【失笑の歌と蒼い月】二章/後編

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※Ibパロ




コンコンとドアを叩き、声をかけようとする。しかし言葉を発する前に、「開けてあるぞ」という男の声が投げられる。どこか威圧感をもった声、カンジはおずおずと扉を開ける。
ちらりと覗き込むようにすれば、そこは厨房である。清潔感はあるが、その色は紫がかった青色。とてもじゃないが食欲は湧きそうにない色彩に、僅かに吐き気を催す。


誰だ? 新入り……じゃ、なさそうだな。なら外の人間か」


厨房で何かを加熱調理している男が振り返り、怪訝そうにカンジを睨む。かちりと何かのスイッチを操作して、別の方向でまた別の食材を切り始める。包丁がまな板に触れる音が部屋に響く中で、男は言葉を投げてよこす。


「悪いがオレは忙しくてな。用があるなら、手早く頼む」

「えっ。あの、えっと、鍵を借りに来たんや。地下への扉の鍵」

「なるほど。ほら、これだ」


ぽいっと投げられたそれを、危うく落としそうになりながらカンジは受け取る。それは銀色の鍵で、新品だと確信できるほどには綺麗になもの。


「返却は不要だぞ。この階層外には持ち出せないようになってるからな」

「へ、へぇ?」

「そうだ。鍵は返さなくていいが、扉はしっかりと閉めてから降りるんだぞ。〈アレ〉は扉を開けられない、他の階層に行かないようにしないといけないからな」

……アレ?」


きょとんとするカンジに、男は再び怪訝な顔をする。しばし作業を止めて考え込み、もう一度カンジの顔を眺める。品定めするような視線に、カンジは居心地が悪くなる。


「随分と幸運な男だ。ま、開けた扉は閉めろという当たり前の話さ」


ひらりと手を振ってから、男は作業を再開する。これ以上ここにいても、得られるものはないだろう。カンジが「鍵、ありがとうございます」と告げてもやはり反応はなく、男は背を向け作業に没頭していた。