とむぢ
2026-06-08 21:23:11
24643文字
Public
 

やがて君を照らす光となれ/G▲▽

旅行先の列車で事件に巻き込まれてモブとバトルすることになるG▲▽の話
【注意】
・少女(ダイパ主人公♀/ヒカリちゃん)が出てきます。※一人称や口調と性格はpkmsを参考。
・翡翠地方に飛ばされた▲について都合の良い解釈が練り込まれてます。
・ポケモンから攻撃を受けるG▲がいます。
・好き合ってる▲▽

もうなんでもありです。


 

「本当に届けてくれてありがとうございました。あたしのものってわけじゃなくて、ママから預かったものなんです」
 先ほどノボリから受け取ったチケットを見つめながら、少女は続けて口にした。
「ママが昔、コンテストでもっとポケモンの魅力を引き出せるようにって、あちこちに勉強しに行ったときに買ったチケットらしいんですけど……
「左様でございましたか。でしたらそちらは、お母様の大切な思い出のお品でもあったのですね」
 ならば尚更なくさずに済んで良かった。TMVパス、現在は駅として使われていないミアレステーションでかつて販売していたチケットだ。都市開発が進んだ今のミアレシティでは、ミアレステーションはただの跡地と化してしまっている。時代が移り変わるにつれ、街並みも人もポケモンも変わっていくものだ。永遠に不変を求めることは、人間が踏み込んではならない禁忌の領域なのだろう。それは仕方がない。しかし、まだ新米の駅係員だった頃、クダリと共にテレビで見かけた夢の高速鉄道が失われたことに関してだけは、ノボリは非常に嘆かわしく思った。クダリも同じ気持ちを抱いて、少女とノボリの会話に耳を傾ける。駅務員から車掌になり、ほぼ同時期にサブウェイマスターにもなり、毎日を地下鉄で忙しく過ごしているうちに乗る機会をなくしてしまった。
「そちらのチケットで乗車できたTMV──かつてカロス地方を走っていた超高速鉄道のことですが、噂はかねてより聞いておりました。鉄道に携わる者として、一度でもこの目で実際に拝見したかったものです」
「写真とか動画ではいっぱい見てた。電車の3倍もの速度で目的地に着いちゃうの、すっごく格好いい。いつか再開するといいね」
 表情はさっきからずっと変わらないが、心做しか悲しそうな声色で語るノボリとクダリに、少女は深く頷いて理解を示す。確かにそれだけ速く移動出来る乗り物であれば、見える景色も今乗っている列車とはまた違っていただろう。移動手段ひとつで、見える世界は変わる。その違いを比べるのもまた、旅の楽しみ方のひとつ。そんなことを考えながら、ふと少女は窓の外を流れていた空を眺めた。遠くの方で黒っぽい大きな雲が青空を覆い隠そうとしていて、ひと雨来そうな雰囲気だ。天気予報では晴れだったのに、通り雨でも降るのだろうか。
……やはり、鉄道は良いものですね」
 座席に深く腰掛けながら、ノボリは周りにいる乗客の顔を見渡して呟く。その隣でクダリは柔らかく目を細めて、しみじみと好きなものを語る片割れを静かに見つめていた。クダリもノボリに負けないくらい鉄道が好きで、鉄道に関する知識も豊富だ。しかしそれ以上に、好きなものを楽しそうに話すノボリのことが好きなのだろうと、初対面である少女でも十分に見て取れた。そんなクダリから向けられてる、温かい一筋の光のような視線に気付いているのか定かではないが、ノボリは真っ直ぐ前を向いたまま話を続ける。
「同行者と旅先の計画を語らう方、窓の外を眺めながら音楽を聴いている方、ポケモンと一緒に眠っている方……。この列車に乗り合わせた半数以上の方が、わたくしどもと同じ観光目的で乗車された方とお見受けします。目的地は当然ながら皆さまそれぞれ違います。それでも共に同じ列車に乗って揺られている今この瞬間だけは──わたくしどもは鉄道に命を預けた同志だと、そう思いたいのです」
 言い終えたノボリは、目の前に座っている少女を視界に入れているようでいて、その実違うところを見ているような、どこか遠い目をしていた。誰にも言ったことはないが、クダリは隣から見るノボリのこの横顔が好きだ。一度決めたら絶対に考えを曲げない、後からついて来るだろうと信じて弟を置いていくような、前だけを見据えるノボリのことが、昔からたまらなく好きだった。そんなノボリだからこそついて行きたい。共に生きたい。心を通じ合わせるパートナーで在りたいと、クダリは切に強く願うのだ。これは幼少期から今に至るまでに育ってきた、クダリの心の深いところに存在しているノボリへの感情である。
「だからぼくたちはいつだって、電車に乗るお客さんの笑顔と命を守らなくちゃいけない。ぼくたちの仕事は、毎日、何百、何千もの人と、ポケモンの命を預かる。ポケモンバトルは真剣でないとつまらない。だけどそれ以上に、電車が安全に走らないと意味がない。指差し確認、忘れちゃだめ」
 ただの鉄道好きの感想ではなく、それを仕事にして生活している者としての考えを、クダリが一生懸命、言葉にする。クダリが今口にした内容が至極当然のことであるからか、ノボリは特に何の反応も寄越さなかった。二人から並々ならぬプロ意識を感じて、少女の頭からはすっかり天気の心配など抜け落ちる。初めて降り立った土地で列車に揺られている今この瞬間が、なんだかとても特別なものに思えてきた。
……あたしってば、ミアレ駅とミアレステーションが同じだと勘違いしてたんです。それで慌ててたら駅員さんが丁寧に違いを教えてくれて、しかも列車の乗り場まで案内してくれたんですよね。もう一人前になったつもりでいたけど、シンオウを出るとあたしもまだまだだなーって思い知りました」
 会話の流れでそれとなく少女が出身地を打ち明けると、それまで遠い目をしていたノボリが今度こそしっかりと少女を視界の中心に入れて、驚きの声を上げた。クダリもノボリに共感する。
「なんと! シンオウ地方から遥々カロス地方まで! さぞ長旅だったことかと思います。お疲れ様でございました」
「イッシュからカロスよりもダンゼン遠いね」
「旅行……というか、旅自体は慣れてるんですけどね。移動手段の船や飛行機で座りっぱなしだったのがちょっとキツかったです。ええと……お二人はイッシュ地方から来たんですか?」
 話が弾んだ流れで少女が訊ねると、二人は“よくぞ聞いてくださいました”と言わんばかりに、食い気味で返事を返した。今日初めて会ったはずである少女から見ても、やっぱり双子なんだなあと改めて強く思うほど、全く同じ盛り上がり方をしている。
「はい! わたくしども兄弟、生まれも育ちもイッシュ地方でございます。自然豊かで、観光地も多く、何より地下に線路が張り巡らされており、素晴らしいところですよ。実のところ、今までわたくしもクダリもイッシュから一歩も出たことがありませんでした」
「そう、だからこれがぼくたち兄弟の初旅行! ノボリがミアレシティでどうしても見たいものがあるって言うから、それを見に来たんだ」
「欲を言いますとわたくし、ガラル地方の鉄道にも非常に惹かれております。ですのでクダリ、次はモノレールに乗りましょう!! きっとブラボーな体験が待っているに違いありません!」
「そうだね、ノボリ。TMVみたいなことにならないように、乗れるうちに乗ろう! 休みの日のおでかけもバトルと同じくらい楽しいって、知れてよかった!」
 本人たちにその自覚はないだろうが、少女を置いてけぼりにして、完全に二人の世界に入っている。ミアレシティに着く前にもう次の旅行の約束までしている始末。そんな仲睦まじい様子を微笑ましく眺めていた少女であったが、ふと思考を止めた。さっき発せられたクダリの言葉に、引っかかるものがあったからだ。
(ミアレシティで、どうしても見たいもの……
 少女は視線を誤魔化そうと上目遣いでノボリを見る。もしかすると、ひょっとすると、自分と同じ目的なんじゃないだろうかと。今日がこの二人と初対面のはずなのに、どこかで会ったことがあるような、謎の既視感の正体を探るチャンス到来だ。少女は膝の上にある拳を握り締め、勇気を出した。
「もしかして、お二人も美術館の──」
 振り絞った声が最後まで言葉になることはなかった。なぜなら前方の車両へと続く貫通扉の向こうから、只事ではない騒がしい足音が聞こえてきたからだ。少女は思わず口を閉じる。足音はどんどん近付いてくる。思い思いに過ごしていた周りの乗客も、何事かと貫通扉に目を向けていた。やがて乗客の不安を煽る足音と共に貫通扉は開かれ、前方の車両から帽子を目深に被った、見るからに不審なオーラが漂う男が焦った様子で走って来た。しかもその手には何やら見たことのないモンスターボールが握られている。元々ある一般的なモンスターボールを独自に改造したボールだろうと、誰の目にも明らかだった。当然だがどんな尤もらしい理由があっても改造ボールなど違法アウトである。突然走ってやって来た男の背後から、他の複数の足音も響き渡り、駅で聞いた覚えのある女性たちの声が飛び込んできた。
「だれかその男の人、捕まえてください!!」 
「駅に貼ってあった似顔絵のポスターと同じ顔です! 巡回中だった車掌さんに伝えようとしたらそいつにバレちゃって……! 逃げるときに近くにいたお婆さんのトリミアンを強引に捕まえて、それで……!」
 随分と走ったのだろう。息も絶え絶えな女性客による説明が終わるよりも先に、キョロキョロと忙しなく周りを見渡す男が通路をまた走り出した。クダリの脳内に、駅のホームで会った二匹のトリミアンの姿が思い浮かぶ。そのうちの一匹は確かに色違いの個体だった。ノボリの頭の中でも、駅のホームで自分たちの後ろに並んだ、仲良しグループっぽい女性たちの話し声が再生される。
 ──『ちょっと前に色違いのポケモンだけが狙われた事件あったよね? それの犯人の似顔絵が公開されてたよ』
 今目の前で起きている状況を素早く理解したノボリとクダリが席を立ったのは、ほぼ同時であった。この列車は空港とミアレ駅だけを結ぶ直通列車であり、停車駅はない。つまり列車の中にいる限り逃げ場はない。ポケモンの力を借りたら走行中の列車から飛び降りて逃げられるだろうが、息が合わないと命の保証はない。変装も虚しく正体がバレて、本能的に後ろへ逃げようとしている男の前に、ノボリが立ち塞がった。腰にあるモンスターボールに手を添えながら、いつ戦闘が始まっても良いように目を光らせる。
「お急ぎのところ申し訳ございませんが、走行中の車内をそのように走られますと大変危険です。他のお客様のご迷惑となりますので、一度立ち止まって、お近くのつり革や手すりにお捕まりください」
 暗にその手にある改造ボールを手放せとノボリは伝えているのだが、男は聞く耳を持つどころか、改造ボールとはまた別のモンスターボールを取り出して投げた。戦う気らしい。ノボリもすかさずシャンデラの入っているボールのスイッチを押して、いつでも繰り出せるように準備するが、目の前に現れたポケモンの姿を見上げて絶句した。
 オンバーンだ。オンバーンが列車の天井ギリギリのところで羽ばたいている。いくら体幹が鍛え上げられているノボリでも、その羽ばたきから生み出される風だけでよろめきそうになった。ぐっと足腰に力を入れ、被っている帽子が飛ばされないよう片手で押さえるノボリの脳内に、ひと月ほど前にシングルトレインにて行われたバトルの記憶が蘇った。バトルサブウェイには全国各地から挑戦者がやって来るが、その中にオンバーンを手持ちに加えていた人がいた。特徴的な丸く大きな耳から繰り出される“ばくおんぱ”は強烈で、はじめからポケモンバトル施設として作られた車両の、特殊加工が組み込まれた強化ガラスでも押し負けて罅が入るほどの威力だった。そんな戦いの記憶を呼び起こしたノボリは、出せる限りの大声を腹から出して周りの乗客に危険を知らせる。
「皆さま、早急に伏せてください!!!!」
 突然の予知せぬ緊急事態にパニックに陥った周りの乗客たちが、ノボリの一声で一斉に床に伏せ始めた。オンバーンに向かって威嚇するポケモンを、多くの人が守るように抱き締めて伏せたり、或いはボールの中に戻したりして、各々が頭を守る体勢を取る。ノボリの嫌な予感は的中し、不審な男はオンバーンに“ばくおんぱ”を命令した。
「シャンデラ、シャドーボール!!」
 ノボリは素早くシャンデラを繰り出し、少しでも“ばくおんぱ”の威力もしくは影響範囲を削ろうと攻撃を指示する。ノボリの狙い通り、シャンデラの“シャドーボール”をオンバーンがもろに受けたことにより、“ばくおんぱ”の威力と範囲を同時に狭めることに成功した。それでも容赦なく放たれた衝撃波によって、一番近くにあった窓ガラスが粉々に破壊される。ノボリとクダリが先程まで少女と一緒に座っていた、ボックスシートの大きな窓ガラスだ。飛び散るガラスの破片が降り注ぐ前に、咄嗟の判断でクダリは少女の腕を力強く掴んで引き寄せた。少女の頭を守るように腕を回し、自分が代わりに鋭利なガラスの雨を浴びる。尖った破片の一部がクダリの頬を切りつけ、ぱっくりと切れた傷口からは鮮血が溢れ出した。その一部始終をはっきりと、しっかりと、ノボリは目撃していた。
「怪我ない?」
 クダリは少女が攻撃対象にならないよう、その場にしゃがませる。ガラスの破片が散らばる床だろうが、構わずクダリ自身も床に膝をついて少女と目線を合わせてから訊ねた。肝が据わっているのか、こんな状況でも狼狽えない少女は、しっかりとした顔付きでクダリの問いに返事を返す。
「あたしは大丈夫です! でも、クダリさん、血が……!」
「血? ぼく? ……わ、本当だ」
 少女に指摘されてから自分の頬に手を当てて、クダリは自身の頬から出血していることを確認する。触れてから初めて痺れるような痛みを感じた。しかし、どうということはない。ボックスシートの座席の真ん中で、クダリは少女と共に頭を低くした体勢のままノボリに目線を送った。
「大丈夫ですか、クダリ」 
 ノボリの声がいつもより低く、感情が全部抜け落ちたみたいに淡々としている。ああ、これは結構怒っているなと、クダリにはすぐに分かった。
「平気。それより他のお客さんたちが心配」
「ではクダリはこちらの列車に乗務されている車掌の方と連携を取りながら、他のお客様の安全確保をお願いいたします。怪我をしている方がおられましたら、出来る限りの救護活動も並行して行ってください」
「オッケー、まかせて」
 短い時間の中で的確に役割を分担する。乗客の安全はクダリに託し、ノボリは戦うことに集中した。バトルサブウェイへ乗車する挑戦者には決して向けることはない、氷のように冷たい眼差しを男に向ける。対策を取られ、オンバーンの攻撃を受けても吹き飛びもしなかったノボリを前に、男は苛立ちを隠さずに不満気な声を漏らした。
「クソッ、なんでカロスの列車にサブウェイマスターが乗ってんだよ……!!」
 聞こえてきた男の言葉に、クダリの指示で隠れるようにしゃがみ込んでいた少女は息を飲んだ。イッシュ地方のノボリとクダリ。二人の名前に聞き覚えがある気がしていた。あまり他の地方のことについて詳しくない少女でも、小耳に挟んだことくらいはある。少女が住むシンオウ地方から遠く離れたイッシュ地方には、地下鉄の一部分の路線を改造して作られた、バトルサブウェイという名のポケモンバトル施設が存在している。そこでひたすら強さを求めて勝ち進んだトレーナーの前に、施設のボスとして立ちはだかるのが、白と黒のコートに身を包む二人のサブウェイマスター。彼らがノボリとクダリだ。
 なんだ、既視感の正体はこれだったのか。少女はもう一度こっそりとノボリを見上げる。テレビの映像、もしくは動画配信サイトか何かで彼らを見たことがあったのかもしれない。落し物を拾って届けに来てくれたノボリの顔を見たときに感じた、どこかで会ったことがあるような感覚は、所詮気の所為に過ぎなかったのだ。少女はそうやって自分を納得させた。
 ノボリの指示通りに伏せていた乗客たちも、次第にザワつき始める。男はまた舌打ちをして、ノボリに向かって突進するようオンバーンに攻撃指示を出す。人間に向かってポケモンの技を当ててはならない、そんな当たり前のルールもマナーも当然のように破る。人を傷付けることに躊躇いがない。ポケモントレーナー以前に、人として失格だ。オンバーンは鳴き声を上げながらノボリに突っ込んでいく。狭い通路の中で、あれだけ大きな翼を持ったポケモンが暴れてしまったら手が付けられない。元来血の気が多いオンバーンを刺激しないように、ノボリはオンバーンの視界から消えるようにして攻撃を避ける。その一瞬を見逃さなかった男が、ノボリの背後にあった貫通扉から後方車両へと向かって逃げ込んだ。
 ゆっくりと閉まる扉の隙間から見える男の背を、ノボリは鋭い目で追う。あの男に騙され、奪われてしまった色違いのポケモンたちがいる。ポケモンたちは元のトレーナーの元へ帰りたがっているはずだ。それに今は休暇中で、ここは管轄外だとしても、鉄道車内での危険行為を見逃すわけにはいかない。そして何より、クダリの白い頬に赤い傷跡が見えた瞬間、ノボリの心の内側にマグマのような激しい感情が沸き起こった。一瞬でノボリの頭に血が上り、そこから急激に全身が冷え、今は冷静に動けている。
 逃がすものか、絶対に。瞬きすらせず目を見開いたままノボリは男の後を足早に追う。揺れながら走行を続ける車内でも、前だけを見据えたノボリの体幹がブレることは決してなかった。
 
 ノボリがこの騒ぎを引き起こした男を追いかけて行ったあと、車掌と協力して全車両にいる乗客の安全確保の為に動くクダリのもとへ、一匹のトリミアンが白い体毛を靡かせて走ってやって来た。トリミアンはクダリの目の前で止まると、何かを知らせるように連続で吠える。クダリにポケモンの言葉は分からないが、何を求めているのか想像力を膨らませて正解に結び付けることなら出来る。感情表現はやたらと豊かなのに、何故かそれがほぼ表情に表れない兄がいたおかげで、小さな変化からヒントを見つけ出すことがクダリは得意だった。幼い頃から自然と培われた、弟としての能力でもある。
「どうしたの。怪我人? きみのトレーナー?」
 クダリの問いかけにトリミアンは一際強く吠えた。ミアレシティへの行き方を自分たちに訪ねてきた、足の弱い老婦の姿をクダリは思い出す。大切にしているポケモンが突如として奪われ、追いかけようとして転んでしまったのではないかと考えた。クダリは安心させるようにトリミアンの白くてモフモフな頭を撫でた。トリミアンはクダリを信頼出来る者として認めたらしく、大人しく自慢の体毛を触らせている。
「良い子だね、教えてくれてありがとう! ぼくを案内してくれる?」
 来た道を戻る頼もしいトリミアンの後ろをついて行くクダリの前に、両サイドの座席に座っていた二人組の男女が立ち上がり、行く手を阻む。悪いことを企んでいるときの人間の顔だ。クダリが今も必死に守ろうとしている乗客の中に、さっきの悪い男の仲間が潜んでいたらしい。
「指差し確認、悪い人発見。ぼく、急いでる。そこ通してくれるかな」
 まずは対話から試みる。たとえ正当な理由があったとしても、なりふり構わずポケモンバトルで勝って黙らせたら良いというわけではない。全身の毛を逆立てて、唸り声を上げて威嚇するトリミアンを自身の後ろへ下がらせて、危害を加えない意思を示すクダリだが、それで引き下がるような相手なら最初から犯罪行為なんかに手を染めないだろう。二人組はその場を退くどころか、クダリと戦う意思を見せ、モンスターボールを手に取った。
(やっぱり、話すのって難しい)
 悲しく思いながら、クダリは腰のベルトに手を伸ばし、モンスターボールに触れた。相手がその気なら、こちらも全力で対応するしかない。すると自分にも何か手伝えることはないかと考え、肩を寄せ合って怯えている乗客に声を掛けて回って励ましていた少女が、クダリのもとへ駆け付けた。手持ちが何体いるのかは分からないが、向こうが二人で来るというのなら、こっちも二人で相手をしてやる。いくらクダリが強いポケモントレーナーだとしても、目の前で2対1のバトルが始まるのを黙って見てられない。正義感の強い少女の目には、気高い闘志が宿っていた。
「クダリさん、あたしも一緒に戦います!」
 少女もまた腰のベルトからモンスターボールを取り出す。スイッチを押したボールを片手に、クダリは少女の覚悟が決まった横顔を見た。普段から笑みを絶やさないクダリの目が爛々と輝く。
……いま、思い出した。地下鉄で誰かが話してたのを、聞いたことがある」
 突然の悪人とのポケモンバトルに全く怯む様子を見せない少女の正体に見当がつき、血が滾る感覚にクダリのボルテージはアガる。
「シンオウ地方に新チャンピオンが生まれたって。それってきみのこと?」
 二人組の男女がそれぞれボールを投げてポケモンを通路に出す。すかさずクダリはアーケオスを繰り出し、少女はドダイトスを繰り出した。バトルが始まる前にクダリから投げかけられた質問には、少女は元気よく名乗ることで答えてみせた。