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ナガレ
2022-03-30 21:21:38
8910文字
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SSまとめ(その3)ぶぜまつ
すべてページメーカーで作って上げたもの、もしくはポイピクからの再録です。(寒昴、桃の節句に寄せて、秘密主義と言霊、食べられたい松井、心臓に触れる)
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【君の重しとなるならそれでいい】
ミュを見て何か思いついた感じの小話。途中書きを見つけたので供養。どこか翳りのあるふたりも好き。
「僕が折れたら食べてくれ」
草木も眠る丑三つ時。暗がりの中で豊前は松井に突然そう言われて面食らった。
「折れたら鋼に戻っちまうだろ」
「砕けばふりかけみたいになると思うけど」
「そういう問題か
……
?」
うつ伏せの体勢で松井の隣に寝転がる豊前が、がしがしと後ろ頭を掻いた。
「つーか、食われたいなら
……
いや、何でもない」
「その口ぶりは何でもなくないよね」
松井は豊前が何か言い淀んだ事にすぐ気がついた。松井が敏い敏くない以前に、豊前は誤魔化す事が下手だった。
「
……
松井でも、たぶんひく」
気づかれた事に気づいた豊前の歯切れが悪い。一体彼は何を言おうとしてやめたのだろうか。松井は続きが気になった。
「気になって仕方ない僕の身にもなってよ」
君と僕との間柄じゃないかと、松井は豊前に続きを促した。往生際悪く尚もはぐらかそうとする豊前に、にじり寄って追求する松井。
しばしの攻防の後に折れたのは豊前だった。豊前は松井に、聞いても絶対に引くなよと強く念押しをした。
「
……
生きてる松井なら食ってもいい」
「え」
ほら引いたと、拗ねたように豊前はくるりと松井に背を向けてしまった。松井は豊前の発言に引いたわけではない。驚いただけだ。時折ふっと陰が差す時もある豊前だが、まさかこんな事を言い出すだなんて誰も思わないだろう。
(豊前が僕を
……
)
松井は想像した。場所は薄暗く、できれば狭いところがいい。誰も知らない場所に二振りきり。血を流して横たわる己がいて、そばには豊前がいる。
真っ赤に染まった豊前の手と口元。赤は松井の好きな色だ。己が生んだ赤色が彼を染めている。そう考えただけで松井の背筋がぞくりと粟立った。
豊前は食べ散らかすなんていう行儀の悪い事はしないから、きっと後には何も残らない。この器を形成する血も肉も、刀剣男士・松井江としての記憶も思い出も、何もかもが豊前の中に流れていくのだ。
松井は豊前の背中にぴたりと張りつくと、後ろから腕を回した。肩の辺りに見つけた真新しい引っかき傷は見なかったことにしておこう。
「君に食べられて血肉の一部となるのも悪くないね」
「
……
血肉だとそのうち無くなるだろ」
この器は細胞というものでできていて、細胞は定期的に死んで新たな細胞が生まれていくと聞いた。松井を元に豊前の血肉となる細胞が作られても、その細胞はやがて死んでしまう。
しかし他に何があるのだろうか。血肉でないというのなら、豊前は松井に対して何になる事を求めているのだろうか。
見当のつかない松井が首を傾げていると、回した手を豊前にぎゅっと掴まれて、手のひらが彼の胸に当たるように引っ張られた。
まだ少し汗ばんでいる肌越しに伝わる鼓動。そこは心臓の真上だった。
「俺の中、松井が埋めてくれ」
豊前はいつも何かを求めている。自分が自分であるために。疾さを求めるのもその一部で、辿り着いたその先に満たしてくれる何かがあるのではないかと信じているからだ。
拠り所がないと言う、漠然とした不安と焦燥感。そんな負の感情を吹っ切るため、豊前はいつも駆けている
――
と松井は思っている。
そんな豊前の中をこの体一つで満たす事ができるのならば、己の持つすべてをもって彼を満たそう。朧気な鋼の頃の記憶だって明け渡す。
名物・松井江が知る豊前江、それはきっと何かの助けになってくれるはずだ。止まる事を知らない豊前は、いつか松井も仲間も自分自身すらも置き去りにしてしまうだろうから、その前に。
「
……
君の中で生きて重しとなるなら、僕はそれでいい」
豊前が迷いに耐えきれなくなった時、負の感情に追いつかれてしまった時。彼のすべてを埋める事はできなくても、重しぐらいにはなれる。重みを感じて立ち止まってくれればいい。
松井は豊前の背に額を当てると、手のひらで感じる心臓を掴むようにぎゅっと手を握りしめた。
「その代わり、骨までしゃぶるぐらいに欠片も残さず食べ切って」
肉のひとかけらも、血の一滴たりとも残してくれるな。置いていくなんて許さない。
松井の声が少し震えていた事に、豊前は気づいただろうか。
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