呪里
2026-05-19 18:46:00
3851文字
Public Code_Abyss 本編
 

episode:4 第二幕 〈亜人〉




 「それで?この間の件は何か進展あったのかよ」

 朧が持ってきた紅茶を飲みながら、吠舞羅は飛華に問いかけた。

 「ええ。……二人とも、これを見てくれる?」

 飛華は持ってきていたトートバッグから冊子を二冊取り出し、吠舞羅とゼロに差し出した。

 「ありがと。………聞いてた人数より増えてる気がする」

 二人が受け取った冊子は、今世間を騒がせている『ミカガミサマ』による行方不明者の名簿。

 以前吠舞羅と飛華が話した際にはざっと数えて五、六十人程だった名簿の人数が、三桁近い数字になるまで増えていた。

 「なぁ……いくらなんでも増えすぎじゃねぇか?前に見たのなんか半月くらい前じゃねえかよ。」

 「ん確かに。吠舞羅が見た時のって、噂が広まり始めてから二、三ヶ月の事のやつでしょ?」

 ゼロと吠舞羅は、冊子を見ながら互いに眉間みけんしわを寄せる。

 「そうね。二人がそう思うのも無理はないわ。私だっておかしいって思ってるもの」

 飛華は警察と連携をとりながら、行方不明者の詳細についてまとめている。

 日が経つにつれ一人、また一人と被害者は増えていく一方だった。

 「…………

 ゼロは名簿をじっと眺めていると、自身の中に違和感がしょうじた気がした。

 「ねぇ、飛華」

 「なぁに?」

 「今ここに書いてある人の名前ざーっと見てみたんだけさ」

 「えぇ。何か気になるところがあった?」

 「うん。この人達の三分の一くらいさ……




























 「私や吠舞羅と同じ、《亜人》だよね」

 「は?」

 ゼロの発言に吠舞羅は思わず声がれた。

 「………よく分かったわね」

 「亜人の名簿はAbyssうちにもあるからね。見た事のある名前が何人もいたからもしかしたらって………

 ゼロは立ち上がると、鍵付きの引き出しから一冊のファイルを取り出し、吠舞羅に差し出した。

 「吠舞羅も見たら分かるよ」

 吠舞羅はファイルを受け取ると、冊子と見比べながら名前をざっと見てみた。

 「………マジじゃん」

 冊子とファイルから視線を外すと、吠舞羅は大きくため息をついた。

 「だからお前、俺らが危ない橋を渡ってるって言ったんだな」

 ゼロへ視線を向けると、ゼロは小さく頷いた。

 「……ん。私も吠舞羅も、《亜人》だから。じっとするにしても動くにしても危険がある」

 ゼロ達《魔島まじま姉妹》と吠舞羅達《煤臥彋嫘すすがくれ兄弟》は揃って《亜人》である。

 「まぁ俺らは最悪自分らでどうにか出来るとは思うが……

 「問題はれんちゃんと狂牙きょうが君よ。二人は《ランク》が高くはないから」

 《亜人》と《異種族》には、強さに応じた《ランク》が付与されている。

 ランクは最低の〈D〉から最高の〈S〉の五段階に分類され、飛華と吠舞羅は共に上から二番目の〈A〉、ゼロは最高ランクの〈S〉だ。

 「そうだな。あいつらは揃って〈B〉ランク。〈固有魔法ギフト〉も戦闘向きじゃねぇし、互いになにかあった場合一人でどうこう出来やしねぇよ」
 
 「………

 吠舞羅の言葉に、ゼロは袖で隠れた両手をグッと握りしめる。

 「憐、仕事休ませて家に居させた方がいいかな」
 
 「そうね。今の状況で憐ちゃんはあまり外に出さない方が良いと思うわ」

 「分かった。後で帰ったら話しておく」

 「俺も、狂牙アイツにもしばらく学校以外極力外出んなって言っとくわ」

 吠舞羅は立ち上がり、不安そうな顔をするゼロの頭を少し強く撫でた。

 「……ちょっと痛い」

 「そう辛気臭しんきくせぇ顔すんなって。俺らがついてる。な?」

 吠舞羅はふっと微笑む。

 「そうよゼロ。私達でこの事件、さっさと解決させちゃいましょ?」

 飛華も同様に立ち上がり、袖で隠れたゼロの両手をぎゅっと握った。

 二人の優しい眼差しを見ると、ゼロの内側にあった不安が少しずつ消えていく気がした。

 「……そうだね。二人とも、ありがと」

 ほんの少しだけ、ゼロの口角が上がる。

 飛華と吠舞羅は互いに目を合わせ、小さく頷いた。

 「それじゃ、本格的な作戦会議でもしましょうか」

 「そうだな。各々おのおのの組織の動きとか決めておかねぇとな」

 飛華と吠舞羅は先程まで座っていたソファに体を向ける。

 「ほら、ゼロも」

 吠舞羅はゼロに手を差し伸べた。

 「………うん」

 ゼロは吠舞羅の手を取りソファに向かうと、再び話し合いを始めたのだった。
































 暗くよどんだ世界の中

 誰かが小さく泣いている

 体の自由を奪われて

 何度も 何度も 何度も

 涙をこぼして泣いている





























 今日もまた 使われる

 知らない誰かを《さらう》ため

 力を我がモノとするため

 拒否する権利などある訳が無く

 見ず知らずの誰かを引きずり込む
























 「…………………………ごめんなさい」