不破
2023-06-14 21:46:48
5236文字
Public 空戦
 

#14




『アルタイル5ロスト! 敵飛空艇から空兵の出撃を確認!』

 通信を介して響いてくる仲間の声。前方に見える空でアルタイル隊の戦闘機が爆炎で花を咲かせ、黒い尾を引いて墜ちていく。それを目にしながらワインレッドの両目を細めると、こちらへ向かってくる空兵のマーカーがHUDに表示されるのを確認した。

「戦闘機部隊がほぼ全滅……面倒臭ぇ……

 舌打ちとともにそう吐き捨て、ロウ・クロックフォードは腰のベルトに通したホルスターから2丁の銃を抜き放った。とはいえ、銃を構えたとてサテライトを装備した空兵には意味がない。サテライトには魔導シールドを自動で展開するシステムが搭載されており、魔導シールドを突破するにはエーテルによるシールドの中和が必須であるため、多くの飛び道具では魔導シールドを突破することは出来ない。故に、サテライトを用いる空兵を前にこんな銃など豆鉄砲も同然だ。この銃が、なんの魔術も帯びないのであれば。
 小さく乾いた音を伴いながら、銃身が帯電を始める。「熱と嵐の霊メリリム」と名の付いた魔術が齎す雷光を帯びる2つの銃口を跳ね上げ、引き金を引いた。まるで雷鳴のような銃声が空を裂き、放たれた弾丸が一直線に駆け抜けて行く。それは雷光を纏いながら空兵の魔導シールドをまとめて貫き、炸裂。閃光が輝き、遠雷のような轟音が遅れて到達。駆け抜けた雷光に撃ち抜かれた空兵達が落下していくのを目にしながら、ロウは短く息を吐いた。

……開戦か』

 と、通信を介して聞こえてくる声。声色ですぐに疲弊しているのだと分かるそれは、自らが属するアルタイル隊の隊長であるヴィルヘルム・ドーのものだった。軍学校時代からの同期で、明るく気の良い男だったが、この間のサイードとの戦争で恩師と仰いでいた上官が戦死してからこの調子だ。その上官のことはロウも知っているが、ヴィルヘルムほど感傷に浸る気にはならなかった。

『戦争なんて始めなきゃならないとはな』

「始まっちまったもんはしょうがねぇだろ」

 ヴィルヘルムの声に少々苛立ちながら返し、ロウは迫りくる空兵の第2陣に備える。と、その時だった。HUDで立ち上げたままになっていた端末から警報音が響いた。浮かび上がる赤いマーカーの表示が直上を示していることを確認したロウは息を呑みながら上空を見上げた。それと同時に目に飛び込んでくる光景。振り上げられた白い剣が炎を纏い、一直線にこちらへ向かってくる。

……っ!!」

 目を見開きながらもすんでのところで2丁の銃の銃身を交差させながら頭上に翳し、振り下ろされる剣を受け止める。金属音とともに強烈な衝撃が両腕を襲い、炸裂する炎が駆け抜けていく。

『ロウ!』

「う……るせぇっ!」

 通信の向こう側からヴィルヘルムの声が聞こえてくるが、ぎちぎちと音を立てて拮抗する剣に押されぬよう歯噛みしながら返し、銃身で剣を払った。すぐに距離を取りながら銃を構え、引き金を引く。しかし、放たれた弾丸は横っ飛びに逃れた相手に躱され、足元のパネルに弾けた。

「魔導シールドを貫通する魔術か。厄介なものだ」

……突進馬鹿とは違ぇんだよ」

 陽炎に揺れる金髪に緋色の両眼、リベルタリアに生きる者なら誰もが知る風貌。世界に名をつけた教皇の一族の生き残り、ラザフォード・シンクレアが吐き捨てた言葉に、ロウは不機嫌に返した。

「勇猛と蛮勇の違いくらい理解している」

 言いながら白い剣を振り上げるラザフォード・シンクレアを前にロウは後方へ跳び、手にした銃をラザフォードに向けて放ったが、振り下ろされる白い剣によって払われ、その件が地を打った瞬間に炎が炸裂し、衝撃波とともに炎が広がった。咄嗟に両腕で頭を庇いつつ後方へ跳び、炎から逃れると通信からヴィルヘルムの声が響いた。

『ロウ! 撤退する! 都市まで到達されたら俺達だけで防衛は出来ない!』

「ちっ……!」

 ヴィルヘルムの言葉に舌打ちをし、ロウはすぐに踵を返して走り出した。