ナガレ
2021-09-03 20:56:47
11355文字
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SSまとめ(その2)だいたいぶぜまつ

すべてページメーカーで作って上げた小ネタの再録です。(手が滑った豊前の話、ピアスの話、まつ愛でタイムを邪魔される話、酔っ払い豊前の話、夕涼みの話)


【若気の至り】
ピアスを開けてみたい松井と、実は開けてた豊前について。ちょっとやんちゃな豊前。


とある非番の日。豊前の部屋で松井は現世の雑誌を借りて読んでいた。珍しい事もあるものだ。何か気になるものでもあったのだろうか。
集中している時の松井に声を掛けるとおざなりな返事しか返してくれないので、豊前は後から聞いてみることにした。
かさかさと松井が紙を捲る音だけが聞こえる室内。不意にその音が止まった。松井は立ち上がると、雑誌を手に部屋を出て行った。
豊前はそれをきょとんと見送った。一体何だったんだろうか。松井は数分後にしょんぼり顔で戻ってきた。

「どした?」
「主にこれが欲しいとお願いに行ったら、まだ早いと言われてしまって……

どれどれと雑誌を覗き込む豊前。そこには首飾りや耳飾りといった装飾品がいくつか紹介されていた。松井がこれと言って指差したのはピアスだった。
早いの基準はわからないが、自分が松井に聞かれてもだめだと言いそうだと豊前は思った。主とは違う理由で。

「この赤色のが欲しかったんだ」

豊前の目みたいで綺麗、というのは褒め言葉として受け取ればいいのだろうか。たまに松井は独特の評価をしてくる。

「つーか、これがどういうのか知ってんの?」
「耳飾りだろ?五月雨や村雲が身に着けているような……
「少し違う」

豊前は松井ににじり寄ると、松井の耳朶を摘んだ。

「ここに穴開けて、ぶすって差す」
「それは知らなかった」
「開ける時はそれなりに痛い」
……何でそんなこと知ってるんだい?」
「開けたことあるから」

豊前の告白に松井は驚いた。そういう装飾品とは無縁だと思っていたからだ。よく篭手切に止められなかったと思う。思い立ったら即行動で、知られる前に開けてしまったのかもしれないが。

「見たい?」
……見たい」

豊前に乗せられてしまった気もするが、見たいか見たくないかと問われれば、見たいのが本音。松井はちょっぴり唇を尖らせながら答えた。
松井に見たいと言わせた豊前が満足そうに頷く。

「夜にたっぷり見せてやんよ」

……ばちこーんとウインクされたのは気のせいだ。鼻血が出そうになったのはただの偶然で、ばちこんウインクのせいではない。松井は咄嗟に鼻の付け根を押さえた。

*****

その日の夜。松井は豊前の部屋に呼ばれた。明日の予定は豊前が午後から手合せで、松井は夕飯の厨当番だから、少々夜ふかしをしても問題は無い。
空振りになったその時はその時だと、松井は一応準備をしてから豊前の部屋に向かった。
松井が豊前の部屋に入ると、こっちと手招きされた。豊前は松井を甘やかすのが好きだ。松井を膝の上に乗せると、いつものように撫で回した。
こうやって撫で回されるたびに、飼い猫じゃないんだけどなと松井は思う。でも、嫌ではないのでやめてくれとは言わなかった。

「昼間の話だけど」
「耳飾りの話?」
「そう。あれ、ぴあすって言うらしいぜ。で、どこにあると思う?」

にやりと人の悪い笑みを浮かべる豊前。これは当ててみろという事か。松井は豊前に手を伸ばしたが、ひょいと避けられてしまった。

「触って確かめるのはなしで」

見ただけと勘で当てろということらしい。松井は豊前を観察した。しかし耳介にそれらしき跡はない。耳飾り改めぴあすは、耳に着けるものなのに何故。松井の眉間に皺が寄る。

「降参?」
「降参」
「正解はここ」

そう言いながらわざとらしくちゅと口づけられて、唇をこじ開けられた。いつもの様に豊前の舌が入り込んできて――カチリと歯に何か当たった。
まさかと松井が思わず体を離すと、そこにはしてやったり顔の豊前がいた。

「そんなところに開いてるなんて、普通は思わないよ……
「ここに来たばっかの頃に開けた」

べぇと舌を出す豊前。その舌の真ん中は小さな金属片が填まっていた。
豊前曰く、これは好奇心と若気の至りで開けたもので、試しに開けてみたらそれで満足してしまったらしい。今は穴が塞がらないよう、誰もいない時にこっそりと填めているとの事。
一応審神者はこの事(したぴというらしい。松井はこの単語を初めて聞いた)を知っており、手入れの時に塞がらないよう配慮してくれているそうだ。
松井は全然知らなかったし、気づかなかった。審神者の他に誰も知らないとは言い切れないが、仮に知っている者がいたとしても片手の指の数ぐらいだろう。
豊前の秘密を教えてもらった気がして、松井は少し嬉しくなった。

「でも、何で教えてくれる気になったんだい?」
「別にどうしても隠しておきたいことじゃねーし、ちっと試してみたいこともできたから」

試してみたいこと。その言葉に何だか嫌な予感がした松井の腰が退けた。が、すぐに豊前によって逃げられないように抱え込まれる。
膝の上に乗せられた時点で松井の負けだった。いや、もっと前だ。夜にたっぷり見せてやると言われた時点で勝敗は決まっていた。豊前は最初からそのつもりだった事に松井は気がついた。

「これで触れたら、松井どんな反応すっかなと思って」

空振りにはならなかったけれど、何だか大変な事になりそうだ。お手柔らかにと言うのが精一杯の松井だった。


――――――――――
周りとは少し違う事がしてみたい、そんなお年頃だった豊前がいてもいいと思う。

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