もち粉
2026-05-20 22:14:50
5280文字
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うわさの奥様


カブミス モブ視点
幼妻だと思われてるミスさん
※カブの結婚相手は公にはしていないため、外では「妻」と呼んでいます。(古株の人なら知っている)

「効果は抜群だ」の続き

我らが上司は愛妻家で有名だ。何かといえば、妻がどうしたこうしたと、とろけそうな顔で話している。
褐色の肌に黒い巻き毛、鮮やかな青い瞳の宰相補佐殿は、三十七歳。脂も色気も乗り切ったイケオジで、同性のおれの目から見ても、将来こうなりたいと思えるいい男だ。内心ちょっと憧れている。

しかしその憧れのイケオジは今、机に上半身をべたりと伏せて、情けなく奥様不足を訴えている。
「もう一ヶ月半くらい会ってないんだよう。愛が……足りない……。触りたい。なでなでして、ぎゅーしたい……

……それは奥様に直接言ってくれ。おれにはどうにも出来んので。

彼はここの所、そこまで忙しくもないのに連日遅くまで城に残っている。
上司が残っていると、こちらも帰りにくい。だから今日こそ早く帰らせようと「奥様が家で待ってるんじゃないですか?」と聞けば、「今いないんだよー」と机に伏せてこうなってしまった。これが来年には正式に宰相職を継ごうという人である。メリニの明日はどっちだ。

彼の愛しい奥様は、どうも頻繁に長期で家を開けているらしい。療養なのか、奔放さんなのか、それとも実家大好き娘なのかは知らない。
事情は知らないけど、もうちょっと家にいてくれ奥様。そうすれば、忙しくない限りこの人もウキウキと定時ダッシュで帰るから。

おれは主任と目を合わせて頷いた。
「後はおれ等でやっときますから、カブルー様はさっさと家帰って風呂入って寝てください」

「帰っても膝枕がないし……

知らねぇよ!


 ◇

その日は急な会議で、朝からドタバタと資料作りに追われた。
「みんなご苦労! じゃあ行ってくるよ!!」と資料を引っ掴んで飛び出していった上司を見送り、俺と主任と新人の三人は、どっと疲れて椅子に腰を下ろした。
もうすぐ昼だし、今から休憩ってことでいいだろう。だらだらと雑談が始まった。

先月配属されたばかりの新人が、椅子に反対向きに座り、背もたれに肘をかけて話しかけてきた。おい、足閉じろって。一応女だろ。

「ねぇねぇ、先輩方は、カブルー様の奥様って見たことあるっすか? 銀髪の幼妻ってほんと?
……幼妻とか、響きがエロいっすよね」

「お前な……もうちょっと言葉遣い考えろよ、またカブルー様に怒られるぞ」
呆れながら答える。こいつは上司の前でもこんな調子だ。最近の若いのってこんなもの? これで仕事についてはめっぽう優秀なんだから、わからないものだ。
優秀なやつは、場に合わせた言葉遣いも出来るはずだって? それはそう。

主任も苦笑して肩をすくめた。
「私はないけど、勘定課の人が遠目に見たと言ってたね。銀髪なのは確かみたいだよ。
おまえはあるかい? よく書類届けにカブルー様のご自宅行くだろ?」
主任が俺に話を振る。
「いや、それが……ないんですよね」
「一回も?」
「一回も」

「ほんとに存在してるんすか? 非実在奥様では?」
新人が半笑いで言う。
「いるとは思うぞ。奥様からの遣いが来たことはあるし」
そういえば、あの時遣いの件を報告し忘れて、後日結構怒られた。

それ以来上司は、「君たちの教育を急務とする」と宣言して、報連相や言葉遣いに細かくなった。今までその辺緩くて、正直めっちゃ楽だったんだけどな。
でもこっちに難しい案件をちょいちょい任せてくるようになったのは良いことだ。前は、結構一人で仕事抱え込んでしまう人だったからね。

その時、涼やかな声が響いた。