りあ
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空白に餞

スグリ視点、番外編から少し時から経過した時。
交換留学を終えてパルデアに帰るアオイを見送ったスグリが、アオイの思い出の先に進む話。
モノローグかなりながい。




閑話 空白に餞(アオイ視点)



……スグリ、元気にしてるかなあ」

ところ変わって、パルデア地方のアカデミー。
アオイのブルーベリー学園の留学が終わって早くも一月が経過しようとしていた。

帰ってきて早々、留学に関するレポートやら、貯まっていた授業やら定期テストの準備やらでアオイは慌ただしかった。
パルデア地方のチャンピオンランク、学校代表の留学生。単位は落とせない。落としたくない。
アカデミーにいたペパーやボタンたちからノートをいっぱい借りてちゃんと復習しなくてはいけなかった。
アオイは学内の自分の部屋でにらめっこしていた授業ノートから顔を上げ、大きく伸びをした。


……勉強は嫌いじゃないけど、ずっとは疲れるなあ。
留学期間は留学を良いことにブルーベリー学園のテラリウムドームに居座っては駆け回れたんだけど。
……スグリ、元気かな。

ブルーベリー学園を考えると、次に思い出すのはやっぱりスグリだ。
あれから手紙も、ゼイユ経由のメッセージも来ていない。
ちゃんとご飯食べてるかな。いつも通りポケモンバトル楽しめてるかな。

……別れ際に渡したものも、ちゃんと分かってくれたかな。


……スグリは変わった。
ポケモンバトルだけに執着しなくなって、ちゃんと相手を見て話すようになった。わたしの前でも。
お互いに言葉が足りなくてすれ違ったからか、すごく丁寧に接してくれるようになって、優しく笑うようになった。林間学校の時よりももっと楽しそうにバトルするようになった。カジッチュも交換してくれた。
その時は良かった、って思っただけだったはずなのに。
何度も何度も会ってる内に分からなくなってしまった。
「これ、ただの友達かな」って。

留学最後の日が近づくにつれ、その疑問は「ただの
友達じゃない」になった。

友達はたくさんいるけど、スグリは誰とも違う。
バトルだけじゃ仲直りはできないように、足りないものがあるって気づかせてくれた人だ。
わたしが当たり前だと思ってやってきた行動を、あり方をじっと見つめて問い直してくる人だ。
だから私、スグリがいると自分のことが分からなくなるんだ。
友達は友達でも、もう違うかもしれない。
……恋なのかは、まだ分からないけど。


留学最後の日は何をしようかとても迷った。
スグリに伝えたいことがたくさんある。でも自分の気持ちも言葉もまとまらなくて、少しこそばゆくて……

散々考えた挙句に、思いついたのは写真に空白の日付と花をヒントに添えて送ることだった。
たくさんの思い出と共に、1枚だけ自分のアカデミーの前で撮った写真。
スグリに送るのに、自分一人で映るだけなのは違うと思って、スグリから貰ったカジッチュと、あの日と似た朝焼けの時間に。
……「スグリとの思い出も宝物なんだよ」って。
「スグリと離れて終わりじゃ、わたしは嫌だ」って。
だから「スグリがここに来る日を決めて」って。
「わたしのところにも来て」って込めて。

……ワガママかな。
流石にちょっと言葉が足りなすぎたかも……
でもあれ以上良いのが思い浮かばなかったし。……あと渡し方雑だったかもしれない。
じゃじゃーんって堂々と渡しちゃえばよかったかなぁ。
思考がぐるぐるする。持っていたペンもついでに指の上をくるくる踊る。
吐いたため息はペンで空気とかき混ぜられて溶けていく。

……ロトロトロト……
「わあっ!?」

突然スマホロトムの着信音が鳴った。画面を見るとゼイユからだ。パルデアに帰ってきてからも何度かメッセージはやり取りしてるけど、通話は初めてだ。
勉強は後で!とペンを嬉々として放って通話開始のボタンを押した。

……もしもし?ゼイユ?」
『あ、アオイ……?』

画面の向こう側からゼイユよりも丸い声が聞こえた。その声は……

「スグリ!?」

画面には最後に会った時と変わらない少し変わった気もするスグリが立っていた。
ちょうど思い浮かべていた人が出てきて、今度は違う心臓の音がした。
ちょっと前まで隣にいたはずなのに、今は画面の向こう側。会えて嬉しい気持ちの中にほんの少し寂しい気持ちが一滴混ざる。

「なんか……こう見ると久しぶりだね。元気?」
『あ、うん、アオイも……えと』

なんだかスグリがぎこちなく、気まずそうな笑みを浮かべてチラチラ後ろを気にしている。
スグリの背中の後ろには、ゼイユやタロ先輩……リーグ部の主要メンバーが含む全員がリーグ部で出揃っていた。ネリネ先輩やアカマツは各々、笑って応援してくれるようなジェスチャーを送ってくるが、ツバっさんとゼイユはニヤリとしながら何か言おうと口パクをしている。

何を言ってるんだろ?……あ、タロ先輩がみんなを押し退けて出てっちゃった。
出会った最初はどこか距離があったリーグ部も今となっては、というかわたしが離れた今も和気藹々としてていつも通りだ。
……ちょっといいなぁ。

「ふふっ、変わらないね」
『んだな……って違くて。えと、話したいことはそれじゃなくて、いや、話したいことさあるけど、そうじゃなくて……

さっきまで苦笑してたのに、今度はなんだかいつもよりしどろもどろだ。
画面の向こう側で軽く目を瞑って唾を呑み込む音がした。

……封筒さ、見た」
……!うん』

……あ、来るかもしれない。
私が渡した、空白の手紙の答えが。


『写真、ありがとう。林間学校で俺の代わりに撮ってくれてたのも、そうじゃないものも。アオイとの思い出、わやいっぱいで嬉しかった』
……うん」
……最後の写真も花も、見た。多分……アオイが伝えたかったことも、全部』

そっか、そこまで見たんだ。それをちゃんと対面で報告しに来たのがスグリだなと思う。
──ちゃんと伝わってるかな。
伝わってても「無理」って断られるかも。
……また、ぎこちなくなるのは嫌だな。
急に不安になった。

『アオイ。これが、俺なりの答え』

スグリは机のペンを1本取り出して、何かを書いていく。画面越しに手元は見えない。
一枚の写真。
小さな花の横の日付は、埋まっていた。

『次は俺がアオイに会いに行く』
……!」
……これ、次の交換留学の日付』

分かってくれた。気付いてくれた!

『空白の日付と花で、こうかなって。俺だけじゃ無理だったから、周りに教えてもらったけど』

スグリは眉毛を下げて笑う。
言葉にしたくてもできなかったメッセージを、ちゃんと考えてくれたことが嬉しい。

「『留学するのに成績優秀じゃねえといけなかったから、俺けっぱってまたチャンピオンになったんだべ』
「えっ!?早いね!?」
『1回なってるからな』

スグリがくすくす笑う。
ほんとに早い。1ヶ月で……
スグリは目的が決まったら行動するのが早いけど、まさかそこまでしてくれるなんて。

『──な、アオイ。俺元々、アオイに会いに行く予定だったんだ。……林間学校が最後だと思ってたから。でも、アオイがいつも先に俺のとこさ来てくれたな』

……そうかな。そうかもしれない。
ただ行きたい先に、仲直りしたい相手にスグリがいたから。
スグリのことをもっと知らなくちゃいけないと思ったから。
でもわたしがブルーベリー学園に行かなかったら、スグリが先に来ていたら。
スグリのことをもっと知ることができてなかったら。
その時は、今みたいに仲直りできなかったかもしれない。

『これが返事になるかはわかんねっけど。今度は、今度こそは……俺がアオイの横で、アオイの世界を見たい』

スグリがわたしの世界に、だなんて。
そんなの。
──最高に嬉しくて楽しみに決まってる。

……来てくれる?」
『もちろん』

当然のように笑って返してくれる。
スグリは、わたしが言えなかったものまでちゃんと拾おうとしてくれる。
当たり前にわたしと一緒にいようとしてくれるのが、好きだ。

「スグリと行きたい所、たくさんあるんだよ」

アカデミーだけじゃない。テーブルシティで遊びたい。キタカミみたいに自然を巡りたい。一緒にご飯を食べてほしい。
それに、ネモたちだけじゃなくてわたしがパルデアで出会った色んな人達にも会ってほしい。
わたしがパルデアでもらった宝物を全部ぜんぶ、スグリにもあげたい。

『ほんとにいっぱいだなあ』
「あ、あとエリアゼロも!」
「エリアゼロも?」
「スグリと一緒ならどこだっていけるよ」

スグリがいたらもっと前に進めるから。
スグリは眩しそうに目尻を下げた。

……んだな』
「だから……待ってるからね、スグリ!」
『うん。待っててな、アオイ』




きっとこれからは、最高の旅の続きだ。