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とむぢ
2026-06-08 21:23:11
24643文字
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やがて君を照らす光となれ/G▲▽
旅行先の列車で事件に巻き込まれてモブとバトルすることになるG▲▽の話
【注意】
・少女(ダイパ主人公♀/ヒカリちゃん)が出てきます。※一人称や口調と性格はpkmsを参考。
・翡翠地方に飛ばされた▲について都合の良い解釈が練り込まれてます。
・ポケモンから攻撃を受けるG▲がいます。
・好き合ってる▲▽
もうなんでもありです。
1
2
3
最後尾の車両まで男を追い詰めたノボリは、疎らに座っていた乗客たちをクダリたちがいる前方の車両へ避難させた。ライブキャスターをちらりと見る。この列車がミアレ駅に到着するまであと十数分といったところだろうか。最後尾に辿り着くまでの間に何度か通路でポケモンバトルを繰り広げた。男の手持ちであったオンバーンとアリアドスは、ノボリのシャンデラによって呆気なく戦闘不能になった。二体とも好戦的でバトルの素質も十分あったのに、肝心なトレーナーである男の指示に的外れなものが多く、ポケモンと男の間に信頼関係が築けていないことが一番の敗因だとノボリは考えた。非常に勿体ない。戦い方からポケモンとトレーナーの間にある関係性を見抜くのは、サブウェイマスターとしての癖みたいなものだ。
二人以外に誰もいなくなった最後尾の車両で、男は切り札を繰り出した。頭頂部からウネウネとした触手を生やす、カラマネロだ。しかし注目すべきはその大きさだった。触手を含めなくとも高さが2m近くある巨体を前にして、ノボリは驚いた。どう見ても普通のカラマネロよりも大きい。その普通のカラマネロを野生で見かけることのない地方に住んでいるので、具体的にどれぐらいサイズが違うのかはノボリには説明が出来ない。それでも明らかに目の前のカラマネロが“普通”ではなく、更に殺気立っていることは空気で伝わってきた。同じ空間に立っているだけで肌がピリピリと痺れるような凄みには、身に覚えがある。命の危険すら感じるこの緊張感を、知っている。
(
……
? なぜ、身に覚えが
……
?)
おかしい。生まれてこの方、野生のポケモンに襲われたことなど一度もないはずなのに。
頭の中は疑問符で埋め尽くされているのに、身体だけが答えを知っていて先に反応しているような、不快極まりない感覚にノボリの思考が止まる。次の瞬間には耳鳴りと重苦しい頭痛が起こった。なんだ、これは。体の不調に気を取られたノボリが、一緒にいたシャンデラに攻撃を指示しなかったので、男は好機とばかりにカラマネロへ指示を出した。
「カラマネロ! さいみんじゅつ!」
トレーナーであるノボリごと“さいみんじゅつ”の攻撃対象にし、それを防御する暇もなくまともに食らったノボリは、抗えぬ強烈な眠気に意識が飛かける。そばにいたシャンデラの炎の勢いも弱まる。これまでどんなに列車が揺れていてもフラつくことのなかったノボリが、初めて大きく体勢を崩した。その決定的な瞬間を見計らって、男がカラマネロに非道な指示を出す。赤い目をしたカラマネロは、その長い触手を使いノボリの体を天井へ持ち上げるようにして叩きつけた。
「っ!? ぐ、あッ
……
!」
強制的に掛けられていた眠気すら吹っ飛ぶ、背中への衝撃と腹部の痛みに、ノボリはカラマネロの触手で天井に押さえつけられたまま苦痛に表情を歪めた。しまった、シャンデラに合図を送らなくては。なんとか息を整えて声を出そうとするが、主に腹を強く押さえ付けられているせいか声が出せない。心の中でカロス鉄道で働く人達に謝罪しながら、ノボリは天井を蹴ったり身を捩ったりして何とか抜け出そうとするが、痛みもあって上手くいかない。カラマネロの赤く光る目は、ノボリを獲物として捉えているようだった。
一方でシャンデラはウトウトしながらも、ノボリと戦う為に必死に“さいみんじゅつ”に抗っている最中だった。頭部や腕の炎が弱まったり強まったりしている。物理的に自由を奪われているノボリは、シャンデラを応援することしか出来ない。
「イッシュ地方から出てこなければこんな目には遭わなかったのに、残念だったな」
既に勝った気でいる男が、カラマネロから少し離れた位置でノボリを見上げながらほくそ笑む。どんな危機的状況に陥っても瞳から光を失わないノボリは、男から投げかけられた言葉をそっくりそのまま返すつもりで口にする。笑ったつもりだった。口角が上がっていたかどうかは分からない。
「そう、ですね
……
。わたくし一人でしたら、あなた様の仰る通り、残念な結果に終わっていたかも、しれません」
「
……
何が言いたい?」
「わたくしを行動不能にしたところで、あなた様の行き先は最初から決まっております。
……
今、あなた様が見上げているこの顔によく似た男がもう一人いたことを、もうお忘れですか?」
貫通扉の奥から聞こえてくる足音は、ノボリにだけ聞こえていた。やがて扉が開かれるとほぼ同時に、一人と一匹のポケモンが勢いよく飛び込んでくる。目の当たりにした現状に一瞬驚いた様子だったが、すぐに気を取り直して、クダリはポケモンに的確な指示を出した。震えそうになった声を、高く大きく張り上げることで誤魔化す。
「イワパレス、シザークロス!!」
カラマネロに“シザークロス”はこうかばつぐんだ。カラマネロは辺りに重く響く叫び声を上げ、幼い子供がイヤイヤをするように頭部を横に振り、ノボリから触手を離した。重力に従ってノボリの身体が通路の床に落ちる。重みのある鈍い音が聞こえて、クダリは駆け寄った。
「ノボリ、大丈夫?」
咄嗟に受け身は取ったものの、まだ痛む腹を擦りながら起き上がろうとするノボリに、クダリが手を差し伸べた。ノボリはその手を取って、しっかりと両の足で立つと、自分と全く同じ背丈のクダリと視線を合わせた。誰にも言ったことはないが、ノボリはクダリの瞳が好きだ。クダリが自分の気持ちを精一杯伝えようと、もしくは相手の気持ちをしっかり汲み取ろうとして、いつだって真っ直ぐに見つめてくる瞳が、昔からたまらなく好きだった。振り向けばいつもクダリが後ろをついて来てくれるから。嘘も濁りも一切ない、綺麗な瞳にノボリを映し、やがて同じ世界を見てくれるから。これまでもこれからも、共に長い人生を歩んでいくパートナーは、ノボリにとってもクダリ以外に考えられなかった。
出血はとっくに止まっているものの、クダリの頬に残っている傷跡に視線を移したノボリは、先程のクダリの問いに答える。
「クダリの怪我に比べれば、なんてことありません」
「ぼくのはちょっと切れただけ。ノボリの方が痛そうだった」
「クダリもご存知の通り、わたくし身体は丈夫な方ですので、ご心配には及びませんよ。この通りピンピンしております!」
「絶対そういう問題じゃない。ぼく怒るよ、ノボリ」
「ええクダリ、分かっております! あとでいくらでも、あなたの気が済むまで怒ってくださいまし」
いつもまともに心配させてくれないノボリにクダリが少しむくれた表情を向ける。クダリ的には怖い顔をしたつもりだったが、ノボリが笑顔を作れないように、クダリもまた笑顔以外の表情を作るのが下手だった。ノボリはそんなクダリすらも可愛く思いながら、一歩前へ出て再び男と対峙する。今のうちにクダリはノボリのシャンデラに眠気覚ましを使った。備えあれば憂いなし、持ってきておいて良かった。ウトウトしていたシャンデラの意識はすぐに覚醒し、さっきまでこの場にいなかったはずのクダリとイワパレスの姿を確認すると、怒った顔をしてノボリの近くまでフワフワと飛んで行った。肝心なときに眠らされたことに、シャンデラもご立腹なのかもしれない。
今度こそノボリとシャンデラに追い詰められた男は、完全に詰み状態だった。切り札のはずだったカラマネロが、自分を上手く扱えない男に対して愛想を尽かし、指示を徹底的に無視する始末。襲われないだけありがたいと思った方が良い。男の手持ちに戦えるポケモンがいなくなった今、バトルに勝利したのは間違いなくノボリだ。
「列車の旅を楽しむ他のお客様の身に危険が及んだこと、列車の一部を破壊したこと、そしてわたくしの弟に傷をつけたこと。あなた様にはきっちりと反省していただきます。そしてあなた様が奪ったポケモンも、元のお客様のもとへお返しくださるようお願いいたします」
やっぱりまだ結構怒っていそうなノボリの背中をクダリは見守る。それから足元にいたイワパレスに感謝の言葉を伝えると、その硬い立派なツメとハイタッチをして、休んでもらう為にボールに戻した。いくら足元が不安定な場所でのポケモンバトルに慣れているとは言え、流石にちょっと疲れた。クダリは視界の隅にあった座席に、足を伸ばして腰掛ける。
クダリがノボリの元まで駆け付けるまでに、色んな人の協力があった。まずクダリとタッグを組んで、他に潜んでいた悪い人と戦ってくれた少女だ。最後まで周囲の人達に気を配りながら、一言も弱音を吐かずに頑張ってくれた。流石はシンオウの新チャンピオンだ。緊急事態でも冷静に車掌と連携を取りながら、丁寧且つ安全な運転を心掛けた見知らぬ運転士にも、拍手を送りたい気分だった。他にも足を捻挫した老婦のもとへクダリが急ぐ途中で、自分は看護師であると名乗り出て救護活動の手伝いをしてくれた乗客もいた。
たまたま同じ列車に乗り合わせることがなければ、このまま一生すれ違うことすらなかったかもしれない人やポケモンと、同じ目的に向かって手を取り合うことが出来た。自分と自分以外のコンビネーションは、自分が備えている以上のエネルギーを生み出す最高のエンジン。ノボリがよく口にしていた言葉が、ふいにクダリの胸に過ぎった。
「
……
あ」
静かな列車内で窓の外をぼんやりとクダリが眺めていると、前方に終点のミアレ駅が見えてきた。クダリはノボリを呼ぶ。クダリが見ていない隙に一体どんな手を使ったのか、ノボリは先ほど自分を襲ったカラマネロを既に手懐けていた。逃げ出さないよう、カラマネロに男を締め上げてもらい、ひと仕事終えたノボリは額の汗を拭いながらクダリのもとへ向かう。途中、通路に落ちていた自分の帽子を拾うと、それを被ってからクダリの隣へ座った。世界で一番信頼している片割れに寄り添うことで、やっと肩の力を抜くことが出来る。
「お疲れさま」
「クダリも、お疲れさまです」
無傷とは言えないが、何とか時刻通りに列車がミアレ駅に停車する。最後尾の車両の窓から見えるミアレ駅のホームには、既に警察や救急隊員らしき人たちの姿も見えた。車掌のアナウンスが全車両に響く。
「いっぱい動いたから、おなか空いてきちゃった」
「そういえば、着いたらなにか食べる約束でしたね」
色々あった。しかし散々だったとは欠片も考えていない二人は、旅行の計画を練り直す。バトル欲は図らずも行きの列車内で満たされたので、空腹を満たす為にレストランへ向かって、本来の目的である美術館の展示を見に行く。あとはギアステーションで働くみんなにお土産を買って、都市開発が進んだミアレシティを探索して、夜はノボリが予約しているホテルのレストランでコース料理を食べて、それから。──それから、あとは、他には?
「なにしよう」
「なにをしましょう」
二人同時に首を傾げる。よくよく考えたら、イッシュの地下鉄の時刻表に生活リズムを合わせていた。その為それに縛られないで良いとなると、途端に何をすれば良いか分からなくなる。自覚していなかったが、結構な仕事脳らしい。今までこうして部下に頼まれるまで二人がまとまった休暇を取らなかったのも、リフレッシュする必要性を感じなかったからでもある。生活の一部だった仕事を離れ、ただの観光客になった今、どこまで羽目を外して良いものか、まだ模索している最中だ。
「やること決まってないなら、なんでも出来るね」
休暇中の正しい羽目の外し方なら、ノボリよりクダリの方が上手なのかもしれない。クダリらしい前向きで柔軟な考え方に、ノボリは喉奥をくつくつと震わせて低い笑い声を零した。笑われていることに気付いたクダリは、嬉しくなってすぐそこにあったノボリの手を優しく握る。その温かい手をノボリは強く握り返す。
「そうですね、クダリ。二人ならなんだって出来ます。ですからどうか、あなたがずっとわたくしに言いかけている言葉を、わたくしに教えてくれませんか」
さっきまで色んなことが頭に浮かんでいたのに、シャボン玉が弾けるようにして消えた。ノボリの言葉一つで頭が真っ白になったクダリは、ぎこちない動きで隣を見た。いつもクダリが見ている、何かに夢中な横顔はそこにはない。今この瞬間、ノボリはクダリだけをその目に映している。お互いの手はしっかりと繋いだまま、ノボリはクダリを旅行へ誘った理由の一つを話す。
「わたくしに言いたいことがあるのでしょう。クダリからそれを聞くまではイッシュに帰らないつもりです。休暇を延ばして、クダリを連れてガラル地方まで向かっても構いません」
「
……
なに言ってるの、だめだよ。みんな困る。せっかくマルチトレイン復旧させたのに。ノボリだって仕事復帰できて嬉しそうだった。ポケモンたちもそう」
「ええ、そうでしょうとも。ですので、早めに教えていただけると誰も困りません。クダリの口から、直接聞くことに意味があるのです」
だれも困らない。そうなのかな。真っ白になった頭でどうするべきか必死に考えるクダリは、下手くそな呼吸を繰り返した。唇をはくはくと動かす。その感情を言葉にしてしまうことは、クダリにとって簡単ではなかった。もう我儘を言って兄を困らせても良い年齢ではないのだ。ノボリを繋ぎ止めたい幼い祈りは、結果としてノボリを縛り付ける醜い呪いになってしまいそうで、どうしても言えなかった。けれど今日、朝からずっとノボリを見ていて、クダリには改めて分かったことがある。ノボリは大人しく呪われるような男ではない。たとえ何かに縛り付けたって、平気な顔してグイグイ突き進んでいく。だからいつも弟のクダリはその背中を追いかけるのだ。もしいつかノボリが目的地を見失ったとして、今度は自分が道標になってあげられるように。
ずっと心の奥深くで燻っていた寂しがりやの言葉を、クダリは何度も息を吸いながら、やっとの思いで口にした。さっきまでずっと気が張っていた反動もあって、声も唇も情けなく震えてしまった。
「もう、一人でいなくならないで」
右頬が痛い。乾いていた頬の傷口が涙で沁みたのだ。その代わりと言っては何だが、ノボリが無事に帰ってきても、まだどこかでぽっかりと空いていたクダリの胸の穴は、今この瞬間に塞がったように思えた。ズッシリとした重みのある、サブウェイマスターの制服を着ていない今だからこそ、クダリは本心を晒け出せたのかもしれなかった。
休暇中でもサブウェイマスターとして恥じない行動を取り、兄の危機すら救ってみせた強い弟が、今は子供の頃に戻ったみたいに涙を流している。自分のせいで泣かせてしまっている。胸が張り裂けそうなほどの苦い罪悪感の裏で、素直に嬉しいと感じてしまうのは、自分がいけない兄だからだろうか。濡れた睫毛が重たいらしく、何度も瞬きする度に大粒の涙をはらはらと落とすクダリが、ノボリには愛おしく見えて仕方がなかった。
弟を泣き止ませるのは、昔から兄の役目である。けれど、もう二人は子供じゃない。頭を撫でて慰めても、飴玉をあげて気を紛らわせても、今のクダリは泣き止んではくれないだろう。ノボリはこの世界で唯一クダリにだけ分かる優しい笑顔を浮かべる。繋いでいる手とは反対の手で、ノボリがクダリの白い頬に触れた。二人の間にあった距離はゼロになり、ノボリはクダリを泣き止ませることに成功するのだった。
▲▽
列車から乗客が全員無事に降りると、体調に問題のない人たちは規制線が張られた改札を抜けて、自由にミアレシティへと繰り出して行った。一方で今回様々な罪に問われるであろう男を含めた数名は、ホーム内でミアレシティの警察に身柄を確保された。そして、改造ボールに捕らわれていた黒い毛並みのトリミアンは、待機していた救急隊員から足の手当を受けていた老婦と再会することが出来た。喜びから溢れ出る老婦の涙を、二匹のトリミアンは尻尾を振りながら一緒になって舐めていた。他に男たちが騙し奪っていた色違いのポケモンたちの捜索並びに返還や余罪捜査など、まだ全てが終わったわけではないだろうが、それらは警察の仕事だ。今のところは一件落着と見て良いはずだ。
心残りが一つあるとすれば、短い時間ではあったが相席したシンオウ地方出身の少女へ感謝の言葉を伝えられなかったことだ。ホーム内をいくら見渡しても、濃紺色の髪を見つけることは出来なかった。兎にも角にも、あのトリミアンが元気に駆けて行った姿を自分たちの目で確認出来たノボリとクダリは、今回列車へ乗務していた車掌と運転士に挨拶をしに行った。
「まさか地元でノボリさんとクダリさんに会えるなんて!!」
そう興奮気味に話す車掌はバトルサブウェイの存在を知っているどころか、実は観光ついでに一度挑戦したことがあるのだと言う。そのときはシングルトレインの19戦目で負けて渋々帰ったらしい。握手を求められたので、ノボリとクダリは快くそれに応じた。更に興奮した様子の車掌からスマホロトムのカバーにサインしてほしいと頼まれた。運転士の制服のポケットから、スマホロトムが元気よく飛び出る。しかし今日ペアを組んでいた運転士が車掌の暴走を止めたことにより、ノボリとクダリの直筆サイン入りスマホカバーの話はなくなったのだった。最後に同じ鉄道に携わる者同士として敬礼を交わして、清々しい気持ちで二人は駅を後にした。
改札を出て目の前にあるミアレシティへと、ついに足を踏み入れる。空を覆い隠していた分厚い雲はどこかへ姿を消したようだった。雨が降っていなくて一安心する。
「ノボリさん、クダリさん!」
少し進んだ先で背後から声を掛けられる。足を止めると、先程ホーム内で探していた少女の姿がそこにあった。息を切らして走ってくる少女の名を、クダリが呼ぶ。
「あっ! ヒカリ、よかった。ぼくたちもきみを探してたんだ」
あのとき別行動をしていたノボリは少女の名前を知らなかったので、まず驚いた。少女──ヒカリは、ノボリとクダリの顔を交互に見てから頭を下げた。
「ちゃんとお別れせずに改札出ちゃったから
……
待ってて良かったです。色々ありましたけど、列車の中でお話できて楽しかったです! ありがとうございました! あとこれ、良かったらクダリさんに
……
」
ポーチの中から可愛らしいピンク色の絆創膏を取り出したヒカリが、それをクダリに渡す。頬の怪我に使えということだろう。せっかくの気遣いを拒絶するわけにはいかない。成人男性が顔に貼るには少し可愛すぎるかもしれないが、クダリは全く気にせず受け取った。
「ぼくにくれるの? ありがとう。見て、ノボリ。バンソーコー貰っちゃった」
早速頬の傷にピンク色の絆創膏を貼ってみせたクダリの隣では、口を噤んだままのノボリが神妙な面持ちでヒカリを見つめていた。列車の中で赤い目をした巨大なカラマネロと対峙したときに感じた、あの頭痛。自分の中にあった違和感。あれらは何だったのだろう。そして今日が初対面であるはずのヒカリを前にして、胸に引っ掛かりを感じる謎の既視感の正体は、一体。
「ヒカリ様」
クダリの口から知らされた名前を、ノボリは声に出した。聞き覚えもなく、口にも馴染まない名前だ。知らない少女だ。普段から思ったことや昂る感情をすぐ言葉で伝えようとするノボリにしては珍しく、言い淀む。
──以前、どこかでお会いしたことがありますか?
喉元まで出かかった言葉を、ノボリは飲み込んだ。自分たちは今日初めてイッシュから出たのだから、そんなことはありえない。抜け落ちた記憶の中に何か答えがあるのかもしれないが、今すぐ思い出せないのならしょうがない。根拠もない馬鹿げた考えを振り払うように、ノボリは小さく首を横に振った。名前を呼ばれたヒカリは、ノボリが話し始めるをじっと待っていた。
「
…………
。いえ、大変失礼いたしました。わたくしの勘違いだったようです。改めまして、わたくしどもからも心より感謝申し上げます。どうやら列車の中でクダリと一緒に戦ってくださったようで
……
」
「すっごい強くて頼もしかった。だってヒカリ、シンオウ地方の新チャンピオン! つぎはぼくとも戦ってね」
「!? なんと
……
チャンピオン! そちらは初耳でした! 機会がありましたら是非、わたくしともお手合わせ願いたい!」
「
……
ふふふっ、あははは!」
別れ際になって、ヒカリはもう堪え切れないと言った風に大きな笑い声を上げた。急に笑い出したヒカリを、呆気にとられたノボリとクダリはそっくりな顔で凝視する。なにか可笑しいことを言っただろうかと、自分たちの言動を振り返った。一頻り気が済むまで笑ってから、ヒカリは自身の頭に詰め込んでいた旅行のスケジュールに、新しい予定を追加する。
「急にごめんなさい。お二人を見てると、二人旅もいいなあって! よく遊んでた幼馴染のこと思い出してたんです。最近会ってないし、どこかでお土産くらい買って帰ろうかな」
「いいね! きっと喜ぶよ!」
「良いですね! きっと喜ばれると思います!」
ヒカリの提案を肯定しようと、同じ顔をした双子が全く同じことを息ぴったりで口にしたものだから、ヒカリをまた盛大に笑わせてしまうのだった。
立ち話を終えて、先に美術館へ向かうヒカリに手を振って別れる。また近いうちにどこかで会えるような予感がして、さよならは言わなかった。ノボリが歩き出すと、クダリも少し遅れて歩き始める。同じ歩幅で、横に並んで、共に同じ目的地を目指す。
初めての土地、新鮮な空気、見慣れない景色とポケモンたち。旅行先でしか得られないドキドキとワクワクを全部、余すことなく全力で楽しむつもりでいる。サブウェイマスターの制服を脱いだ今の二人は、ただ鉄道が好きで、ポケモンバトルが好きな、何者でもないただの観光客だった。
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