不破
2023-11-12 00:44:59
5624文字
Public 空戦
 

#15




『ロウ・クロックフォード。第1航空師団、第12制圧中隊アルタイルでの任を解き、第2航空師団、第6急襲小隊ベガの副長を任ずる』

 端末に表示された辞令を眺めながら、ロウは大摩天楼を上っていくエレベーター内で、顔を右手で覆った。
 どうしてこうなる。自分が隊を預かるわけではないが、管理する側のような面倒は見たくない。自分の面倒だけで手一杯だというのに、他人の面倒まで見なければならなくなるなど御免被るのだが。昨夜から何度同じ考えを巡らせようとも、表示されている辞令の文面が変わることなどなかった。
 第2航空師団、第6急襲小隊。先のサイードとの戦時中に全滅したというリゲル隊を埋める形で新設される小隊であり、隊長と自分、そしてもう1人の3名で構成される隊のようだ。面倒を見る人物が少なくて済むことは結構だが、そういう問題ではない。いっそ単独で行動でもさせてくれた方が気楽というものだ。まあ、貴族でもなんでもない平民の家の出である自分が軍に志願し、軍人となった時点でそんな勝手が認められるわけもないが。
 何度目かになるため息をついたところでエレベーターのベルが目的の階層への到着を告げ、ゆっくりとドアが開いた。エレベーターホールから両側へ続く長い廊下。第2航空師団に属する隊の談話室が並ぶフロアの端、かつてリゲル隊が使用していた談話室へ向かうと、辿り着いたドアの前で立ち止まった。最後にもう1度深々とため息をつき、ロウはドアを開いた。

「はぇ?」

 IDを認証してスライド式のドアが開いた先、きれいに片付けられた談話室の中で、小さな人影が肩を跳ね上げながらこちらを振り返った。
 窓から入る光を受けて輝く明るいブロンドの長髪。こちらを捉える明るいライムグリーンの目にはまだあどけなさが残っており、少女と言い表しても良いその人物が新兵だと気づくのに数秒と要さなかった。まさか、とは過ぎったが、ロウは一縷の望みに懸けて問いかけることにした。

「なにして……

「あ、ろ……ロウ・クロックフォード大尉でしょうか!?」

 と、口を開いたことを後悔した。こちらの言葉を遮って発せられた言葉に唸るような声とともにまた息を吐いた。それを目にし、こちらの意図を汲み取ったのだろう、少女が「す、すみません……」と小さく告げてから、おずおずとした口調で続けた。

「ソ、ソニア・ハーディ二等兵ですっ! 本日付でっ、だ、第2航空師団、第6急襲小隊ベガに配属されました!」

 二等兵。軍学校を卒業した全員が手にする最初の階級で、爵位を持つ貴族の連中など飛ばして上るような階級だ。そんな階級の新兵を人数の少ない新設の隊に配属するとは、上の考えというのはいつだって理解できない。
短く息を吐き、アッシュグレーの髪をぐしゃぐしゃとやりながら肩を落としたロウは、諦めを込めて口を開いた。

……ロウ・クロックフォードだ。言っとくが俺は隊長じゃねぇ、手取り足取りはお偉い隊長殿に頼めよ」

「りょ、了解です……!」

 大きな不安とほんの少しの期待が込められた返事に再びため息をつきそうになるも、流石に酷だろうと考えたロウはラフに敬礼する。それを目にし、ソニアと名乗った少女は少しだけ嬉しそうに礼を返してきた。