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愛しのマオミー(香氷)

#香氷春のキス祭り

 アイスって猫みたいだよな。
 フワフワの真っ白な毛並みの白猫。いや、雪に埋もれて見えなくなってしまうかもしれないから、目立つ模様、たとえば片目の周りにぶちがあるのはどうだろう。猫としては小さめで、尻尾が短くて、耳は立ってる。
 構うとするりと逃げていくくせに、放っておくと気まぐれに寄ってきて、「みーにゃ」なんてひかえめに鳴く。
 なかなか腹を見せてくれないけど、機嫌がよければ足だって触らせてくれる。
 寂しがりやで、人に慣れると甘えんぼうで、かわいい猫だ。
「なに笑ってるの、香」
 よそ事を考えていたからか、アイスが唇を離して問いただしてくる。後を追って口づけようとすると背を反って逃げられた。やっぱり猫っぽい。猫と違うのは、一度拗ねたら香が一生懸命弁明するまでずっと拗ねていることだ。香はアイスの腰をぐっと抱き寄せて腕に閉じ込める。
 というのも、香がソファにだらんと座っていたら、アイスがそばにやってきて、じゃれているうちに膝に乗ってきたという、いわゆる対面座位の体勢だったのだ。二人ともきっちり衣服を着込んでいるままだからちょっぴり気恥ずかしさもある。盛り上がるかどうかは審議中。
「アイスのこと考えてた的な。許して?」
「ほんとに?」
 疑り深く濡れた唇をとがらせるアイスだが膝から降りようと腰を浮かすのはやめたので、すとんとそのまま体重がかかる。香よりも身長がほんの少し低いとしても、軽すぎやしないだろうか。アイスのつま先と自分の足を絡めるように密着すれば、全身にうねるような熱が末端から伝わってくる気がする。
「ほんと。アイス、猫みたいだなーっと」
「意味わかんない」
「KAWAIIってこと。ね、キスしていい感じ?」
……好きにしなよ」
 アイスは早々に思考を放棄したようで、ひたいを香に当ててささやいた。なんだかんだ物足りなかったらしい。アイスの満足にいくよう、香は舌を差し出した。
 ぴちゃ、と湿った音が合図。
 香の舌をアイスが呑み込むみたいに食む。ちうちうと誘い込まれたのでアイスの口内に侵入して、アイスが好むようにあやしてやる。下顎をなぞるとアイスの肩が震えた。キスをしながら背中を撫でられるのがアイスは好きだ。神経の集まる舌を弄ばれているからか、ささいな刺激に敏感になっている。どちらとも知らない唾液が垂れていくのも気にせず、角度を変えながら、何度も息継ぎをした。
 背中を甘やかす指で背骨の線をなぞるように遊んでやると、ビクビクとアイスが反応を示す。
「ンっ……
 鼻にかかったような音が喉からこぼれ落ちていく。飲み込みきれなかった唾液が口内に溜まって、口元が汚れるのも構わずに相手に押し返した。アイスは男にしては華奢、ではあるけれど、案外にパーツはしっかり男のもので、喉仏が香の息づかいに合わせてとくりとくりと上下しているらしいのはたまらない。
 キスのときはまぶたを閉じるのだと、香が教えた通りにするアイスの睫毛は寒さに凍ったような色をしていて、ときどきふるりと雫をこぼした。
 舐めたい。きっとアイスクリームみたいな甘い匂いがするにちがいない。
……はっ、香……?」
 香はいったん唇を離してアイスの頭を抱き寄せ、目じりに舌を押しつけた。涙の跡を舐め取り、まなじり、耳、頬、それに鼻先、と唇で触れていく。驚きで固まったみたいなアイスはまるで抵抗しないで、ゆっくりとまばたきをした。これもちょっと、猫っぽい。
 ああでも、猫にはこんなことはしない。香は猫も好きだし頬ずりしてかわいがるくらいはするけども、火がついたみたいな熱を分け合うようなことはアイスにしかしていない。
 ちゅっ、と無防備な喉笛に吸い付いて。赤い痕跡をつけた。
「かーわいい、俺の愛しい猫咪(マオミー)」
 血管が透けるような肌がみるみるうちに赤く染めあがる。ぼふんっと噴火したみたいになった。香は面白くなってきて、かわいいかわいいと告げながら口づけていると、やけになったらしいアイスが口を塞ぎにかかった。ぴちゃん、と水音が閉じ込められる。猫だってこういうことはしない。鼻先をつつくくらいならともかく、イヤなら爪でひっかいて、ぬるりと液体みたいに腕から抜け出すだろう。
 アイスが唇が当たるくらいの距離で、惚けたようにささやく。
「香だってさ」
「ん……?」
「猫みたいだよね、甘えたで」
「甘えてるのは否定しませんケド。続き、する系?」
「さあどうだろうね」
 軽く支えられていたアイスが香の首に腕を回してくる。もし猫のように尻尾があったら巻きついてきたにちがいない。隙間を埋めるようにますます密着して、何度となく繰り返されるキスに香も夢中でかぶりついた。