【失笑の歌と蒼い月】二章/後編

一ページ目必読
※Ibパロ



悩んだ末に、カンジはまず黄色い部屋の扉に近付く。すると、甘い香りが漂ってくる。花のようというよりは、砂糖に近い気がする香り。赤い部屋の男が言うには、ここにも〈作品〉がいるはず。ドアを叩けば、すぐに「開いてるよ」という言葉が男の声で告げられる。
ゆっくりと開ければ、室内だというのに咲き誇る多くの向日葵がそこにある。丸みを帯びた変わった部屋の中心に、少年とも青年とも呼べる金髪の男が座っている。上品なティーセットで、優雅にお茶会を開いていたらしい。


「おや、新入りかい? ……いや、お客様の方か。ボクに何か用?」


彼はそう言い、ティーカップの紅茶を口に含む。その一連の行動があまりにも洗礼されていたため、カンジはわずかに見惚れてしまう。しかしすぐに我に返って、ここへ来た目的を尋ねる。


「その、下の階に行く鍵を貸してほしんや」

ああ、なるほど。悪いけど、鍵を持ってるのはボクじゃないよ。今は青い部屋にいる男が持ってるんだ。間が悪かったね、十分ほど前まで彼はここにいたんだけど」

「えっそうなんや……

「まぁそう落ち込まないでくれ。彼はボクらとの時間を邪魔されるのを嫌うから、そういう意味で幸運だったよ」

「ほんま? なら良かった」


話を続けながら、カンジは部屋を見回す。中心のカフェセットをぐるりと囲む、無数の咲き誇る向日葵。太陽を見つめると言われる花は全て、一つの例外もなく中心の男を見つめている。それが異常であることは理解るのが、認めざるを得ないほどの美しさも秘めている。


「そうそう。もう一つだけ話すことがあるんだ。青い部屋には、決して長居しないようにね」

……?」

「じゃあ、そろそろボクも準備をしないと。キミも急いだほうがいいんじゃない?」


ここまで座りっぱなしだった男が立ち上がり、机の上を片付け始める。食器のぶつかる音を聴きながら、カンジも部屋を後にすることにする。


「ありがとうな」


最後に感謝の言葉を告げても、男は何も返さない。その対応に疑問を感じて、「感謝の言葉は言うたからな!」と台詞を残してカンジは部屋を去る。男はそれでも何も言わず、ただ向日葵に見つめられていた。