ライブも無事に成功した。むしろこれは大成功ではないか?
…ステージの特等席で見るファルカさん、格好よかった
…。観客もファルカさんの魅力に気付いたのか、途中でサイリウムをターコイズに変えてる人もいた。やっと気付いたのか、ファルカさんの魅力に。
ライブは無事に終わったけど、これから握手会か。
…握手会?
「これから握手会か
…。初めてやるな」
「
………っ!! な、なら、練習
…しません、か?」
「練習?」
「
…………どう、ぞ」
最推しの顔を、間近で直視できない。やばい、心臓がうるさい。
差し出した右手を、大きな手が包み込んでくれる。
顔を上げると、優しく微笑んだファルカさんが、いた。
「今日は来てくれてありがとうな。
…こんな感じか?」
「
…………」
「
…フリンズ?」
「
………ばっちり、です」
やばい、心臓を鷲掴みされてしまった。これ、堕ちない人いるのか?
ファルカさんは怪訝になりながらも、手を離してくれた。
…もっと堪能しとけばよかった。
握手会の準備ができて呼ばれる。
…僕も頑張らないとな。
にしても、この右手は、洗いたくないな。そこまで考えて気付く。握手会で、右手を差し出したくない。
結果、利き手ではない左手で握手会に挑み、ファンも首を傾げながらも左手で握手をしてくれた。
…ごめんなさい。僕も最推しの感触を、忘れたくないんです。
━━━━━━━
テレビ出演者もオファーを貰うようになり、Re:verse V/Fは確実に認知度を上げていった。
そして、ファルカさんの人気も、目に見えるくらい、上がっていった。ファンとして、誇らしくなる。夢が叶い、ユニットを組んでいる僕は、唯一無二の相棒ポジションだ。誰にも渡すつもりはない。
そんな忙しい日々を送る中、ネフェル所長に呼び出された。何故か、僕だけ。
応接室に入ると、雰囲気だけでわかる。機嫌が悪い。
…面倒だな。
「フリンズ、呼び出された理由、わかっているよね?」
「何の事でしょうか。アイドルとして、成果を出していますが」
「
…なら、その限界オタクの態度、なんとかしたらどうだい?」
「
…へ?」
ネフェル所長が雑誌を机に叩きつける。週刊誌の記事には、「Re:verse V/F不仲説浮上!」とあった。
急いで記事を読むと、僕のファルカさんに対する態度が、不仲と察知した記者が、好き勝手に書いたそうだ。
「いくら最推しと話してるからって、あの態度は勘違いされても仕方がないさ」
「
……ちょっと、待ってください。なんで、それ、を
…?」
「あんたがファルカを指名したのが気になってね、ご両親に話を聞いたのさ」
…あれほど内緒にしててくれって、頼んだのに!! 両親に対して殺意が沸いてくる。気付いたら雑誌は握りつぶしていた。
「まさか、人気俳優が、推しのためにアイドルのユニットに指名するなんて、ファルカが知ったらどうするんだろうねぇ」
「
…何が、言いたいんですか」
「普通に仲良くなりな。こんな記事がデマだと言われるくらいに。それに、ファルカからも嫌われているかもと勘違いされているよ」
「
…それを先に言ってください!!」
慌てて応接室から出ていく。ネフェル所長のわざととらしいため息が聞こえた。
━━━━━━
「なあ、ジン。俺はフリンズに嫌われていると思うか?」
週刊誌を眺めながら、マネージャーのジンに話しかけると、ジンも考え込んでいた。
「確かに、フリンズさんはファルカさんに緊張されていますね」
「
…俺、なんか気に障る事したか?」
「少なくとも、私には心当たりはないです」
「
…だよなあ」
フリンズのマネージャーであるイルーガと話している時とか、全然違う態度だった。初めて見た時は驚いたものだ。
まあ、記者が勘違いされても可笑しくはない状況だ。
…仲良くしたいのは山々だが、どうすれば
…。
「こういう時は酒の力を借りるか」
「
…程々にしてくださいね。個室を予約しますか?」
「いや、宅飲みにしよう。その方が腹割って話せる気がする。イルーガと予定調整してくれるか?」
「わかりました」
「それと、フリンズが好きな酒とかつまみとか、あとは捕まえやすい方法も聞いといてくれ」
「ええ」
フリンズは確か酒は好きだった
…はずだ。これで、仲が深められるといいんだが。
━━━━━━━
どうしよう。ファルカさんとお話ができない
…!
何もできないまま、日付だけ過ぎて行く。
「フリンズさん、今日の仕事は完了です。明日はお休みなので、ごゆっくりしてください」
「ありがとうございます」
「あっ、ただ、少しだけ連絡事項があります。少々お待ちいただけますか?」
「ええ、もちろん」
イルーガが視界から消えて、ファルカさんとどう接すればいいのか、内心、頭を抱える。嫌われたくない。でも、推しとどう話せばいいのか、わからないのだ。どうしても緊張してしまう。
「フリンズさん、お待たせしました」
「いや、そこまで、
……ま
…って
……」
「よ、フリンズ!」
イルーガが、ファルカさんを連れてきていた。
「
…………」
「フ、フリンズさん?」
「おーい、フリンズ?」
「
………………はっ!!」
不意打ちの推しに、心臓が止まりかけると思った
…!! イルーガ、僕を殺す気か!!
「えっ、あのっ、なにが
……?」
「なにって、親交を深めるために飲みに誘いに来たんだ」
「
…………うぐっ!!」
なんだそのウインクは! 破壊力がえぐい!! 死ぬ!!
ていうか、飲み?! 飲み会?!
「あの、ほかに、だれ、が
…?」
「俺とフリンズの二人だけだぞ。俺ん家で飲もう」
推しと二人きり!! 推しの家に行ってもいいだと?! 待ってくれ、本当に死んでしまう!!
「
………やっぱり、嫌か?」
「行きます!!」
「
…お、おう」
推しに嫌われるかもしれないより、推しに殺されたいのは本望だ。イルーガは、初めて見る僕の姿に、若干引いていた。
━━━━━━━
やばい、今日が命日かもしれない。
「ここが俺ん家な。デュエット組んだし、暇な時は遊びに来てもいいぞ」
「
………えっ!!」
推しの家! 推しから遊びに来てもいい許可を貰った!!
ガチャリ、と扉が開かれると、推しの、ファルカさんの匂い、が
…っ!!
「どうぞー。部屋が片付いてないのは目を瞑っててくれ」
「
…お、おお、おじゃま、します」
推しが、普段住んでいる部屋。どうやったら壁になれるのだろうか。やばい、気を抜いたら心肺停止しそう。推しの部屋で死ぬわけにはいかない。
「持ってくるから適当に座っててくれ~」
て、適当に座っててくれ?! ソファーとか、椅子もあるが、推しの座ってる場所に座るなんて、そんな、そんな
…!!
「
…なんで床に座ってるんだ?」
「
……床に、なりたいから、です」
「何言ってるんだ? ほら、ここ座れよ」
推しに引かれた椅子に、座らないなんて、選択肢はない。どうしよう、もう一生、他の椅子に座りたくない。
コトン、と目の前に置かれた酒やつまみが、僕の好きなものばかりだった。
「イルーガに好きな酒とつまみ、聞いといたんだ。明日はお互いに休みだし、パーっと飲もうぜ! 寝床はあるから潰れてもいいぞ」
ウインクしながら心臓が止まりそうな事を言わないで欲しい。本当に死ぬかと思った。
━━━━━━━
おそらく僕は、前世で善行を積みまくった菩薩のような人間だったかもしれない。
「すごいなぁ、フリンズ
…。おれもさけにつよいけど、フリンズは、もっとつよいなぁ
…」
お酒に酔っ払った推しを間近で見れて、しかも僕以外は知らないんだ!! 網膜に焼き付けるしかない!!
でろでろに酔っ払ったファルカさん、可愛すぎないか? 相手が僕でよかった。ガチ恋勢ならお持ち帰りされているところだった。
そう思いながらウォッカを一気飲みする。うん、推しの酔っ払った姿をツマミに飲むお酒は美味しい。
「
…フリンズは、おれのこと、きらい、なのか?」
「違います!!」
一気に酔いが醒めた! やっぱり勘違いされてた!
…でも、どうやって、誤解を解いたらいいんだ
…。養成所時代から推してて、この道に進みました、なんて、正直に言って、引かれたらどうしよう
…。
「
…ほんとうに、きらいじゃ、ない、のか?」
「尊敬しすぎてるだけです!!」
反射的に返事をしてしまったが、セーフだ! 尊敬しすぎてるだけも嘘ではない!
僕の言葉を聞いて、ファルカさんはぽかーんとした表情を浮かべていた。
「
…なんだよそれ」
にへら、と笑う姿が可愛すぎて心臓を抑えてしまった。推しを不安にさせてしまってたの、切腹案件かもしれない
…。今なら笑顔で切腹しそう。
「そうかぁ
…。“はいゆう”として、そんけい、されてたんだなぁ
…」
「
………」
違います。養成所時代から、貴方を尊敬していました。夢に向かって突き進む姿が、好きなんです。
俳優としての貴方も尊敬しています。でも、アイドルとしての貴方が、一番輝いているんです。
その輝きを、隣で、特等席で、見つめていたいんです。
「なら、きいてくれる、か? おれはな、ようせいじょに、いたんだ。アイドルに、なりたくて
…」
「
……ええ」
「はいゆうになって、アイドルのゆめ、なくなったと、おもってたんだ。おっさんなアイドルって、たたかれそうだし
…」
「そんなことないですよ」
「でもな、ライブで、あこがれのアイドルに、なれたって、わかったんだ。すごく、うれしくて
…」
「僕も、嬉しかったです」
昔のように、光輝く貴方を、隣で、特等席で、見れたのだ。すごく、嬉しかった。
「フリンズも、ゆめが、かなったんだなぁ
…」
「
…ファルカさんのお陰ですよ」
「
……ならさ、ゆめを、かたっても、いいか?」
「もちろん。聞かせて下さい」
「
………ぶどうかん、いってみたい」
武道館。アイドルの夢のステージ。誰もが憧れるライブ会場。
…僕も、見たい。ファルカさんが、武道館でライブしている姿を。
「行けますよ。ファルカさんなら、絶対に」
「おれひとりなんて、さみしいこと、いうなよ。フリンズも、いっしょに、いこうぜ」
「
…いいんですか?」
「
……だって、
…おま、え
…は、
……あい、
…ぼ
………」
「
………ファルカさん?」
「
…………ぐがー
……」
…寝てる。イビキをかくファルカさんも、可愛らしい。揺さぶっても起きない。
…推しを、運ぶ
…のか?
チャレンジしてみたけど、現実的に無理だった。重すぎる。
諦めて、僕のコートをかける。
…ファルカさんはコートを着てなかったし、ブランケットなりコートなりを探しに行くのは、不味い。どんな不審者になるかわからない。
ファルカさんの寝顔を観察する。
…やっぱり、格好良いな。
「
…一緒に、武道館に行きましょうね」
特等席で、光輝く貴方を見せて下さい。
━━━━━━━━━
「
………んっ、んんっ?」
身体が痛い
…。久々に寝落ちしたか。
伸びをすると、肩から何かが落ちる。拾うと、見慣れないコートだった。
…これ、フリンズのコートじゃね?
フリンズは、何処に
…?
「床?! なんで床で寝てるんだよ!」
近くにソファーもあるのに、フリンズは床で寝てた。思わず大声を出してしまう。
「
………おはようございます」
「なんか、隈、酷いぞ。せめてソファーで寝ればよかったのに
…」
「いえ、家主に無許可でソファーを借りる訳には
…。すみません、床は無許可で借りました」
「ぷぷっ、なんだよそれ」
フリンズの真面目な返答に、可笑しくなる。今まで緊張してたのかわからなかったけど、面白い奴なのかもしれない。
「よし、朝飯作るから、食べたら二度寝するぞ!」
「
…い、いいんですか?!」
「男料理でよければ、な」
そんなに目を輝かせるなんて思ってなかった。というか、今日はそこまで緊張してなさそうだな。
「なんか、今日は緊張してないみたいだな」
「
…その、今まですみませんでした」
「いいんだよ。これから仲良くしようぜ」
「ええ、よろしくお願いいたします」
にこり、と微笑む姿に緊張は見られない。急な変貌にこちらが驚いてしまう。
「なんというか、切り替え、早いんだな」
「そんなことないですよ」
「どういう心境の変化だ?」
「
…だって、こんな事で躓いていたら、武道館なんて、行けませんから」
告げられた言葉に、手が止まる。フリンズの顔を見ると、力強い意志が宿った目をしていた。
「行きましょう、二人で」
「
………ああ」
笑う所か、手を引っ張っている姿に、胸が熱くなる。
「
…俺とユニットを組んでくれて、ありがとな」
「
………ぐっ」
「
…フリンズ?」
「いえ、何でもないです。お礼を言うのは僕の方ですから」
二人で食べる朝食は、とても美味しかった。
━━━━━━━━━━
今日は新曲のレコーディングだ。2ndSingleのタイトルは『Cheers to Us』となった。
歌詞は、どんなにカッコ悪くても、夢を諦めない。自分らしくいよう、そんな内容だ。
自分らしく、か。いつまでも限界オタクじゃ、夢を叶えられない。頑張って、カッコ悪くてもいい。それでも、ファルカさんの前で、自分らしくいよう。そんな気持ちを込める。
歌いながら、ファルカさんが僕を見ていた。にやりと笑っている。僕が歌に込めた気持ちに、気づいたのだろう。
僕もにやりと笑う。見つめながら笑い合う姿は、不仲に見えるはずもない。
バラエティ番組でも、ファルカさんと軽口を言い合える仲になってきた。あの週刊誌を信じるものはいなくなっていた。
Re:verse V/F 3rd | Privatter+
https://privatter.me/page/6a5d7cfaa8c95
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