せっかく誕生日なんだからお祝いに自分にうちよその現パロを贈ろうの回(タイトル未定)

2年前くらいからある設定をようやく書き起こしてみた。いつものうちよそオスラッテをベースにしていますが、がっつりとした現パロのため捏造多数あります、ご注意ください。





 今日は朝から会議や来客対応に追われ、更に夜遅くまで会合が開かれていたので俺も社長もすっかり疲労困憊といった状態だった。会場のホテルを出る頃には夜の十時を過ぎてしまっていた。
「やっと終わった……。まさかあんなに沢山の人に話しかけられるとは思わなかった」
「お疲れ様です……
「バスドーラも対応を手伝ってくれてありがとうな、おかげさまで有意義な情報交換が出来た」
「いえ。社長はこれからどうされますか? 会社に戻られるのでしたら俺が運転しますが」
「今日はもう戻る気はない……。というか腹減ったな」
「確かに、社長はあまり食べる時間がありませんでしたね。今からどこかで食べていきますか?」
「ああ、そうだな。お前も休む暇なかったから食べてないだろう? 何か食べたいものあるならそこに行っていいぞ」
「うーん……、食べたいものですか。この間食べに行ったのはラーメンで、その前はイタリアンで。社長、ガッツリしたものがいいかさっぱりしたものがいいか選んでください」
「どっちでもいい」
「それが一番困るんですけど……じゃあ、適当にチェーン店行っちゃいますよ」
「はいはい」
 仕事から一変、すっかり二人きりのモードに切り替わっている。とりあえず道中で見つけた深夜営業をしている和風レストランに入ることにした。
 店内は俺たち以外客は誰もおらず、テーブルに案内されて座ると社長はすぐに目を閉じて突っ伏してしまった。
「適当になんか注文しておいてくれ……
「分かりました」
 ひとまずはドリンクバーを二人分、それとこの時間なので油を使ったがっつりとした料理はやめてうどんとサラダのセットを二つ注文しておく。それからドリンクバーでブラックコーヒーを二つ淹れて一つを社長のほうへと置いた。それからも社長は突っ伏したままだったので、もしかしたら仮眠をとっているのかもしれないと何もせずに一人でコーヒーを飲みながら料理を待っていた。
 やがてセットの料理が運ばれてきたので、流石に麺が伸びるといけないと思い声をかけた。
「ほら料理きましたよ、麺が伸びてしまうので早く食べましょう」
「あー、きたか……。あれ七味どこだ」
「もうそちらに置いてあります」
 半分意識がふわふわしているような気がする社長がのっそりと起き上がってから忘れずに七味をかけてうどんを啜り始める。俺もゆっくりとサラダから食べ始めたが、途中で何度か社長の様子を伺うとあまり箸は進んでいないように思えた。普段は甘い物を除いて大盛りもぺろりと完食してしまうような人なので、余程疲れ切っているのだろうと推測できる。
「バスドーラ、このサラダは代わりに食べてくれ。今の俺じゃ食べ切れなさそうだ」
「分かりました、いただきますね。あの……食欲がないようですが、どこか具合が悪いのですか?」
「いやあ、そういうわけじゃないんだが」
 そのまま社長にはモゴモゴとはぐらかされてしまったが、俺はひとまず二つ分のサラダを食べようと気を取り直して箸を進めていった。



 その後先に料理を食べ終えた俺は、すっかり冷めてしまった社長のコーヒーの代わりに熱い緑茶の入った湯呑みを二つドリンクバーから持ってきた。一つはまだうどんを食べている社長のところに置き、もう一つは自分の前に置いて少し冷めるまで飲まずに待っていた。そうしている間にようやく社長も食べ終えたようで箸を置いて手を合わせた。その後に彼は何故かコーヒーカップの方を手に持ってから勢いよく中身を一気飲みしてしまった。
「あの、それはもう冷めてるんですが!」
「いやこっちでいい、目を覚ましたいからさ」
「でしたら、新しいコーヒーをお持ちしましょうか?」
「大丈夫、それよりも少しお前と話をしたい」
「話……なんでしょうか?」
 コーヒーを飲み切ってから急に雰囲気が変わり、背筋を伸ばして俺の方に向き直る。俺もついつい同じように姿勢を整えて彼のほうをしっかりと見つめていた。
「これは完全にプライベートの話なんだが、俺は今、大事にしたいと思っている人がいるんだ」
「あら、そうなんですか。それはおめでとうございます」
 これはずっと前から想定していたし、俺自身も望んでいた。社長は今まで会社のことばかりに集中していて自分自身の事を疎かにしていたように思う。大きな企画もひと段落してそろそろ社長……いやムナカタさんとしての幸せを見つけてもらいたいと思っていたのだ。とはいえ、その意志を俺に告げたということは今後の仕事にも影響してくることなのだろうか。
 でも、それでも、彼が幸せになってくれるのなら俺はいくらでもスケジュールの調整をしてプライベートの時間を何とか確保はするし。今までみたいに二人で食事に行くことも出かけることも減るか無くなってしまうのは寂しいけど、それぞれに家庭が出来たらそのうち起こりうる未来なのも分かってる。とはいえ俺自身はすっかり仕事をすることで生きることに満足してしまっていて、とてもじゃないが家庭を持つという考えは浮かばない。最も、彼はいつか会社を任せる後継者を決める立場にあるのだから、子供だってきっと、誰かと育んでいくのだろう。そう、彼が幸せになるのなら……そんな未来が一番良い。
「いやまあ、まだ告白すらしてないんだ。しようとずっと思っていたんだが、どうにも今の今まで勇気が出なくて、情けない限りだ」
「そんなことは、ないです……告白しようと決心されたことだけでも充分素晴らしいと思います。それに、ようやく自分自身のことを考えてくださってこちらも安心しました。会社の事は俺のほうでこれからも出来る限りサポートしますから。どうかビジネスだけではなく、プライベートも大事にしてほしいです……だから、その方と社長が幸せになることを願っています」
 言葉を並べていけばいくほど、何故か俺の胸は苦しくなっていく。だって、これで自分の恩を返せたようなものじゃないか、みんなが納得のできる結果になっただろう。もうお役御免なんだ、いつまでもこの人に縋っていちゃいけない。あの時、本社にやってきた時から覚悟してきた結末が今なんだ。そう何度も何度も心の中で言い聞かせているのに、どうしても何かが納得できなくて、何かが嫌になってしまいそうでたまらない。けれどそれを相手に気づかせてはならないと必死にこらえていた。
「なあ、今言ったこと、本当にお前が思っていることか?」
「はい、そうです」
……そうか」
 それから暫くの間、互いに何も喋らずに時が流れる。二つの湯呑みからは湯気が消えてしまった頃に、社長が急に立ち上がって俺の隣の席に座り直したのだ。俺が突然の行動に驚いて固まってしまっていると、何かを決意したような真剣な表情の社長が静かに口を開いた。
「その、なんだ。大事な人ってさ、お前の事なんだよ。クルウ」
…………えっ」
 まさか、自分の名を呼ばれるなんて思わなかった。いやだって、俺ってあくまでも秘書であって、たまにご飯食べに行く程度の付き合いとか、ああでも買い物もちょくちょく行ったし、俺が以前やらかして倒れた時に看病してもらったりとか、そもそもあのクソ上司から助けてもらったりとか、色々、いろいろあったけど!
 だからって、こんな状況。きっと一番あり得ないことだってずっと思っていたのに!
「あの……っ、すい、ません。これ、本当……ですか?」
「ああ」
「えと。うそっ、なんで……っおれ、そんな、大事にされるほどの人じゃ、ないですよ?」
「お前はいつもそうやって言ってるけど、俺にとっては違うんだ。初めて出会った時からずっと想い続けて、何度も助けてもらってきた。随分と言うのが遅くなってしまったけれど、お前さえよければこれからはプライベートでもパートナーとして付き合ってくれたら、嬉しい」
「っう……そんな、いいん、ですか……! だって、これからのことを考えたら、もっと最善の選択があるはずで……っ!」
 とうとう抑えきれない感情によって、気がつけば俺は涙が止まらなくなっていた。お客さんは誰もいなくとも今頃キッチンの方で店員さんたちが見てるんじゃないかとかほんの少しだけ思いはしたが、もはや俺にとってはなりふり構っていられる状況じゃなかった。
「あのなあ、俺にとってはこれが最善なんだ。今までずっと傍にいてきた中で、お前が俺にとって不利益なことをしてきたか? そんなことはないだろう。社内でもお前が円滑に各部署と俺との連携をとってくれたおかげで助かったって奴が沢山いるんだ。お前はもうなくてはならない存在なんだ。だからこそ、これからもずっと傍にいてほしい。決してお前を見捨てないって約束しよう」
 自分がこの人に必要とされている、そのことを自覚した瞬間に俺はとうとう言葉が出なくなって、ただひたすらに止まらない涙を必死に手で拭おうとしていた。ここからはもう会話は出来なくなってしまって、とりあえず場所を移そうと社長がグズグズの俺を連れて会計を済ませて店を出ることになった。



 こんな状態ではまともに運転できないので、未だに泣き続けている俺は助手席に座らされていた。本当に情けない状況であるが、エンジンをかけず運転席に座っている彼はそれを咎めることもなく静かに見守ってくれていた。
「その、すまない……。まさかここまで泣かせてしまうことになるとは」
「ちがうんです、ちがうんですよ……! 俺がしっかりしてないから……っ」
 久しぶりに大泣きしたことで、ぐちゃぐちゃに絡まっていた思考が段々と整理されていくような感覚がする。まずは、目の前にいる彼にちゃんと返事をしなければならないだろう。
「あの、さっきのことについてなんですが」
「うん」
「俺、ずっと、ここにいていいのか分からなくて、でもムナカタさんに連れてきてもらったからにはちゃんとしなきゃって、とにかくお役に立ちたい一心でここまで勤めてきました。けれど、どこまで頑張ればいいのかが分からなくて、皆さんに迷惑かけていることが多かったのではないかと思っていたんです。でも、さっき、なくてはならないって言ってもらえて、本当に嬉しかったです」
「そうか……
「だから、さっき俺が言ったこと、少しだけ嘘をついてしまってすみませんでした。でも、貴方のために仕事だってプライベートだって支えていきたいのは本当のことです。これからもきちんとお役に立てるように精一杯頑張りますから、どうか傍にいさせてください」
 気がつけば涙は引っ込んでいた。彼は俺の言葉を聞いて嬉しそうに微笑んでくれて、俺もやっと気持ちが落ち着いた。
「ありがとう、ならまずはまた呼び方を変えようか。今度からプライベートでは名前で呼び合うこと、あと敬語もなし。いいな?」
「ううっ、敬語なし……
 そうは言われても、すっかりこれで慣れてしまったからすぐに変えられる気がしない。しかも名前で……ということはだ。
「じゃあ、ディルさん」
「さんも付けなくていいぞ」
「え、ええ……と。ディル、でいい、か?」
「そうそう、そんな感じで。もっと肩の力抜いて楽にしてくれ」
「おわっ」
 そう言いながらこちらに近づいて軽くハグをしてくる。またまた驚いて身体が固まってしまうが、彼は機嫌よく俺の頭や耳を優しく撫でてくれている。まだ慣れない感覚にくすぐったく思ってしまうが、それでも今までなかったものが得られたような気がして、人生で一番幸せな時だなとぼんやりと思っていた。

【終】