kachosub29
2026-07-08 16:49:17
2690文字
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平成の利こま♀

学パロだあ…


 たたったたっ……
 独特のリズムで廊下を走る音が除々に近づいてくる。相変わらずわかりやすい足音だ。ガラッとドアが開いて、こちらを見ると嬉しそうに駆け寄ってきた。
「利吉さぁ~ん! おまたせしましたぁ!」
「こら、小松田くん。図書室では騒がない」
「えへへ、ごめんなさぁい」
 ぺこっと小さく頭を下げると、ふわふわしたポニーテールが揺れる。オレンジ色の髪留めは、つい先日利吉が贈ったものだ。利吉にはいまいち何故これが流行っているのか分からないのだが、小松田には似合っているから良しとしよう。
「今日は日直だっけ?」
「ふ~涼しい……そうなんです! でもプリントのコピー間違えて、やり直しになっちゃって……
 そう言いながら、小松田は鞄からノートを取り出した。表紙には彼女が好きらしい海外キャラクターのイラストが、マジックかなにかで描かれている。ひらがなで「すうがく」と手書きで書かれてはいるが、正直利吉には自由帳にしか見えない。開いたところで中身も落書きだらけなのだから、これを授業ノートと扱っていいのやら。
「それで? 今日はどこまで進んだの」
「えっとぉ……ここの方程式? がわからなくってぇ……
 学校内では図書室と自習室にしかクーラーがないのだが、ここは飲食禁止だからかあまり人気がない。今日も小松田が来るまで、利用者は利吉一人だった。だから遠慮なく、二人で勉強会をさせてもらっている。
 教科書を広げ、一つ一つ小松田の疑問に答えていく。カリカリと真面目にノートへ計算式を書き込む彼女は真剣だった。ゆっくりではあるが、利吉の言った通りに問題を解き、全ての問題を解き終えた。
「どうでしょうか……?」
「うん……全問正解」
「やったぁ!」
 利吉にノートを見せた小松田は、嬉しそうに笑った。飲み込みは確かに遅いが、出来ないわけではない。以前赤点を取ってしまったと泣きべそをかいていた小松田だが、最近は利吉さんのおかげで平均点取れるようになったんですよと感謝された。悪い気はしない。
「他に分からないとこはある?」
「大丈夫ですよ~! 今日はなんと、授業で当てられたとこをちゃんと答えられたんです! ほら利吉さんから教えてもらった通り計算して……っ」
「?」
 パラパラとノートをめくっていた小松田の手が止まる。すぐにノートを閉じようとしたが、その手を利吉が止めた。小松田にしては珍しく恥じらった様子だから、からかってやろうと思ったことは否定できない。
 相変わらず落書きが多く、カラフルなペンで彩られたノートだが、上の余白部分。ピンク色のキラキラ光るペンで「♡山田秀子♡」と書かれていた。
「「……」」
 二人揃って沈黙する。小松田の顔は耳の方まで赤い。きっと自分も赤いだろう。
 自分のものじゃないみたいに、鼓動がうるさい。先程まで聞こえていたセミの声や、部活動中の生徒の声も、今はどこか遠くに聞こえた。
「えっと……その、こうなったらいいなって……あの! 恥ずかしいので忘れてください~!」
……小松田くん」
「ほへ?」
「忘れられるわけないだろ……
 そう言って利吉は小松田の唇にキスを落とした。