メッカ。ついこの間までサイードという国のものだった都市の領空に侵入したブラッドローズの甲板で、ラザフォードは義手となった右腕を動かし、腰にしている白い剣を抜き放った。
メルゼブルクとの戦争で敗北し、メルゼブルクの領空に併合されたサイード連邦首長国の首都であったメッカには現在、メルゼブルク軍の部隊が駐屯しているらしい。メルゼブルク軍第1航空師団第12制圧中隊アルタイル、狙撃部隊と戦闘機部隊を有する制圧戦に特化した隊だそうだ。風に揺れる長い金髪を払い除け、メッカから戦闘機が飛び立つのを睨んだ。
『こちらメルゼブルク軍アルタイル隊。貴艦は我が国に属する都市の領空を侵犯している。速やかに領空から退避されたし』
響いてきた通信を鼻で笑った。なにが領空侵犯か。ついこの間まで敵国の都市だった場所に構えておきながら随分な物言いだ。ラザフォードは空いている左手に炎を灯し、編隊を組んでこちらへ向かってくる戦闘機に向けて巨大な炎弾を放った。それは編隊の左端の機体を呑み込み、爆炎とともに叩き落とした。紅蓮の炎と黒煙を上げながら雲海へと墜ちていく機体を横目にラザフォードは深く息を吸い、短く吐いてから白い剣を高く掲げた。
「我等、リベルタリア教導義勇旅団クルクス! ウィンズレット女王より賜った私掠免許状により、これよりメルゼブルクを敵国とし、攻撃を開始する!」
メルゼブルクへの宣戦布告。多くを失った自分の手に残った僅かなものをすべて巻き込んで、戦場という新たな地獄へ歩を進める。しかし、その地獄の道行こそが復讐へ続く唯一の可能性だ。これを手繰り寄せられなければ、この灰燼の生に意味などない。たとえすべてがこの手から滑り落ちて行こうとも、この復讐を遂げるためだけにこの命は在るのだから。
ブラッドローズの全砲門が開かれ、レーザーユニットが起動。赤い閃光とともに無数のレーザーが放たれ、猛スピードで敵の戦闘機部隊へと襲い掛かる。散開した戦闘機達が次々にレーザーに貫かれ、爆炎を上げて落下していく中で急激に加速したSu-57が大きく旋回し、雲の中へ逃げ込み、離脱して行った。
「都市で本隊と合流か」
おそらく立て直すつもりだろうが、都市まで雪崩込めばこちらのものだ。クルクスが強襲を得意としている所以を教えてやれば良い。
「クルクス全軍に告げる! これより我々はメッカを奪還する! メルゼブルクの悪虐を許すな! 正義は我等にあり!」
正義。そんな言葉を使ってバチカンの生き残り達を新たな地獄へと引き込むことを恥じながら、ラザフォードは呼び出したボード型のサテライトに乗り、飛んだ。
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