不破
2022-09-08 21:10:56
6191文字
Public 空戦
 

#9




 リゲル1、ポール・ハーディ大佐の声が響いた。それを耳にしながらも、アンタレスはウメを追って飛ぶUCAVをロックオンし、ミサイルで破壊した。

『助かるよ、赤蠍君』

 ウメの言葉に答えずにレーダーに目を走らせ、次の標的を探しながら旋回する。
 UCAVに出てこられては対空兵への制圧を行うリゲル隊の行動に支障が出てしまう。足並みを揃え、順序立てて行う必要のあるこの作戦においてそれは手痛い損害となるだろう。出現したUCAVを手早く片付ける必要がある。そう考えながら次の標的を定め、速度を上げた瞬間だった。突然アラートが響き、後方にマーカーが点灯する。

「っ……!?」

『シャウラ2! 後方にボギー!』

 響いたセシアの声に、アンタレスは後方を振り返る。速度を上げる自分の機体の後方に、白い機体が追ってきている。舌打ちと同時にロックオンを告げるアラートが響き、白い機体からミサイルが放たれた。

「くっ……!」

 即座に機体をロールさせて機首を返しつつスロットルを上げて加速。大きく旋回しつつ高度を落とし、ミサイルを建物にぶつけて振り切る。

『赤蠍君っ……

『シャウラ4、私が行きます』

 ウメの言葉を遮って響いたヴィンの声。それと同時に正面からヴィンの機体が飛来し、建物の間でぎりぎりすれ違ったかと思えば、ヘッドオンした白い機体へミサイルを放った。しかし、白い機体は通常では考えられないような急角度の旋回を見せ、ミサイルを回避したかと思えば、そのままヴィンの機体の後方についた。

「シャウラ1!」

『シャウラ2、私が引きつける! 後ろについてお前が落とせ! シャウラ3! リゲルの援護を!』

……了解」

 と、ヴィンの言葉に返答し、白い機体の背後につける。『了解』と聞こえたアレンの声を掻き消すようにスロットルを上げて速度を上げるヴィンの機体が建物の間に飛び込み、猛スピードで駆け抜ける。身体にかかる強烈なGに歯噛みしながら、スロットルを更に上げる。白い機体のミサイルがヴィンの機体に襲いかかるも、すんでのところで躱して旋回するヴィン。即座に急旋回して速度を上げる白い機体を追いかけながらも、ロックオンの追い付かないレベルの機動に苛立ちを覚える。
 特殊な形状にこれだけの機動、UAV無人機で間違いない。出し惜しみはしていられない。すぐさま水晶片を用いたレーザーユニットを起動し、オートモードで放った。いくつかの水晶片が飛び、白い機体目掛けてレーザーを幾重にも放った。しかし、赤い色をしたそれをひらひらと回避してみせる白い機体の機動はもはや曲芸と言って差し支えないようなものであり、有人機にはとても真似出来ない。そんな相手を落とすためには、確かに誰かが危険を犯して囮とでもならなければ難しいだろう。だが、それも諸刃の剣でしかない。時間を掛けてしまえば、なによりも早くパイロットに限界が来る。
 前方を行く白い機体がミサイルを放った。それを目にしながら、アンタレスは告げる。

「シャウラ1、ミサイル」

『くっ……!』

 余裕の削られた声色でヴィンの声が返り、黒い機体が急上昇する。それを追う白い機体目掛けてレーザーを放ちながらも機体を急上昇させ、Gに負けぬように自らの上体を持ち上げる。速度を上げる黒い機体が一直線に上昇した瞬間だった。上昇する自分達とすれ違うように、なにかが真っ逆様に急降下して行った。

『っ!! なんだ!?』

 ヴィンが叫んだ瞬間だった。急降下して行ったそれがバグダードの街に突っ込み、衝撃波とともに巨大な爆炎が広がった。

『ポールッ!!』

 通信からハーディ准尉の悲鳴に近い声が聞こえてくる。

『状況をっ……うあっ!』

 ヴィンが鋭く叫んだ時だった。爆発の衝撃に煽られたヴィンの機体の一瞬の隙を突いて、白い機体が機銃を放った。それがヴィンの機体の尾翼を貫き、黒い機体からわずかに黒煙が上がった。

「シャウラ1!」

『問題ない、まだ飛べる……!』

 言いながら急旋回して降下に入るヴィンの黒い機体を追って、白い機体が急旋回した。アンタレスもそれに続き、炎を上げ始めたバグダードを眼下に飛ぶ。

『解析出ました。旧式の大型無誘導爆弾による攻撃ですが、ステルス性能を有したUAVに搭載したまま都市に特攻したようです。望遠カメラで第2波を視認しています。着弾まで残り30』

『この状況で第2波が来るのか……!』

 響いてくるフォーマルハウト2の平坦な声に続くアレンの声は少しばかり苛立っているようだ。冷静さはさすがAIと言ったところだろうが、この状況では周囲に苛立ちを与えるのも頷ける。しかし、そんな事を気にしている余裕などない。次の攻撃が迫っているのなら、なにかしら対応を考えなくてはならない。

『くっ……こちらリゲル1だ! 俺達はなんとか無事だが、こんなのが何発も来たんじゃ俺達どころかバグダードそのものがもたねぇ!』

 ノイズの後に響いてきたポールの声。彼の言う通り、この規模の爆発が続いてはバグダードがもたない。ここで戦闘を行っている以上、自分達はその崩落に巻き込まれかねないだろう。

……撤退だ! どの道このダメージじゃバグダードは拠点としての能力を失ったも同然だ! こっちの足場に出来ないのは痛手だが、人員を失うより良い!』

 即座にポールが判断を下す。と、その時だった。再びフォーマルハウト2の声が通信に響いた。

『敵UAV、進路を変更しました。ルート再計算、およそ20秒でイリアンソスに直撃します』

 どうやら敵方は撤退を許さないつもりらしい。急降下してくるUAVが一直線にイリアンソスへと向かうのが目に入った。

『シャウラ2! 行け! サテライトじゃ追いつけない! シャウラ3もUCAVの相手で手一杯だ!』

「っ……ですが!」

『行け! 命令だ!』

 鋭い声でヴィンが叫んだ。歯噛みしながら「幸運を」と言い残すと機首を上げて旋回し、イリアンソスへ向かうUAVを追う。水晶片を全て飛ばして無数のレーザーを放つが、爆弾を抱えたUAVは迫るレーザーを無駄のない動きで回避し、加速する。

「くそっ……!!」

 スロットルを限界まで上げ、加速する機体のGに耐えながら追いすがるが、こちらは完全に出遅れている。だが逃がすわけには行かない。ここで逃がせば総崩れになる。絶対に落とさなければならない。
 再びレーザーを放ち、加えてミサイルを一斉に放った。ゆっくりと加速していくミサイルがUAVに迫り、回避するために機体をロールしたUAVの主翼を、周囲から放たれたレーザーが貫いた。火を吹いてばらばらになるUAVが破片を散らしながら崩れ落ちる。吹き出した火が抱えていた爆弾に引火して爆発を引き起こしたが、その向こうに見えるイリアンソスは無事だった。
 と、安堵して短く息を吐いたその瞬間だった。一瞬の隙を突くようにして現れた別なUAVがイリアンソスに突っ込んだ。

「なっ……!!」

 響いてくる轟音。広がった爆炎がイリアンソスの艦橋を呑み込み、高々と燃え上がる。直前の一瞬、消え入りそうな声で誰かが誰かの名を呼んだ気がした。