吾妻
2022-10-06 23:47:58
10884文字
Public GOD EATER
 

恋とは、斯くも

弊リーダーに遅れてきた思春期のはなし。いつものソマ主♀、GEB以降~RBぐらいの時期想定


4.

「あれ、リンドウさん?」
 少し遅めの昼休憩を取るべくラウンジを訪れた藤木コウタは、室内中央のカウンター席に見覚えのある人物を発見した。
 クレイドルの遊撃部隊員として日々世界各地を飛び回っているはずの雨宮リンドウは、後輩の呼びかけに気づき、火のついていないタバコを咥えたまま片手を挙げて応えた。
「いつ戻ったのさ? ……って、どうかした?」
 隣の椅子を引いて座ったところで、コウタは違和感を覚えた。
 常に飄々としている歴戦の猛者が、何やら難しい顔をしていたからだ。どれほどの苦境に立たされても余裕を覗かせていることが多い元第一部隊隊長にしては珍しい表情だった。
「いや、別に悪いことじゃあないんだが……
 そう言う割には、口の端にタバコを挟み、両腕を組んで、随分と深刻そうな面持ちだ。
 少し黙り込んだあと、物憂げに掌で顎を撫でてからリンドウは、
……ソーマのやつ、何かあったのか?」
 と、潜めた声で問うてきた。
「ソーマがどうかした? っていうかリンドウさん、先週締め切りの報告書がまだだってMLで吊るし上げられてたの、大丈夫だったんだ?」
「それだよそれ!」
「えー、どれだよ……
「先週末のソーマ博士、相当オカンムリだったろ。だから手土産にいくつかレアもののコア持って戻ってきたわけだ」
 妙に潔癖なところのある“ソーマ博士”にそんなわかりやすい賄賂が効くはずがないことなど、長い付き合いであるリンドウは重々承知のはずだ。特にソーマは、面と向かって口にしたりはしないものの、リンドウのことを超えるべき壁と認識している節があり、実力がありながらも怠け者然として振る舞う兄貴分にやたらと反抗的だ。
 言動から他者を拒絶する刺々しさが抜けた現在でもソーマの反抗期は続いているのだが、それはひとえにリンドウがいつまでも彼を出会った当時のようにからかうからに他ならない。
 リンドウなりのコミュニケーションなのだろうが、毎度毎度塩対応で返されるのも大変ではないのだろうか――などと、端から見ているコウタは思う。
「まぁ、ご機嫌取りが通用しないのは目に見えてるしな。素直に叱られてくるかって腹括ってラボに顔を出したんだが……
 先週末、憤りを露ほども隠す気のないメールをクレイドル全員に一斉送信し、大人気ない吊し上げを行った当の博士はというと、「かなり余裕を持たせた締め切りにしたはずだが?」というささやかな口撃を行っただけで、驚くほどあっさりとレポートを受理したのだという。
「いつもなら、もっとネチネチ嫌味を言ってくるはずなんだが……妙に機嫌がいいっつーか……
「あー……
 真剣に弟分の身を案じているらしいリンドウの隣で、コウタは含みのある相槌を打った。少々心当たりある。
 人間、機嫌がいいに越したことはない。特にこのご時世、死や絶望が至る所にゴロゴロ転がっているのだ。心安らかに日々を過ごせるだけでも一種の幸福と言えるだろう。
 だが、ソーマ・シックザールという男は、あまり自身の感情を表に出さないたちで、とりわけ喜びや楽しさを他人に見せたがらない。常にフラットなテンションかといえばそうでもなく、妙に短気なところもあるので、単にプラスの感情を表現するのが苦手なのだと思われる。
 そんな『照れ屋』が、ここしばらく妙に機嫌がいい。本人は努めて平静を装っているつもりだろうが、ある程度彼に親しい人間たちには筒抜けだ。先頃まであれほど腹を立てていたリンドウに対してすらこの有様なので、よほど嬉しいことがあったと見える。
「実は……
 コウタは、数日前までアナグラに滞在していた前第一部隊隊長の、遅れてきた思春期について説明することにした。
 話を聞いたリンドウが、調子に乗って弟分をからかいに出向いた結果、見事返り討ちに遭うのはまた別の話である。


【終わり】