【可惜夜廻】序

『「すみません、よくわかりません。」』現行未通過×
※夜廻パロ




酔いもそこそこに、就寝の準備をすることになる。飲酒からしばらくして風呂から出たソウゲツは、廊下で空を見上げるカンジを見つける。空はすっかり夕暮れの赤から夜の黒へと変わり、小さな星たちが姿を見せ始めている。それらを惜しむように見つめるカンジは、宴での騒がしさが嘘のように静かである。

その姿に、ソウゲツは既視感を覚える。自分は以前にも、静かに夜空を見上げる彼を見た気がする。しかし、具体的なことが思い出せない。胸に引っかかった異物に、ソウゲツは考えるより先にカンジの名を呼ぶ。


「カンジ」

「ああ、ソージ。風呂あがったん?」


儚さすら宿した表情から一転、カンジはパッと花が咲いたように笑う。人懐こくソウゲツに駆け寄り、返答を待っている。ソウゲツはその姿に、先程の光景は夢幻だったのではないかとすら思う。


いい湯だった。オマエはもう寝るのか」

「おん。あ、もしかして一緒に寝たいんか? カッカッカッ! ソージは寂しがり屋やなぁ!」


特徴的な笑い声をあげながら、カンジはソウゲツの背中を叩く。しかし、ソウゲツは反応を返さない。ただまっすぐカンジの瞳を見つめ、真剣に何かを告げようとしている。その気配を察したカンジは、笑うのをやめ緊張した面持ちで問いかける。


「どしたん、ソウゲツ」

「大事な話があるんだ、カンジ」


真正面から向かい合って、ソウゲツはカンジの左手を右手で握る。カンジは拒まないが、僅かに身体を跳ねさせる。恐れているような、心待ちにしているような、そんな表情でカンジはソウゲツの言葉を待つ。一呼吸置いてから、ソウゲツは自らの心の内を暴露する。




「────好きだ。ずっと前から、オマエのことを愛してる」




……え?」


間の抜けた声が、カンジの口から零れる。目を丸くし、意表を突かれたことを顔に浮かび上がらせる。

ソウゲツは故郷に帰った喜びより先に、カンジが無事なのかをずっと心配していた。自分と共に上京し、自分と違って夢を諦めた彼。諦めざるを得なかった諦めの悪い彼。きっと深く傷付いたと考えた時、他の人間にはおおよそ抱かない保護欲と独占欲が湧き出た。その瞬間に自覚したのだ。自分は彼を、特別に愛してるのだと。だから告げた。


「返事は今すぐしなくていい。でも、これだけは知っておいてほしかった」


ソウゲツは一切迷いのない表情で、言葉を続ける。今後の関係に支障がでようとも、この愛を圧し殺して生きられるほどソウゲツは愚かではない。だが突然過ぎる告白は、カンジにとって混乱の種になるだろう。だからソウゲツは、カンジが落ち着くまで自分は待てることも伝える。


……わかった。返事、考えとく」

「待ってる」


カンジは馬鹿騒ぎが好きだが、酷く聡明だ。人の気持ちを蔑ろにしたり、軽んじたりはしない。この告白もしっかりと受け止め、そして真摯に返答してくれるだろう。ソウゲツにとってそれが了承か拒絶かは分からないが。


「おやすみ、ソージ」

「ああ、おやすみカンジ。また明日」


そう互いに挨拶を交わし、廊下で分かれる。ソウゲツは抱えていたものを曝け出した達成感と、今更湧いて出た緊張で心臓を大きく鳴らす。明日以降が恐ろしく、また楽しみでもある矛盾。ああ、この夜が過ぎるのが惜しい。胸を抑えながら、ソウゲツは自分に割り振られた部屋へと急いだ。