スロットルを上げ、デスストーカーと名の付いた黒い機体の速度を上げながら、ヴィンはバグダードへ向けて飛ぶ。Su-30SMと呼ばれる機体にカスタムを施した自身の機体の操縦桿を握ったまま、HUDモードで展開された端末が表示する情報に目を走らせ、状況の変化にいつでも対応できるよう構える。
『シャウラ4だ。黒蠍君。敵の誘いだったとして、乗るのは良いが伏兵が居るのではないかね?』
「ええ。ですが伏兵を潜ませるのなら都市内でしょう。であれば空兵の確率が高い。先に頭上を抑えれば制圧は容易と考えます」
響いてきた4番機、ウメの言葉に返しながら、近づいてきたバグダードの外縁部に目を凝らした。
『なるほど、了解した。そういうことであれば私もリゲルと共に先陣を切ろうじゃないか。白頭鷲君もそれで構わないかね?』
『ああ、構いませんよ。シャウラ隊の老魔女殿と肩を並べて戦えるとなれば、ウチの連中も気合が入るでしょう』
シャウラ隊唯一の空兵であるウメの声に返す意気揚々としたポールの声。その背後でリゲル隊の面々が声を上げている。賑やかな連中ではあるが腕は本物だ。指揮官であるポールの人望あってのことだが、リゲル隊の団結力、統率力はメルゼブルク軍の隊の中でも優れたものだ。そう認めているが故に負けていられないのだが。
通信を介した会話を耳にしながらバグダードの外縁部に接近した。その時だった。機体のアラートが響いた。
「ロックオンされた。散開!」
鋭い声で言いながら、更にスロットルを上げて速度を上げる。こちらへ向かって放たれたミサイルが無数に空へ躍り出てこちらへと向かってくる。機首を返して散開していった2番機と3番機のマーカーをレーダーに見、向かってくるミサイルの群れに視線を戻した。即座に操縦桿を傾けて機体をロールさせ、迫り来るミサイルの僅かな隙間に翼を通すようにして掻い潜りつつも、機銃で対空砲を1門破壊しながら突破する。
『シャウラ1! そういうのやめて下さい! 心臓に悪いんで!』
怒ったようなセシアの声が聞こえてくるが、機体の速度は落とさない。バグダードの外縁に聳え立つ、風防を兼ねた背の高い船渠郡を跳び越えるようにして都市へ到達すると、こちらを狙う対空機銃へミサイルを放ち、そのまま突破。背後に上がる爆炎に目もくれず、中央へ向かうメインストリート上で低空を保ち、猛スピードで都市中央へと向かって飛ぶ。
『リゲル隊及びシャウラ4、まもなく降下ポイントです。ハッチを開きます』
『了解だ。降下後、第2、第3中隊は東西から侵入。第1中隊は上空から降下する。イリアンソスは支援砲撃』
ナタリアとポールの声が聞こえる。そろそろリゲル隊がくる。現時点で自立型の対空砲しか破壊していないが、空兵がいないとも思えない。考えを巡らせながらも建物の屋上に設置された対空砲を破壊しながらも、都市中央部に近づいた時だった。突然響いたアラートに、反応して機首を上げた瞬間だった。建物の窓から放たれたスティンガーが目に入った。白煙を上げて向かってくるそれに、やはり空兵が潜んでいたかと舌を打つ。機体の腹側を過ぎ去っていったミサイルに肝を冷やしながらも建物を躱して上昇し、機体をロールさせて機体上面の視界を確保すると、建物の屋上に設置されている対空砲がこちらを向いたところだった。
「ちっ!」
舌打ちをしながらスロットルを下げ、機体の速度を落としながら機首を上げる。途端に機体が進行方向に対しておかしな方向に捻れるように旋回し、機首が対空砲を捉えた。一瞬のロックオンとほぼ同時にミサイルを放ち、対空砲を破壊。そのままぐるりと翻る機体が進行方向を正したと同時にスロットルを上げて上昇。響くアラートに速度を上げて旋回しながら叫んだ。
「シャウラ1、交戦! スティンガーを装備した空兵が屋内に潜んでる!」
飛来するミサイルが後方に迫るも機体の速度を上げて旋回し、ビルの陰に逃れて振り切る。ミサイルがビルに直撃し、爆炎とともにビルが倒壊していく。
『ゲリラ戦か。了解だ! 空兵は俺達で対応する!』
ポールから返ってきた声に「了解」と返すと、レーダー上にリゲル隊のマーカーが現れた。サテライトで降下してくるポール達を遠目に見ながら、ヴィンは予定通り敵の頭上を抑えるべく、眼下に見える建物の屋上に設置されている対空砲に狙いを定めた。
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