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2026-05-26 13:47:35
5360文字
Public 高諸
 

スポットライトのその先へ

忍ミュで脳が焼かれた役者パロ

スポットライトが当たる。
光の熱さで汗を滲ませた尊奈門は、舞台上では自分以外のものになりきって演じていく。この台の上に立てば、常に自分との戦い。
同じ舞台上に演者がいたとしても、彼らは敵でも味方でもないと、そう思っていた。

『もう、ここまでなのか……

尊奈門が絶望して膝をつけば、観客たちは息を飲んだ。舞台はクライマックス。絶望して武器すら手放した尊奈門が生き残る道はないのだと、誰しもが固唾を呑んで見守っている。

『武器を取れ、俯くな。私の弟なら、こんなところで諦める軟弱ものではないはずだ』

その声は、たった一言で悲壮的な空気を払い除けた。
尊奈門は顔を上げる。
舞台の中央に颯爽と現れたその人物から、目を逸らせない。演技のセリフである言葉に、ここまで心を奮わせられたのは初めてだった。

ずっとずっと、いつか共演したかった人。
その人が兄役として自分を導いてくれるのが、ここまで頼もしいものだったなんて思わなかった。

「勿論でございます、兄上!」

武器を握り直して立ち上がれば、その人が自分を振り返る。自分を見据える視線はなんとも、優しく温かいもので。初めて、この舞台の上で、自分は独りで戦っているのではない。そう思えた──。

スポットライトのその先へ



『今回、シリーズとして歴史が長い忍劇において、お二人はタソガレドキという新勢力での参加になりました。意気込みについてお聞かせいただけますか?』

公開を明日に控えた忍劇に、尊奈門は初めてキャストとして舞台に立つことになった。役者としての経歴は物心つく前からあり、演技に自信がある尊奈門でも、忍劇は簡単に参画できないことで有名な演目だった。

それが今回、初めて主人公たちの所属する学園と敵対する組織『タソガレドキ』の一員として抜擢されたのだ。
そのオファーが来た時のことは今でも忘れない。それだけでも嬉しかったのに、同じ組織に属する配役の名に見知った人物の名前を見つけたから。

『では、まず高坂さんの方から、よろしくお願いします』
「はい。新勢力ではありますが、隣の諸泉さんをはじめ、ベテランの雑渡さんや山本さんも一緒だったので、気負うことなく参画できたと思います」

記者の質問に対して堂々と答える人物は、尊奈門の兄役を演じる高坂だった。そう、尊奈門は彼との共演とあって、いつも以上に気合を入れてこの舞台に臨んでいた。

二人に接点があることなど、世間は知らない。
それに、二人とも今までインタビューで交友関係を聞かれたことがなかったので、交友関係があることを公表したことはなかった。

その高坂と初めての共演。
しかも同じ組織に属する仲良し兄弟の役だった。まるで普段の自分たちのような配役に、尊奈門が浮かれないわけもなく。だからこそ気を引き締めてこの舞台に挑んでいるのだ。

「俺も皆さんと一緒の舞台に立つのは初めてでしたが、昔からの仲間みたいに結束力があって。だから、学園側に隙があれば、俺たちタソガレドキが喰っちゃうぞってつもりで演技してました」

思わず、マイクを握る手に力が入る。それを誤魔化すように、にこやかに言葉を紡げば、記者は満足気に、ありがとうございますと、言いながら次の記者にマイクを渡した。

「次の質問です。今作の見どころについて、それぞれ教えてもらえたらと思います。高坂さんから」

淡々とした記者の質問が続く。ゲネプロではよくある質問に、マイクを構えた高坂は、見どころ、と一瞬考えたのち、すぐに口を開いた。

「はい。見どころ、ですね。もちろんメインは忍者の卵たちである学園の子たちの成長ですが、私にとっては諸泉さん演じる弟の成長が垣間見られる部分が多く。みなさん、そちらにも注目してもらえたら嬉しいです」

まさか、自分の演技について言われるとは思ってなかった。普通、こういうのは自分を売り込む絶好のチャンスなわけであって。
びっくりして、言葉の意味を理解すればするほど、照れで顔がじわじわと熱くなってくる。
何も言い出せない自分を急かすように、記者が次、諸泉さんお願いします。と言葉をかけてくる。

ハッと慌てて尊奈門はマイクを構えると、最初に答えるつもりだった見どころなんてすっぽ抜けてしまっていた。

「わ、私も!高坂さん演じる兄上が、常に強くてかっこいいのでお気に入りの場面がたくさんです!みなさんもぜひぜひ、兄上のお気に入りのシーンを見つけてくださいね!」

言いながらなんとか冷静さを取り戻した尊奈門は、最後に笑顔でカメラに向かって笑いかけた。
こういうことをするなら、先に言ってくれればいいのに。ちらっと高坂の方を見上げるが、彼は素知らぬ顔で記者陣の方を向いている。文句は取材の後まで我慢だ。

「今作の見どころは、お互い、と言うことですね」

記者は興奮気味にメモをとると、再びマイクを構えていた。予定していた質問はここで終わりのはずだが、先ほどの高坂と尊奈門の回答を聞いて、経ってもいられないというように質問を続けた。

「お二人、今回が初の共演ということですが、仲がいいんですね」

確かに、側から見たら初共演。
稽古があったにしても知り合ってから数ヶ月しか経ってない自分たちは、世間から見たら思った以上に仲がいいのだろう。それに、高坂はあまり人と馴れ合う発言も少ないし。
なんと答えたものか、と考えたところで、尊奈門は先ほどの高坂への仕返しを思いついた。

「もちろんです!大好きな兄上なので!」

隣にいた高坂の腕に思いっきり抱きつきながら答える。高坂のキャラではないが、尊奈門はもともとの愛嬌と、お兄ちゃん大好きな弟役なので、これくらいのファンサは許される範囲内のはずだ。
高坂の動揺が見えないのは残念だが、記者陣たちの押し殺すような「可愛い」の囁きが聞こえたので十分だ。
怒られる前に離れようとした、その時だった。

ということです」

尊奈門の頭を撫で回しながら、高坂が静かに答えた。
そのあまりに優しい手つきに、尊奈門の頭が真っ白になった。あちこちからシャッター音が聞こえる。
まさか、こんな人前で撫でてもらえると思ってなかった尊奈門は、一気に照れて先ほど以上に顔が熱くなった。
質問をしてきた記者は、さらに興奮したように慌ててマイクを構え、

「高坂さんにとっても諸泉さんは可愛い弟、ということですね」

と言ったところで取材はお開きとなった。