とむぢ
2026-06-08 21:23:11
24643文字
Public
 

やがて君を照らす光となれ/G▲▽

旅行先の列車で事件に巻き込まれてモブとバトルすることになるG▲▽の話
【注意】
・少女(ダイパ主人公♀/ヒカリちゃん)が出てきます。※一人称や口調と性格はpkmsを参考。
・翡翠地方に飛ばされた▲について都合の良い解釈が練り込まれてます。
・ポケモンから攻撃を受けるG▲がいます。
・好き合ってる▲▽

もうなんでもありです。




 初めての土地、新鮮な空気、見慣れない景色とポケモンたち。旅行先でしか得られないドキドキとワクワクを全部、余すことなく全力で楽しむつもりでいる。溜まりに溜まった有給を消化するべく三日間の休暇をもらい、サブウェイマスターの制服を脱いだ二人は、この日、ミアレシティ行きの列車を待っていた。二人がイッシュ地方から出たのは、これが初めてである。
 昔からイッシュ地方と親交があるカロス地方は、決して近いわけではないが鉄道だけでも行ける距離にある。勿論、なるべく移動に費やす時間を短縮したいのなら、空の上をメインとした移動手段を取るべきだ。カロス地方の中央に位置する巨大都市・ミアレシティの大々的な都市開発により、年々増加しつつある他の地方からの観光客を更に受け入れやすくする為、空港もリニューアルされた。カロス地方行きの飛行機の便も増えた。しかしそれでもあえてノボリとクダリは、旅行の移動手段に鉄道を選んだ。そこに線路が敷いてあるのなら鉄道で向かいたい。ポケモンバトルを愛するサブウェイマスターである以前に、鉄道の魅力に惹かれて鉄道員になったノボリとクダリの、どうしても外せないこだわりだった。飛行機より時間は掛かるが、普段イッシュの地下鉄しか乗らない二人にとって、様々な列車を乗り継ぐ旅は貴重な経験であり、心が踊る楽しい時間でもあった。初めて乗る列車の記念撮影も忘れない。これも大切な旅の思い出だ。カロス地方に足を踏み入れた頃には昼過ぎになっていたけれど、どの列車も遅延することなく、二人の初旅行は順調そのものであった。
「ノボリ、ぼくたち始発の電車でサンドイッチ食べてから、何も食べてない」
 今回の二泊三日の旅行を提案したノボリに、クダリはライブキャスターで時刻を確認してから思い出したように言った。
「本当ですね。ミアレシティに到着したら、先にどこかで遅めの昼食を取りましょう」
 新しく出来たばかりのこの大きな駅には、空港からミアレ駅までを直通で結ぶ列車が来る。ミアレ駅とは、その名の通りミアレシティの最寄り駅だ。ミアレシティに聳え立つ、街のシンボルともなっているプリズムタワーが観光スポットとして一番有名だが、今回ノボリが旅行先をカロス地方に選んだ理由は、ミアレシティの美術館にある。そこでどうしても気になる展示があった。インターネットで詳細を調べると期間限定らしいので、有給を取るついでに初めての旅行にクダリを誘ってみたところ、快く首を縦に振ってくれたというわけだ。その後クダリから『良かった、ノボリまたどこかに行くのかなって思ってたから』と告げられたノボリは、驚きと申し訳なさのあまり絶句した。それからクダリに何も相談せず、一人で黙々と旅行先のことを調べてばかりいた自分の行動を反省した。何か一つのことに熱中するとそれ以外のことが見えなくなるのは、あまりよろしくない癖である。
「見て、ここダブルバトル専門の料理店だって。楽しそう! ぼく行ってみたい!」
 列車が来るまでの間、ライブキャスターのインターネット機能を使ってミアレシティのレストランを検索していたクダリが、ノボリに画面を見せる。 
「それは必ず行かねばなりませんね!! こちらのレストランでは……成程、ローテーションバトルが出来るようです。普段とは全く異なる環境と不慣れなルールで行うバトル、挑戦しがいがあります!」
 同じくレストランを調べていたノボリも、無表情のまま目を輝かせた。ミアレシティにある4つのレストランでは、ポケモンバトルとコース料理を両方楽しむことが出来る。勿論レストランを利用する全ての人がバトルに参加しければならないという決まりはなく、観戦側として料理に舌鼓を打つ人も沢山いるが、そっちに回る選択肢はノボリとクダリの頭に最初からない。やはりほぼ毎日強いトレーナーとポケモンバトルが出来る環境で過ごしていると、仕事から離れた休暇中でもバトルを求めて血が騒ぐ。食欲よりもバトル欲だ。そこでどんな美味しい料理が食べられるかより、ポケモンバトルの内容について調べて語り合う。そんな二人の背中に、ゆっくりとした足取りで小さな影が近付いて行った。
「ごめんなさいね、ちょっと良いかしら」
 話し掛けられたのだと分かると、二人はライブキャスターの画面を消して同時に振り向いた。視界の先には二人の腰くらいまでしかない背丈の、杖を持った老婦が立っていた。その両隣には二匹のトリミアンがお座りをして待っている。一匹はモフモフとした白い体毛で全身が覆われており、もう一匹は黒い体毛の子だった。黒の方は色違いの個体なのだろうと、カロス地方に初めて来た二人にも分かる。
「ミアレシティに行くには、これから来る列車に乗っていればいい? それともどこかで乗り換えをしないといけないの?」
 おずおずと訊かれた内容は、カロス鉄道で働く人間ではなくても十分答えられるものだった。ノボリが足先を揃えて老婦の方へ向けると、丁寧に答える。
「ミアレシティでございますね。間もなくこちらに参ります列車は、わたくしたちが今いる空港とミアレ駅を結ぶ直通列車となります。つまりミアレ駅にしか停まりませんので、お乗り換えの必要はございません。終点まで安心してご乗車くださいまし」
「あら、本当? よかったわ。あともう一つだけ訊いても良い? ミアレ駅からミアレシティまでは歩くのかしら。距離があるのなら、タクシーを利用しようと思うのだけれど」 
 ついでに投げ掛けられたその質問には、クダリが対応した。観光先であるミアレシティに関しては調べてきているので、これにも難なく答えることが出来る。行き当たりばったりの旅もワクワクして悪くないけれど、不測の事態すらも楽しむ為には事前の準備を怠ってはいけない。
「大丈夫、タクシー乗る必要ないよ。だって改札出るとすぐそこがミアレシティ。でもミアレシティから空港方面に戻りたいとき、駅間違えないように注意して。昔からあるミアレステーションと、最近出来たミアレ駅は別物。今、駅として利用出来るのはミアレ駅だけ」
 老婦に説明している途中、何やら足元で二匹のトリミアンがこちらをじっと見上げていることに気付いたクダリは、目を細めてにっこりとした笑顔を向けた。仕事中、普段からこうやって穴が開きそうなほど見つめてくる子供は多い。当然ながらトリミアンは人間の子供ではないので、笑いかけてきたクダリに対して笑い返したり、或いは吃驚して泣き出したりはしない。その代わりに黒い方のトリミアンが尻尾をブンブンと振り始めた。気品溢れる凛々しい表情は変わらないが、中身は人懐こい性格の子らしい。なんだかノボリみたいだなぁと、クダリは少しだけ思ったりした。
「駅員さん、ご親切にどうもありがとう。助かったわ。トリミアンたちのトリミングをしてもらおうと思ったんだけどね、なんせ行ったことがないものだから……。本当にありがとうね」
「いえ、お役に立てたようで何よりです」
 感謝の気持ちを込めて頭を深々と下げると、二匹のトリミアンを連れた老婦は駅のホームにある売店の方へ歩いて行く。あと5分もすれば列車が来るのだが、列に並んでいなくても大丈夫だろうか。杖をついて歩くその小さな背中を見守りながら、悪戯っぽく笑ったクダリがノボリに話しかけた。
「解決してよかったね、駅員・・さん」
「皆様に頼っていただけることはとても嬉しいのですが、まさかどの駅にいても毎回声を掛けられるとは思ってもみませんでしたね……
 本来の“駅員さん”の仕事を取ってはいないだろうかとノボリが杞憂する。今さっきの一回だけではなく、朝から列車を乗り継いでここに辿り着くまでの間に、二人は何度も声を掛けられた。乗り場を教えてほしいだとか、○○駅に行きたいのだけど何線に乗れば良いかだとか、‪✕‬‪✕‬方面の電車は□□駅に停まるか知りたいなど、行く先々で色んな人に訊かれた。オフの日でも隠し切れない鉄道員オーラでもあるのだろうか。鉄道関係には人一倍詳しい自信があった。電車の説明をしたり駅の案内をしたりするのも仕事柄慣れているので全く苦にならないが、休暇中だということを危うく忘れそうになる。
 自分たちは、今、休暇中だ。それを胸に刻み付ける。部下から『お願いですからお二人とも休んでください』と頭を下げられるほど溜まっていた有給を、兄弟揃って少しずつ消化中なのだ。ただクダリだけは、部下が自分たち二人をどうしても休ませたい理由のうちの一つを察していた。
 
 今から約一ヶ月ほど前。いつも通り勤務していたはずのノボリが、忽然と姿を消した。
 いなくなったと分かったクダリが寝ずにギアステーションを隅々まで探したが、どういうわけかどこにも見つからない。その翌日には、クダリはマルチトレインの運行だけを止める判断をした。一人でシングルとダブルを担い、休日には一人でイッシュ地方のあちこちへ行ってノボリを探し回る日々が続いた。警察にも相談をした。今までノボリと全く同じ数値だったクダリの体重が減り始めた頃──つい先日の話だ。ノボリは突然帰ってきた。普通にホーム内を歩いていたところを、職員に発見されたのだった。その日ギアステーションが大騒ぎになったことは言うまでもない。何があったのか詳しく話を聞くと、どうやらノボリは頭を強くぶつけたようで、いなくなっていた約一ヶ月間の記憶が綺麗に抜け落ちていた。よく分からないままどこかに消えて、よく分からないままどこかから帰ってきたノボリを、クダリは念の為病院へと連れて行った。一日かかった検査の結果、身体にはどこにも異常がなかったので、ノボリの希望通りそのまま仕事へ復帰することになった。
 とは言え、一ヶ月間もノボリの分まで二倍の仕事量をこなしていたクダリと、一ヶ月間も姿を消していた──しかも頭をぶつけてその間の記憶がないと来た──ノボリを心配する職員が大勢いたのも事実だ。そして数多く勤めている職員の中でも古株のクラウドが代表となって二人に頼み込み、この際だからと有給を取る流れになったのだ。
………良かった。ノボリ、元気そう)
 なるべくバレないようにこっそりと、さり気なく、クダリはノボリを横目で見る。間違いなく自分のよく知るノボリがそこにいて、クダリは安堵の溜息を零す。ノボリの顔を見ることで自分を安心させるのは、今日で何度目だろう。またノボリと共にサブウェイマスターをやれることに心から喜ぶクダリだったが、一度その胸に巣食った不安は、そう簡単には消えてはくれない。
 
 列車を待つノボリとクダリの後ろに、仲が良さそうな女性三人組が並ぶ。聞き耳を立てるつもりはなかったのだが、彼女達の話し声は自然と耳に入ってきた。
「ねえ、ニュース見た? ちょっと前に色違いのポケモンだけが狙われた事件あったよね? それの犯人の似顔絵が公開されてたよ」
「それ、さっき駅にポスター貼ってあったの見つけた。なんか卑怯な手口なんでしょ?」
「色違いの子は生まれつき体が弱いから特別な治療が必要とか、治療の為の研究がまだ進んでいないからデータが必要とか、こっちの不安を煽るようなウソを言うらしいよ。ちょっと考えたらそんなの有り得ないって分かるけど、それっぽい専門用語とかデタラメの資料を並べて話すから、信じちゃうんだって」
「タチ悪~い。ポケモンたちも心配だし、早く捕まるといいね」
 なにやら数日前にカロス地方のどこかで事件があったらしい。背後から聞こえてくる会話の内容に、ノボリとクダリが口を噤んだまま視線を交えたその瞬間だった。ホームにアナウンスが響いた。背後にいる彼女たちの会話もピタリと止まる。
『まもなく■■番線にミアレシティ方面へ向かう列車が参ります。危険ですので黄色い線の内側でお待ちください』
 数十秒もしないうちに、まだ塗装が綺麗な赤い列車が目の前に到着した。話には何度も聞いていたけれど、実際に乗るのは初めての列車を間近で見ることが出来て、二人のテンションは急上昇する。これが空港とミアレ駅を繋ぐ列車! 一体どんな乗り心地なのだろう。座席の座り心地、立っているときに感じる揺れ具合、窓から見える外の景色、つり革の感触、列車に乗って目的地へ向かう乗客の表情。その他挙げるとキリがないが、全てが楽しみだ。胸を弾ませて待っているとドアが開いた。二人は無意識に息を合わせて同時に乗車する。ホームと列車の間にある溝──ちなみにこの溝に落し物をする乗客も多い──を跨いだとき、乗り込んだ車両が人の重みでほんの少し傾く瞬間が好きだった。
 列車が出発するまでの間、ちょっとした探検気分で車内を歩いていると、床に視線を落としたノボリが何かを発見した。紙のチケットに見えるそれが誰かに踏まれてしまわないよう拾い上げて、ノボリは目を見張った。なんと、これは、もしかしなくても。時間が止まったみたいに突っ立ったまま動かないノボリに、クダリがそっと寄り添う。
「ノボリ。それ落としたの、あの子かも」
 教えてくれたクダリの視線の先を目で追うと、この辺りでは珍しい濃紺色した長い髪の小柄な少女が前を歩いている。ノボリは拾ったチケットを渡す為、少女の後を追い掛ける。少女は自身の落し物に気付かないまま、後ろの方のボックスシートへ向かっていた。やがて進行方向を向いた窓側席へと腰掛けたところを、すかさずノボリが声を掛けた。当然ノボリの後ろからはクダリがついて来ている。
「失礼いたします。こちらを落とされたようですが、あなた様のもので間違いないでしょうか?」
 ノボリが手に持っているのは、今はもう使われていないTMVパスと呼ばれるチケットだ。少女は最初ポカンとした表情でノボリの顔を見つめていたが、すぐに自分の膝の上に乗せていた黄色いボストンバッグの中を確認した。ない。ちゃんとカードホルダーに挟んでいたはずなのに、ない。思い当たる節があるとしたら、空港とミアレ駅を結ぶ列車に乗る為にそれが必要だと勘違いして、改札口で出したときだ。そのときからバッグが開いたままだったのか。ボストンバッグの中を掻き回すように探し始めて十秒ほど経ってから、ノボリの手にあるものが本当に自分のものであると少女は理解した。焦った少女は急いで立ち上がる。
「えっ! あ! すみません、あたしのです! いつの間に落としちゃってたんだろう……
「きちんと持ち主の方へお届け出来て良かったです。そちらのチケットはもう、今では入手出来ませんから」
 チケットが元の持ち主である少女の手に戻ると、ちょうどそのとき出発時間になったようだった。ドアが閉まります、ご注意ください。ノボリもクダリも言い慣れている車内アナウンスが流れた後、全てのドアがスムーズに閉まった。列車がゆっくりと走行を始める。カロス駅へ向かって走り始めた列車内で暫く三人は見つめ合っていたが、クダリが少女に席へ座るよう促した。
「急に話しかけてごめんね。揺れると危ないから座って」
「あ、確かにそうですね。……もし良かったらお二人も、そこ空いてるのでどうぞ」
 少女は自分の目の前にある席を掌で指し、相席を持ち掛ける。他にも空いている席なら沢山あるので、必ずしも同じボックスシートに座る必要はない。ここでお礼を言って、さよならでも良かったはずだ。しかし少女は落とし物を届けてくれた、とびきり丁寧な口調で話す男──ノボリを、どこかで見たような気がしてならなかった。ただそんな気がしているだけなので、具体的にどこでと訊かれたら答えられないのがもどかしい。既視感の正体を探るためにも、ミアレ駅へ着くまでの間だけでも話してみたいと、少女は強く思った。
「わたくしどももご一緒してよろしいのですか?」
「今からノボリ、鉄道の話すごいすると思うよ。たぶん駅に着くまでずっとする。空港からミアレ駅まで結構距離あるけど大丈夫?」
「お待ちくださいまし、クダリ。それではわたくしだけが浮かれているようではありませんか」
 クダリのお茶目な警告に対して、隣に立つノボリがさっきから瞬き一つしない無表情のまま、爽やかな明るい笑い声を上げた。なんかクセの強い人たちだなあ。そうは思っても声には出さずに飲み込んだ少女が、クダリの笑顔に負けない可憐な笑顔で返事をする。
「船には何度も乗ったことあるんですけど、鉄道は詳しくないので、是非色々教えてほしいです! それにこれを届けてくれたお礼がまだ言えてないですし」
 話しているうちに線路の上を走る列車の揺れが徐々に激しさを増してきた。普段から地下鉄で激しいポケモンバトルを繰り広げているサブウェイマスターの二人からすれば、この程度なんてことない揺れではあるけれど、少女の申し出を蔑ろにするわけにもいかない。ボックスシートで向かい合わせになり、膝を突き合わせて座ると、クダリが囁き声で目の前の少女に言った。
「寝たいときはぼくに向かって3回瞬きして」
 今からよっぽどすごいマシンガントークでも始まるのだろうか。少しだけヒヤりとしつつ、少女はクダリと目を合わせながら苦笑を浮かべて頷く。しかし、初めて乗る列車と旅行そのものに浮かれているのはノボリだけではない。当然クダリもはしゃいでいるので、実際はクダリの口からもなかなか止まらない鉄道トークが始まるのであった。