無窓居室
2023-05-31 04:44:57
3925文字
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BJ二次創作詰め合わせ

10年以上前に書いていたらしいBJの二次創作BLが発掘されました。
カップリングはBJ×キリコ。
そもそも姉がハマっていて、『Antonius』は姉の友人に差し上げたものなのですが時効かなと思ってここに再掲します。
『Angel Of Death』は話の大半が欠損していたので、書き直して前半だけ載せました。


Antonius


男は意外にも、無防備に自分の内面を見せる性質だった。自覚が無いのだろう。

キリコが初めてそれを見たのは、二人が口付けを交わす間柄になって少しの頃だ。
口論に疲れて入ったバーの窓の外を、おそらくは親子連れが歩いていた。年端のいかない息子が石畳につまづく。気付いた母親が跪くと、泣きかけた子は堪えてまた歩きはじめる。
それだけのありふれた光景を、BJは微笑んで見ていた。
この男の笑いと言えば戯画的なものしか知らなかったキリコは目を疑った。表情以前の、陽に透ける茶色い瞳の在り方がもう違う。何の意味も意図も無い、見知らぬ者に対する愛着の発露。
男の幸福な子供時代が、短かったことを知らざるを得なかった。

偽悪者の顔のかなり典型的な例が、BJにはあるとキリコは思う。
笑った顔など大半はそうだ。類型的で過剰に生き生きとした、押し付けがましいその形は決して作り物ではない。
偽悪は既に男の真実の一部で、だからBJは悪どく笑っていたいのだ。
多くもない善意の出所を暴かれるより、唾を吐かれていた方が楽に生きていける種類の人間なのだ。
下らないと思うのに、その易い笑いはキリコを安堵させもした。安易でないBJの微笑はあまりに相がよくない。
男が失ってきたものを、神にさえ喩えられるその指が留めておけなかったものの多さを、嫌でも連想させられる。それでいて、見る者の目を背けさせる程に無私だ。
あんなものを毎日注がれて、無事で居る男の娘は、本当に見た目通りの少女なのだろうか。並の人間なら根腐れをおこすだろう。
治りきらない傷に浮く透明な体液に似ている、思う。
その味が涙にも愛液にも似ることをキリコは知っている。

「怖いか」
勝ち誇ったように言うBJの表情は、威圧的なのにどこか軽薄で、キリコは破かれたシャツに怒りながらもやはり少し気が緩んだ。
男は今日も生き易かっただろうか。
キリコはBJを怖れない。BJの内とキリコの内は、まるで関係の無いものだ。抱き合っても肌で隔てられる。体温で絆されることなど有り得ない。
ただ見たくない物だけがある。あの日、初めて知った男の顔はいまだに正視しにくい。
なのにそれが無自覚ゆえに、誰にでも露見していく事実を、ほんの僅かだけ惜しい気もしている。
「くくく」
馬鹿馬鹿しさに喉を鳴らすと、わざとらしく長い睫毛を寄せられ囁かれた。
「随分と余裕だなァ、まあいいさ、夜は長いんだ」
古い漫画の悪者のような台詞だと思った。
男との情事はいつも、治りきらない傷の味がした。

Antonius (END)