトで抑えなければ感情でぶんぶん乱暴に暴れてしまう。
抑えていてよかった。
びたんびたん跳ね回ることもない。
小さな呼吸を繰り返し、俺は唇を尖らせる。
ダンデが静かに微笑みそんな俺を見つめていた。
美しき太陽の双眸が、俺の虹彩をちかちか焼いていた。
ほろりと溢れる言葉は、期待がましくも少し恥ずかしい上擦り声で完成された。
「オレさまに一生費やすってわけ?」
口にした言葉に、ダンデはぱたりと瞬きをした。
それからふむと俯いて、顎を撫でる。
しょりしょり、顎髭が摩擦で微かな音を立てていた。
どきどき、自分で言い出しておきながら、変に脈拍が速くなる。
あぁ、折角ダンデと同じ時を刻む心臓なのに、こんなに早足になっては先が短くなってしまう。
馬鹿げた心配に、顔を強張らせればダンデはふはっと吹き出した。
吹き出すのは、少し傷つく。
おかしな質問だと思われたのか。
がんっとショックを受ける俺にダンデはくっくっと肩を揺らして笑う。
それから右手の手袋に手をかけた。
すぽっと指を抜き、素肌を晒して手を伸ばす。
額に伸びる指先に、思わず身をひけば尻餅をついた。
どすっと臀部を打って短く呻く俺に、ダンデは名前を呼びながら角に触れる。
すりと撫でてくれる直に感じる体温が広がる心地は堪らない。
鱗の流れに沿って撫でてくれる手先は傷付かない。
じっと受け入れる俺に、ダンデは繰り返し名前を呼んだ。
だから、その瞳を覗き込む。
ダンデはくしゃりと幼いほど無邪気に笑って俺を見つめていた。
「費やすぜ、俺の人生はキバナ、キミに出会って始まった」
そんな言葉、いっそ、そんなものを向けるのは俺の方で。
はくりと唇を慄かせる。
ダンデは角からゆるりと手先を滑らせ、俺の目尻を撫でたのだった。
「だから、人生の終わりもキバナ、キミなんだ。これは、揺るがない」
愛しき研究者は、きっと新しいばかりの被検体を前にした探究心に燃えている。
あぁだけれど、わかっていても、そうだとしても、こうにも心沸き立つ言葉があるだろうか。
健気なものだろう。
こんな言葉一つで、この男がまた好きになる。
俺は瞼を下ろす。
目尻を撫でた久しぶりの素肌の感触に、俺は蕩けるような気持ちだった。
そうして、小さく頷いた。
「オレさまも、ダンデ、お前に最後まで看取られたいよ」
口にした願望には、被検体以上の気持ちが籠る。
緩やかに瞼を持ち上げる。
そんなことを知らないダンデはぱぁっと顔を輝かせ大きく頷く。
きらきら、眩しい俺の好きな人、いつしかこの想いは昇華されるだろうか。
ふっと小さく漏れ出る笑みの行き先はない。
ダンデがゆったり手を引いて手袋を上機嫌にはめ直す。
そんな様を、なんとも切なく見つめる。
あぁまったく、健気で報われない恋心である。
また楽しそうに仮説を語らうダンデを前に、俺は笑みを浮かべて相槌を打つのだった。

◇◇◇

研究者、ダンデは語る。
心許した幼い頃からの馴染みの女性にかく語る。
「きっと彼はわかってないんだ。俺の探究心だけが彼を求める理由だなんて思ってる。馬鹿げた話だろう。そんな訳があるものか。ただの興味一つで人はここまでのめりこめるわけがない。ふふっ、だけどそんなところも可愛いんだ。寂しそうにしゅんとしたりして、駄目だなどうにもうまくやれない。え、なんだって?惚気?いや違うな、これはれっきとした相談事だぜ」
研究者、ダンデは語る。
呆れ果てる女性を前に、軽やかにも伸びやかに、微笑む表情にとびきりの熱を込めて語る。
「この一目惚れの恋心を、どうやって伝えればいいのかわからない。哀れな男の恋の相談だ」
研究者、ダンデは語る。
その心の行く末を、ただの青年として語るのだった。