せっかく誕生日なんだからお祝いに自分にうちよその現パロを贈ろうの回(タイトル未定)

2年前くらいからある設定をようやく書き起こしてみた。いつものうちよそオスラッテをベースにしていますが、がっつりとした現パロのため捏造多数あります、ご注意ください。



 今日もまた、何も変わらない一日が過ぎていく。
 いつものようにデスクのパソコンの前でひたすらに仕事をし続けて、上司に何かを怒鳴られては目の前に仕事を積み重ねられていき、周りは誰も手伝うことはなく己のやることだけに没頭していく。いや、手を出したら次は自分がこうなるということを理解しているからだろう。それは俺自身も充分に分かっている。だからもう声を上げる気力も湧いてこない。
 高校を卒業する前から四人兄弟の末である俺には大学に行くための費用がないことを聞いていた。たとえ奨学金を使っても既に大学を卒業した兄と上の姉の分、そしてまだ大学に在学中の下の姉の学費で手一杯になっており、家の生活だって余裕があるわけではない。だから俺は高校を卒業してすぐに自宅近くにあった会社で働くことを決めた。幸い学内の成績はそれなりに良いほうだったので高校から職場にある程度推薦してもらえたし、最初の頃は慣れない事務仕事でも周りの先輩たちがサポートしてくれた。けれどほぼ同時期に他の支社から異動してきた俺の上司によって状況は一気に変わってしまった。毎日の通常業務に加えてとめどなく押し付けられる多くの仕事。昼休憩もほぼ削ってサービス残業をしてもなかなか終わることがなく、最初は周りもフォローしてくれていたが上司はそれが気に入らなかったらしい。周りには俺に関わるなと忠告し、何か気に喰わないことがあれば俺には関係がなくとも怒鳴り散らしていた。そんな状況を俺もよく思っていなかったが、ここでは一番下の存在である以上何をしても言ってもただ生意気な奴ととらえられるだけ。だから俺は何も反抗することなくひたすら仕事に集中していた。日々の激務をこなすにつれて業務も効率的にさばけるようになってきたし、何よりあれだけ俺に偉そうに喚いて仕事を押し付けて、自分は何もしないで給料だけ貰っている状態になっている上司のようになりたくはなかった。誰かに正当に評価されることもなかったが、それでもやれるだけやってきちんと貰った給料を家に入れることで家族に少しでも楽をさせてあげられることがささやかな幸せだった。そう思い続けて黙り続けて、気がつけば二年も時が過ぎていた。



 入社して三年目の春、俺の後に入った新入社員はほとんどが上司による躾とやらに耐え切れず数か月で辞めていってしまい、相変わらず俺が一番下の存在だった。そんな時に本社から優秀な社員が派遣されるとのことで、社内は少し雰囲気が変化していた。上司は社員を迎える準備をせわしなく進めており、俺にはフロアやデスクの掃除をしろだの備品に不備がないかチェックしろだのと命令をし続けていた。そうして淡々と準備をこなした後にようやくやってきた社員は、俺が想像していた以上に若い青髪のアウラ・ゼラの男性だった。
「ディル・ムナカタです。暫くの間お世話になります」
 そう言って丁寧にお辞儀をする彼の周りで上司は早速すり寄って媚びを売り始め、女性陣からはちらほらと黄色い声も聞こえてくる。俺はそれには興味がなかったので、彼の挨拶を兼ねた朝礼が終わるとすぐに自分の業務をこなすためにデスクに戻った。
 昼休憩にもなればすぐに彼は誰かによってあちこちに連れていかれて、最初の週末にはここから少し離れた駅前の繁華街の居酒屋で盛大に歓迎会が開かれたらしい。俺は元々酒が飲めるわけではないので参加するつもりもないし、上司から俺がいると気分が悪くなると言われていたので頭数にも入っていない。以前よりも騒がしくなった昼も、誰もいない静かな夜も俺は変わらずに仕事を続けていた。ムナカタさんのことは関わることがなかったので何も分からないまま、彼の周りにどんどんと人が増えていくのを遠くから眺めていた。
 彼が来てから二週間目の金曜日、俺はいつものように押し付けられた業務をこなすために残業をしていた。他の人たちは午後六時を過ぎたころには皆そろって退勤していた。誰もいないオフィスのほうが静かで集中できるのでありがたいと思いつつ、ひたすらモニターに文字を打ち込み続けていた。
 それから時刻は午後十時前になり、ようやく全ての仕事を終わらせることができた。これで土日に仕事を持ち込まなくて済むと安堵しつつ急いでデスクを片づけてから戸締りの確認や会社のセキュリティを起動させておいた。外に出れば誰もいないはずの会社の駐車場には見慣れない車が一台停まっているのが見えたが、誰のものかと気にすることなくそのまま帰路につこうとした。その時、車の運転席側の扉が急に開いて誰かが出てきた。
「お疲れ様」
「っえ、なに!?」
 自分に向かっていきなり声をかけられたことで驚いてしまい、思わず変な声が出てしまった。車から降りてきたのはこの間この支社にやってきたばかりのムナカタさんだった。
「ああすまん、驚かせてしまったか」
「いえっ、すみません、お疲れ様です……
 何故こんな時間にここにいるのだろうか。確か彼は上司たちと共に退勤していったからどこかで飲んできたりしたのだろうか。しかし車にいることや彼から酒の匂いがしないことからもそういったことはしていないだろうなと推測できる。
「君は確か……バスドーラだったか。この時間まで仕事をしてくれていたのか」
「えっと、あの」
 というか、俺から自己紹介すらしていないのに名前を覚えられている……。それにこの時間まで会社に居座って仕事していたら本社の人から見てみればあまり印象が良くないのか。こうして遅くに帰るのがすっかり習慣になってしまっていたのでそこまで思考が回らなかった。
「すいません、ご迷惑をおかけして。すぐに帰ります」
「ああ、別に怒ってるわけじゃないから。ちょっと話したいことがあるんだけどいいか?」
「え、いや、だって」
 俺と話すことなんて何があるんだ。そんなことよりなんでここにいるんだ。頼むから早く帰らせてほしい。俺があれこれと頭の中で疑問が浮かんできて軽くパニック状態になっている中、彼は変わらずに言葉を続けた。
「うーん、そうだな。言い方を変えようか。俺まだ夕飯を食べてないんだ、よかったら一緒にこれから食べに行かないか?」
……へっ?」
「国道のほうに深夜まで営業してるチェーン店がいくつかあるだろう? 俺が車出すからそこで何か食べよう」
「や、俺は別にその、ご飯とか大丈夫ですから……
「いいから、ほら、乗った乗った」
 そうしてあれよあれよという間に半ば強制的に車に乗せられてしまい、彼の運転で街のほうへと連れられてしまった。



 気まずい空気の車内では会話は全くされず、そのまま彼の運転でやってきたのはファミレスだった。この時間はほとんど人もおらず店内は静かにBGMが流れているだけだった。そもそも外食自体久しぶりで、何をどうすればいいのかと尻尾を丸くし縮こまりながら必死に考えていた。
「よし、好きな物注文していいからな。何がいい?」
……
 向かい合ってテーブルにつきメニュー表を眺めてもさっぱり頭に入ってこない。確かに腹は滅茶苦茶空いているし何かしら食べたいとは思っている。けれどこういった状況で何を食べればいいのか考えてもいい物が思いつかない。普段の日中は時短のためにと栄養ゼリーやエナジードリンクなどで済ませてしまっているから、しっかりとしたご飯もここ最近あまり食べていない。一体どうすればいいのかとすっかり気持ちが落ち込んできてしまっていた。
「もしかして、どこか具合でも悪いのか? 腹減ってないとか」
「いえ、そんなことはないです」
「なら何か注文したいものは……
……その、ムナカタさん。失礼を承知で申し上げますが。なにぶんこういった場に慣れていないので、どのようにしたらいいのか私には分からないのです」
 言いながら少しずつ声が震えてきているのが分かった。ただ仕事としてパソコンと向き合うことはすっかり得意になってしまっていたが、人と対面で接することをほとんどしてこなかったので未だに何も分からないままだった。誰かと食事に行くのがこんなにハードルの高いことだとは思っていなかった。正直、この場から逃げ出してしまいたいと思うほどまで緊張していた。
「そうか……、ならとりあえずは同じものでも頼むか。なに、別に今ここは堅苦しい場ってわけじゃないから。どうか楽にしてほしい」
「は、い」
「アレルギーとか食べれない物はあるか?」
「いえ、特にありません」
「んー……、じゃあこれにするか」
 やがて彼はあるセットを二つ分注文してくれた。それを待つ間、二人で水を飲みながらぽつぽつと話を始めた。
「バスドーラは確か今年で三年目だっけ」
「そうです」
「そうか、それで普段もあの時間まで仕事をしてるのか?」
「はい、業務時間内にどうしても終わらなくて……皆様にはご迷惑をおかけして申し訳ございません」
「いやいや。あの仕事量を一人でこなして、更には一日で終わらせることが出来るなんてすごいことだと思うが」
「しかし……
「本社でもあれだけしっかりと仕事ができる奴はなかなかいない。もっと自信を持ってもいいぞ」
「そう、ですか……。ありがとうございます」
 彼は何故か俺をとても褒めてくれた。今まで言われたことがない言葉の数々に戸惑いつつも、内心は少しだけ嬉しく思い始めていた。
 やがて注文していたものが運ばれてきた。彼が注文してくれたのは親子丼と味噌汁とお新香のセットだった。ふわふわの卵に閉じられた鶏肉とだしの香りがとても美味しそうに感じられた。
「さ、食べようか」
「はい、いただきます」
 彼は備え付けられている七味唐辛子をたっぷりと上にかけながら親子丼を食べ始めた。俺はそっと味噌汁から飲み始めたが、あまり温かいものを食べ慣れていない舌には少しだけ熱すぎた。けれど料理はどれも美味しくて、久しぶりに満足感のある食事を楽しむことが出来た。
 食事を済ませた後に俺は食事代を払うと申し出たが、自分が無理やり付き合わせたのだからと結局彼が払うことになってしまった。それから自宅近くまで車で送ってくれることになり、その道中で彼とまた少し話をした。
「俺としては、バスドーラには是非即戦力として本社に来てほしいと思っているんだけどな」
「そんな、そこまで私がお役に立てるとは思いませんが……
……バスドーラは自分のことをそう思ってるのか」
「はい」
「そうか……でも、まあ、そうだなあ。その内何かしらはあると思ってくれ、それまではまだどうか頑張ってほしい」
「はい……?」
 何かしらというのは一体なんだろうか、俺が意味を理解できず首を傾げている中で彼は黙って真夜中の道を真っすぐ運転し続けていた。



 あの食事から更に二週間が経って、ついにその時がやってきた。
 朝礼でムナカタさんが持ってきた紙束にはこの支社を一か月近く見てきた調査内容がまとめられており、最後のほうには人事異動についての書類がまとめられていた。結果から言えば、俺に仕事を押し付けまくっていた上司はパワハラやセクハラなど諸々の責任をとらされることになった。パワハラの詳細についても主に俺に押し付けていた仕事について証拠が残されており、セクハラも被害にあった元社員から訴訟を起こされることになったらしい。恐らくは今後社会的に抹殺され見放されることになるだろう。
 そして俺については、あの時彼が話した通り本社勤務になった。最初はこちらに残ることを申し出てみたものの、彼がなんと上層部へ俺を推薦したのだという。上層部も俺のこれまでの仕事ぶりを高く評価しているらしく、是非こちらへということになってしまった。こうなってしまった以上はもうどうしようもないと俺も諦め、すぐにここから離れた都市にある本社へと異動することになった。今まで実家暮らしだったので一人暮らしは初めてだったが、住むアパートやら諸々を会社側で用意してくれたり手続きについてもムナカタさんを始めとして本社の人たちが手伝ってくれたおかげでスムーズに新しい生活を始めることが出来た。



 ムナカタさんに連れられてやってきた本社では社員の皆さんはとても優しくて、俺のために高級そうなお洒落なお店を貸し切って歓迎会を開いてくれた。その時にエレゼン男性の社長からはムナカタさんから俺の仕事ぶりについて何度も熱く語られたということを聞いてすごく恥ずかしくなった。ちなみにその隣でムナカタさんも少し恥ずかしそうにしていた。
 本社勤務になってからはより一層頑張らなければならないと前よりも仕事に一生懸命に取り組んだ。最初は昼休憩の時間になっても以前と変わらず仕事を続けていたが、同じ部署の社員から休む時はちゃんと休めと言われて昼休憩のたびにあちこちにある飲食店に引っ張られたり、残業も出来る限りしないでほしいと言われて俺がこっそり残ろうとしたり仕事を持ち帰ろうとすると周りからこっぴどく怒られる日々が続いた。しかし仕事量も以前のように積み重ねられることはなく、分からないことがあれば周りからアドバイスをしっかり貰える。支社にいた時よりも遥かに働きやすい環境で仕事もはかどっていることから、俺はようやくここにいることが楽しいと思えるようになってきていた。
 そうして評価されていけば昇給もされて、家に仕送りをするだけでなく自分でもお金を貯めていけるようになっていた。こうした生活を送れるようになったのは俺を推薦してくれたムナカタさんのおかげ。彼とは本社勤務になってから一緒に仕事をする機会も増えていたが、時間が合えばたまに食事に行くこともあった。ある時は仕事の話をして、ある時はちょっとしたプライベートの話もしたり。そうした時間はいつも心が満たされていくように思えて、食事に誘われることが段々と密かな楽しみになりつつあった。彼は年々俺以上に仕事が増えて多忙になっていくのが気になっていたが、それでも手伝えることがあれば手を貸していたり少しでも恩を返せればと思っていた。



 そして、本社勤務になってから五年が経過したある朝。俺は突然社長室に呼び出された。
 社長の席に座っているのは以前のエレゼン男性ではなく、ムナカタさんだった。