大学芋
2026-07-05 18:01:43
3595文字
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雪泥鴻爪

原藤ワンドロ お題 傘
2026.7/05

大学芋は恋愛は分からぬ 特に友人以上恋人未満の関係とかはどう表記すればいいかわからぬ
くっ付いてるくっついてないは読んでいる読者にお任せする。

空の境界オマージュでPrologueあたりの所。
曲のイメージは 植松伸夫 『雪に閉ざされて』
        ヒトリエ 『(W)HERE』
        Kalafina 『snow falling』

冷蔵庫にモノを入れてる話
https://privatter.me/page/6a1b20fe43a15

傷跡の話
https://privatter.me/page/6a2ec81f461b3


魔法の話
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誘う話
https://privatter.me/page/6a65efb90ae12

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 雪がゆっくり、ゆっくり降りていく
 江戸の町は灯りはついていれど、小さな蛍みたいに儚いように灯がある。
 けれど人の営みはなく、ただ家とろうそくが灯されているだけの町並みを山の上でずっと見つめている。

 昔は、人々がいるあの町が、あの音がすきだった。
 人の歩く音、屋台で呼びかける人の声、そこから漏れ出てくる香ばしい食事の香りや甘い匂い、荷車が通る土を踏む音。
 治安はある意味最悪ではあったが、和やかな時の江戸は、水が流れる川のように、それが続いて海へいき、また雨となって土地に染み込むように、全てが循環するかの如く巡っている姿が好きだった。
 淀みは確実にあれど、それでも休んでいるひと時に、安念に浸れるのが好きだったのだ。

 でも今は、それすら煩わしく感じる。
 何もかも穢れてて、何もかもが澱んでいて、何もかも壊れやすい。
 同時にそれが自分自身にあるのも許せないからどうしようもない。

 そういう時ほど、シュミュレーションルームを利用して誰もいない雪が降り続ける江戸の冬の夜を高い場所からずっと見続けている。
 
 雪が静かに降り積もり、音もなく、まるで停止したようなこのひと時が、たまらなく心地よい。

 そのままずっと静かに降り続けて、何もわからないまま、全て凍てつくして、ゆっくり目覚めなければいいのに
 そんなもしもを、ずっと空想している。
 
 意味のない事と馬鹿にされるだろうと分かりながら、それでも何度もここへ来て空想しまうのは、きっと自分自身が復讐者というクラスだからのと、自分自身が何もかもが空っぽだからこそ、その先への具体的な何かに辿り着きたいという欲そのものがない為だろう。
 そうでなければ惹かれてここまでくることすらない。セイバーの霊基でさえこんな長く佇むことすらしない。

 それほどまでに、惹かれてしまうのだ。
 たとえ一歩先が、崖だとしても

 それでも終わりは唐突に
 後ろから軋む音と共に安息は崩壊する。

 振り向けば、現代の電気でつく灯りを手首にぶら下げて、何時もは腰に結んでいる上着を着こみ、大きな暗い紅色の傘を片手に差して、灯から覗くように見える赤毛の人間がそこにたっていた。

「貴方が来るたび毎回おもうんですけど暇なんですか?」
「うんなわけねぇだろ、いや、暇って言えば暇か」
「本当に物好きですね、屋根の雪が落ちて埋もれればいいのに」
「あぁそれは二回あったな、寒さで死ぬかと思った」
「冬の琵琶湖で潜っても生き残ってそうですもんね」
「勘弁してくれ、風邪ひいて寝込むわうんなもん」
 
 原田が自分に積もった雪を片手で払いのけたあとに、傘を持たせられ、物が落ちたら返却するのに苦労するからと、町の座れる場所まで歩いていく、毎回ここへ来るたびに原田さんや山南先生や近藤さんや永倉さんが迎えにくる。たまにマスターや坂本さんや以蔵さんが来るがそれは本当に稀だった。大抵はシュミュレーションルームを終えて、食事の誘いや、模擬戦闘の誘いで終わるが、原田さんだけは毎回江戸の町へ降りて休憩してから、部屋に戻され風呂に入り、永倉さんと三人で出かける事が増えている。

 だいぶ前に風呂に入らないまま永倉さんの元へ行ったら、顔色が悪いと怒られ、脈を測られた時にあまりの冷たさに大浴場に入れられそうになったのを全力で止めてからというもの、また騒がれる前に入るようにしている。
 
 サーヴァントに風呂や体を温める事は必須なのかと言われたら、娯楽を満喫する事や、リラックスするという意味では必要だろうが、自分自身でそれで気持ちが落ち着くならばいいが、そうではないからこうしてシュミュレーションルームを利用しているのに、最終的に風呂に入るという手間が無駄に思えてしょうがない。
 それを言っても意味がないから大人しく入るのだけども


 江戸の町へたどり着き、商店の縁台の雪を払いのけて座る。何処からともなく原田さんは手荷物から魔法瓶の水筒を取り出し、蓋のコップに飲み物を注いで、二口飲んでから渡してきた。片手で手に取る。中身は生姜湯で一口飲めばレモンの酸味と甘味料の甘さとショウガの独特の味が広がる。毎回渡す飲み物が変わるなと思いつつ二口飲んで残りは渡した。

「そんなに不味いかねぇ、今回は結構うめぇとおもうんだけど」
「マスターや子供のサーヴァントには好評じゃないんですか、ショウガ嫌いの人がいれば難しいとおもいますけどね」
「要するに普通ってこったろ、次持ってくのなんにすっかなぁ」
「楽しんでません?」
「楽しんでる楽しんでる」

 白い息が吐いては消える。
 毎回、何かを持って来ては食べさせてくる。この行為を人は餌付けと評するだろうが、彼の場合は餌付け事体が目的ではない。
 自分とは違い彼はとことん人間好きだ。永倉さんもその部類ではあるが、好きの種類が全くもって違う。
 永倉さんは大雑把な人間好きだが、原田さんの人間好きは人間の本性で、それが我欲であればあるほどいい。
 だからこそ生前の近藤さんに対してあまり近寄らなかった。
 あの人はただただそれが人々にとって善いとされてるから善い行いをする人でもあったから、そういう行為をする人間が苦手であったのだろう、今の近藤さんとは段違いである。

 だからこそ、何故自分にかまうのかの過程が分からない。
 きっと、面白い以上の何かがあるからきてるのだろうが、中身の空っぽな自分に何の感情を見出してるんだろうと疑問に思う。
 信頼もしてない信用もしてない、そう伝えてもひょっこりと出て、物資補給と言いながら、冷蔵庫の中身を入れてくるわ、こうして迎えにきて餌付けしてくる。小食になったからいらないと言ってもお構いなしである。
 心配性でやってるのかと思えば、冷蔵庫の買ったものは自分自身で食べて処分し始めるし、突っぱねてもまた来るのだ、心配性だけじゃ説明つかないものがありすぎるのだ。

 赤い傘をくるくるゆっくりと回す。
 この江戸にいま二人しかいないから誰も咎める人間など一人もいない。
 それでもこうしていると落ち着いてる自分がいて不思議に思う
 
 人理修復が終わったらここから消える僕ら
 マスターと違う異なる世界から来た僕らは用が終われば消える存在だ。
 それまでの居続けてる事を許されてるだけなのに、こうして僕も原田さんも無駄だと言われてる事を許容している。

 この人も永倉さんも僕を必要だと引っ張るけれど、未だになぜ必要なのか僕には理解しがたい。
 僕とは違って二人共、何処までも飛んでいき何処までも走り続けれるのに
 不思議 なにもかも だから嫌い、だからこないでほしい
 そう言ってもきっと来るのがわかるから言ってないしいわない そう結論づけてくるくるくるくる傘を回す

 気づいたらにんまりと笑う原田さんがみえ、ぴたっと止めた。

「子供っぽいっていいたいならいえばいいじゃないですか」
「お前って何か思考してると同じ事やり続けるよなぁって」
「そういう所!!! そういう所が悪趣味なんですよ!!!」

 立ち上がって傘を閉じる、これ以上ここにいては永倉さんも心配するだろうとシュミュレーションルームのシステムを閉じると途端に今あるすべてが真っ白で、傘ひとつ無い一つの部屋に変わった。

「もうしばらくゆっくりすりゃいいのに」
「充分休みました。それに出かける準備もしなきゃいけないし、原田さんもそうでしょ」
「んなこと言われてもなぁ、持って行くもの財布ぐらいしかねーだろ」
「あなた達はせめて酔い止めと、水分補給を持って来てくださいませんかねいい加減に」

 永倉さんと出かけるときは大抵、最後に居酒屋などに行って飲み続ける。大抵片方が飲み潰れて二人で運ぶのが一連の流れだ、三人になった場合は片方ずつ僕が運ぶことになるからめんどくさいったらありゃしない、毎回酒を飲み前に柿を渡して食べさせているが、サーヴァントの体で効いてるかどうか甚だ疑問である。

「まぁなんとかなるだろ」
「楽天的」

 そう言いながらシュミュレーションルームを出て、部屋へと向かう。

「次また何か持ってくから感想聞かせてくれ」
「もう少しまともな物を持ってきたら考えます」

 明日がある事が当たり前のように云う貴方を羨ましく思いながら、僕はあの雪の景色を焼きつけながら部屋へと歩いていくのだった。