ボツネタ

シナリオネタバレなし

デ/ビサ/バ2オマージュの自探索者SS
文字リハビリに書いてたやつ




「『死に顔動画』ァ?」


 怪訝な色を隠しもせず、オレはその単語を復唱する。ここが公共の場なら誰かに咎められそうだが、生憎ここはカラオケの個室だった。酷く不愉快だと表情に浮かべていれば、同室でスマホを弄る男……中学教師であるスサミバラは笑う。


「そそ。なんか生徒の間で流行ってるらしくてさ。聞いたことない?」

「全くない。なんだその不謹慎過ぎるワードは」

「もー! ベリーが世間に疎いのは分かるけど、最近のトレンドくらいは追っておかないと!」

「死に顔が最近のトレンドとか知りたくなかった」


 ゲンナリと気分を落としたオレ……警察であるラズベラは、炭酸水を一口だけ飲んだ。続けて喉を鳴らそうとしたが、スサミバラが目の前にスマホを差し出したことで中断される。画面に表示されていたのは、小洒落た雰囲気の起動画面。次に記されたのは『Nicaeaニカイア』という文字。


「これがその、死に顔が届くアプリか?」

「登録してみない?」

「断る」

「そんな事言わずにさ〜! ほら! リンク送っておくから!」

「一人でやれ」

「それはなんか怖いじゃん! オレたち友達でしょ?」


 ニコリと笑ったスサミバラに、オレはまた息を吐く。

 彼いわく。近頃若者の間で『友達の死に顔動画』とやらが届くブラックジョークのアプリが流行しているらしい。スサミバラ自身もその内容を直に見たわけではないが、それなりに高いクオリティを有していたそうだ。動画の届いた友達が実際に死んだ、なんて信憑性の薄い嫌な噂もあるとか。


「カラオケなんて誘うから何かと思えば……

「いやいや! 別にこれだけが目的だったわけじゃないよ!」


 これも目的だったんだな。なんて考えながら、一応は送られたリンクを開いてアプリの概要を眺める。説明はシンプルに、しかし異常な一文だ。『友達の死に顔動画が届くよ!』という、あまりにも闇の深い台詞。告げているキャラクターがバニー風の女性であることも、異質さを際立たせている。


「(友達、か)」


 正直オレは、友達が多い自覚はなかった。今ここにいるスサミバラだって、他人に紹介するときはハッキリ知人だと言っている。明確にそれ以上の友人と呼べるのは、おそらく英雄志望を自称する程度のものだ。


…………ハァ。登録するだけだぞ」

「やったぁ! じゃあほら、一緒にやろ!」


 パッと顔を明るくしたスサミバラは、さっそく情報をアプリに入力している。呆れながらだが、オレもアプリから要求される空欄を埋めていった。

 ユーザー名、生年月日、性別、そして案内役キャラクターの選択。デフォルトはアプリ紹介にいたバニー女のようだが、執事風の男にもできるようだ。オレは迷いなく男を選び、登録完了をタップする。そうして『ようこそ、Nicaeaへ』と表示された画面を見て、ふと思う。


「これ、友達とやらはどうやって判別するんだ」

「え? あー……確かに。フレンド設定とかも無さそうだし」

「おい。本当に大丈夫なんだろうな、このアプリ」


 規約などを確認するが、特に問題になるような文は書かれていないようだ。ここを偽装しているのなら明確な犯罪だし、それでなくとも友の死に顔が届くアプリなどいつ規制されてもおかしくない。だがスサミバラはそれほど深刻に受け止めていないらしく、ひらひらと手を振って笑った。


「大丈夫だって! 問題あったらベリーたち警察が仕事できるし!」

「仕事は少ないほうが助かるんだが」

「それはどの職だってそうでしょ?」


 にんまりと口元を歪めたスサミバラに、オレは少しの頭痛を感じている。楽観的、あるいは刹那的な彼は自分の性質とそれなりに相性が悪かった。しかしそれに助けられる部分もあるのは、長い付き合いの仲で痛感していること。スサミバラの趣味に付き合わされる予感から逃避するため、オレは炭酸水を喉に流し込んだのだった。