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河童の皿箱
2026-05-28 22:17:57
3326文字
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遊戯王:短め(2026年)
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景色
インヴォーカーがP.U.N.K.に保護されるだけ
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その男は、確かに金を持っていなかった。いや、金は持っていたが、ここらでおいそれと使える通貨ではなかった。曰く、今まで通ってきたところでは使っていたものだというが、如何せんそれでは結局、一文無しに変わりはなかった。絵師たちは男に衣食住を提供する代わりに、ある程度の仕事を任せることにした。人形師が大量に買い込んだパーツの整理である。どれもこれも重量があって、なによりそれこそ山のようであったが故に、絵師たちもまた、蔵に運び込むのに苦労をしていたところであったのだ。細かい仕分けは人形師自身が行い、男がそれを蔵まで運んで、指定された場所に整理する、という単純な仕事ではあったものの、人出が多ければ多いほど良いのは確かであった。他、街に繰り出す際についてきてもらえば、面倒くさい事柄のほとんどが何も起きなくなったのだった。それもそのはず、この男、記憶を失っていると言えども、その体躯と人相だけでたいていのチンピラを圧倒出来てしまったのだ。特に幼い能楽師たちは可憐故に標的にされることも多かったため、こうした護衛を確保できたのは、絵師にとってもまたとない僥倖であった。
とはいえ、日ごと日ごとに、絵師は男の事情を知った。この男は実に、実に、様々な世界を巡って来たのだと。どこから来たのかはわからない。ただ、その場所を目指したいことだけはたしかで、男の足は、そのために動いているようなものであった。男はこれまでも、辿り着いた先で戦いを求められれば兵士として戦い、茶会を求められれば客人として茶会に参加し、そのような旅を続けてきたのだという。その旅路もまた奇妙で、地続きの大地を歩いてきたのではなく、一定の場所から、一定の場所へ一気に飛んでしまうのだと。しかしながら、この男はサイキックなどではない。テレポートなど使えもしない。しかしながら、絵師たちもその原因ばかりはわからなかった。
「戦乱の世は居心地が良かった。ただ剣を振るって、戦っていればそれでよかった。だが、死の恐れがない場所を求めていたのは確かだ」。
「あの菓子は旨かったが、茶会はどうにも居心地が悪かった。なにせ、あれだ。あいつらは
…
そう、人形の様だった。頬が丸くて、目が大きくて。あー
…
妖精のような。
…
その中に俺だぞ。どうにも場違いな感じはぬぐえなかったな」。
「お前たちは
…
あぁ、あのチビっこの
…
セアミンを見ると、特に思うが
…
あいつみたいな、袖の長い服を着て、舞い踊る
…
巫女、だったか。そういうところにも居た。
……
小さい女ばかりだった」。
「それにだ。お前たちが持っているような道具に似たものを、他の場所でも見た。あれはたしか、そういう
……
大会だったか。バケモンと、女とが、本気でボールを取り合うんだ。戦場みたいなヒリつきのくせして、終わったらこう
…
手を叩いたり、背を見せたりしていた。俺は結局、どれがどんなルールだったのか、理解できる前に離れちまった」。
男はそうして、絵師に自分が旅をしてきた場所のことをよく話した。絵師はその話をもとに、いくつかの風景を描きだすことにしてみた。戦乱の世には、どんな建物があったのか。菓子の国の王女様は、どんな感じだったのか。巫女の身なりは。大会の会場は。仕事の合間、男の足跡を辿っても、あるところでぷつりと途切れた。その年より前が、全く分からないのだと。絵師は頭を抱えたが、けれど男は、絵師が描きだしたその風景をいたく気に入り、その絵を懐にしまい込んだ。
「何時かは、俺の故郷に。俺が旅をしてきた先を、見せられたらと思う。
…
その故郷もわからないんだから、滑稽かもしれないが。そう思うんだ」。男の言葉に、絵師はふっと微笑んだ。「なら、俺たちの事もちっとは話してくれよ」と突いてみれば、「話すだろうな。ここの街並みは、空が見えないぐらいだ。夜の癖して眩しすぎる。平和面して物騒だ。見た目綺麗でも足元はドロついて
……
お前たちは、ここが故郷なんだな」、と。その言葉に、絵師は描いて笑う。「そうだな。あちこち行くけど、戻って来るのは結局ここだ。年喰って腰を落ち着けんなら、今んとこはここらだなぁ」、と。男の顔に刻まれた傷と皴を眺めても、けれど絵師は描き終わった絵をプリンターに飛ばしては、印刷する。出てきた絵を男が眺めれば、それもまた満足気で。
「なあ、お前さ。故郷に帰れたら、故郷の風景を教えてくれよ。また俺が描いて、もう一度お前が忘れても思い出せるようにしてやっからよ」。なんて。そんな言葉に、男は破顔しては。「なら、余計に帰り道を探さないといけないな」、と。
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