不破
2023-06-14 21:46:48
5236文字
Public 空戦
 

#14




「メッカに駐留していたメルゼブルク軍は撤退か。思ったよりも速かったな」

 背後から響いた声に、ラザフォードは振り返る。と、メッカの外縁部にある船渠に入った飛空艇、ネモフィラの舷梯を降りてきた白いローブの男がフードを脱ぐところだった。

「奴等は都市防衛に特化した対空挺部隊だ。懐に入られたら防衛戦を維持できないことは奴等自身が1番わかっているさ」

 言いながら、口に咥えた煙草に火を着けた。煙を肺一杯に吸い込みながらも、銀のライターの蓋を閉じて男の方へ投げ渡した。それを受け取った男が「お、サンキュー」と軽い口調で礼を言いながら煙草を口に咥え、銀のライターで火を着けた。
 小気味良い金属音とともにライターの蓋を閉じて火を消し、それを投げ返してくる男。ノーヴェ・カラブレーゼという名の彼はウィンズレット軍第6艦隊ジュリアスを率いる人物だ。飄々としていて軽口の多い男だが、階級は大佐であり、魔術の研究を行う子爵家の家督を若くして引き継いだ当主でもある人格者だ。

「なるほどな。ともあれ、これでサイードには貸しを作れた。手放しで協力とまでは行かなくとも、宗教観の違いは一旦横に置くだろう」

 回りくどい。ラザフォードは率直にそう思った。戦争における戦略など、どうでもいい。出来ることならすぐにでもこの手でルフェーヴルの首をへし折ってやりたいところだというのに、戦争となると戦略や政治という柵が絡み合い、シンプルな唯一の目的が遠ざかってしまう。

「おいおい、そう怖い顔しなさんな。教皇の一族がしていい顔じゃないぜ」

 知らず知らずの内に表情に出ていたらしい。ノーヴェの指摘に我に返り、気を紛らわすために煙草の煙を吸い込んだ。

「そう焦りなさんな。何事もクールにだ。熱くなり過ぎる奴はここぞってチャンスを逃すもんさ」

 吐き出した煙が空に消えていく。ノーヴェの言葉に緋色の目を細めながらその様を眺め、指で挟んだ煙草を再び口へと運んだ。